第十九話:扉の向こう、想定外の三者面談
地竜は沈んだ。しかし、要塞の外では依然として魔族の軍勢が防壁を削り、北方では東北弁のS級少女が「どさ! 湯さ! いや戦場だべ!」と叫びながら大斧を振るっている。
「……ミリィ、もう限界よ。今の私たちじゃ、魔王の軍勢を正面から押し返す魔力が足りない」
リリアーヌは決意を固めた。女神から与えられた、一生に一度の特権。外界の時間を完全に停止させたまま、納得するまで修行を可能にする**「真・精神と時間の部屋」**。
「私は部屋に入るわ。一人で魔力を回復し、さらに次の術式を練り上げてくる。……くまちゃん、一緒に行きましょうね」
リリアーヌは、司令官館の自室に隠された「扉」を開いた。くまちゃんを抱きしめ、一人で運命に立ち向かう背中。 だが、扉を閉めようとしたその瞬間——。
「……ん。……一人、寂しい。……私も、行く」 「ミリィ!? なんで入れるのよ!? これ、一人専用のはずじゃ……」 「……ん。……なんか、入れた」
時空魔法の申し子であるミリィには、世界の設定すら通用しないのか。驚愕するリリアーヌだったが、事態はさらに斜め上へと加速する。
ドガァァァァン!!
「な、なにごと!?」
魔族の放った極大魔法の余波か。館の壁が凄まじい音を立てて爆発し、瓦礫と共に「何か」が高速で部屋へ転がり込んできた。
「……すったらずなこごはいっだいどごだべ? 吹っ飛ばされて腰打ったべ……」
頭に血が上ったのか、さらに訛りが強まったS級冒険者の少女である。彼女が転がり込んだ直後、背後で館の残骸が崩れ、異空間への扉が完全に閉ざされた。
真っ白な、何も無い空間。 困惑するリリアーヌ、無表情なミリィ、そして大斧を抱えて首を傾げる東北弁の少女。
「え、ちょっと……なんて言ったの、今?」 リリアーヌの問いに、少女は立ち上がり、パンパンと土埃を払って言い放った。
「んだから、こごはどごだべって聞いたんだべ。おめだぢ、魔族の回し者か? それとも座敷わらしだべが?」
「……座敷わらしじゃないわよ!ていうか何回か会ってるでしょっ!?私はリリアーヌ、こっちはミリィ。……っていうか、あなた、名前は?」
「……あだしか? あだしはモミジだ。北の果てから来た斧使いだべ。……それより、おめだぢの持ってるその『くまちゃん』、いいツヤしてるべな。あだしの村の熊より強そうだべ」
絶世の美幼女(中身はおっさん高校生)、無口な時空魔導師、そして言語の壁が高いS級斧戦士。 本来一人で孤独に耐え抜くはずの聖域が、突如として賑やかな「女子会(?)」の場と化した。
「……はぁ。もういいわ。ミリィがいるなら魔力回復も早いし、モミジ……あなたには私の前世……じゃなくて、とっておきの『物理理論』を叩き込んであげる」
リリアーヌはくまちゃんを白い地面に座らせると、二人(+一匹)に向き直った。
「外界では一瞬、でもここには永遠の時間があるわ。……いい? 外に出る頃には、あなたたちを魔王すら震え上がる『化け物』にしてあげるから。覚悟なさい!」
こうして、要塞の存亡をかけた、史上最も騒がしい「刹那より短く、果てしなく長い時間の修行」が幕を開けた。
・・漢たちの正装、そして悲劇・・
一方その頃、
「……ぬぅん! なんたることか! これでは、これではあまりに無礼……!」
教皇を筆頭とする「聖筋騎士団」の面々である。度重なる激闘により、彼らの衣装はボロボロに引き裂かれ、自慢の大胸筋や広背筋が剥き出しになっていた。
「啓蒙なる信者たちよ! 我らに『正装』を捧げるのです! このままでは女神様に顔向けできぬ!」
民衆は、自分たちを守ってくれた筋肉の巨漢たちに深く感謝していた。彼らは家財の中から、精一杯の「一番良い服」を差し出す。だが、それは当然ながら、屈強な男たちに相応しい**「頑丈な男物の服」**だった。
「「「………………」」」
沈黙が広場を支配する。教皇たちは言葉には出さないが、その隆起した血管が怒りに震えていた。(貴様ら、信仰心が足りぬのではないか!? 正装と言えば『女装』に決まっているだろうがッ!)という心の叫びが、物理的な圧力となって民衆を襲う。
数分後。彼らの「正義」に屈した民衆の手により、要塞中の女性服、果ては子供服までが供出された。 「おお……これぞ真の輝き……」 身長二メートルを越える巨漢たちが、華奢なフリルのついたワンピースや、パツパツのタイトスカートに身を包む。布地は悲鳴を上げ、はち切れんばかりに伸ばされている。中には女児用の**「くまさんパンツ」**を無理やり履き、もっこりが左右から溢れ出している猛者までいた。
「お嬢さん。心配するでない……。戦いが終わったら、ちゃんと洗って返すでな」 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!」
少女の悲鳴が要塞に響き渡る。だが、彼らはそれこそが勝利への祈りであると信じて疑わなかった。




