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第十八話:再会の咆哮と聖女の加護

王都アレスガイアの廃墟。魔族の本隊が去り、知能の低い魔物だけが徘徊する静寂の中、瓦礫が僅かに動いた。


「……ぬ、ぅ……。まだ……死ねん……」


王国武術指導役、バラン。深手を負いながらも、彼は奇跡的に生存していた。だが、傷は深い。バランは這いずりながら、散乱する物資の中から止血に使えるものを探した。 そこで見つけたのは、教皇が捨て去った**「頑丈すぎるズボン」**。引き裂いて包帯にしようとするが、弱り切ったバランの膂力では、デニムのごとき強度のそれはビクともしない。


絶望するバランの目に、次に飛び込んできたのは——半分に破れた**「聖女ドレス」と、あの「黄金のビキニパンツ」**の片割れだった。


「……まさか、これを使えというのか……?」


ドレスからは、持ち主であった「漢」の凄まじい体臭……いや、覇気が漂っている。第六感が「触れるな」と警鐘を鳴らすが、背に腹は代えられない。バランは意を決し、ドレスの布を傷口に巻いた。 さらに縫合が必要な深い傷口には、二分の一の賭けに出た。ビキニパンツの欠片を、**「もっこりの表か、裏か」**を祈りながら、ええいままよと傷口に直接あてがった。


「あらあら~~ん。ここにも熱心な信者を発見だわん♡」


空にハゲ女神アフロヘーアが降臨し、ウィンクを送る。その瞬間、ビキニパンツを当てがった部分のバランの傷が瞬時に塞がった。 「……治った。だが、この癒え方……私は二分の一の確率に敗北し、直に触れていた側に当たったということか……」 バランは複雑な表情で立ち上がったが、もはや迷いはなかった。彼は主君とリリアーヌの行方を追い、南へと走り出した。


王都アレスガイアの廃墟を南へ走るバラン。熟練の索敵技術と勘で魔物との戦闘を極力回避しつつ進むバランであったが、そこへ、一体の大型魔獣クラウド・グリフィンが急降下してくる。万事窮すかと思われたが、バランの傷口に巻かれた「聖女の布」が、アフロヘーアの加護を受けて黄金色に発光した。


「……ギ、ギギィッ!?」


教皇(漢)の凄まじい覇気と女神の奇跡が混ざり合ったその「臭い」と「光」に、誇り高きグリフィンは戦意を喪失。それどころか、聖なる何かに当てられたかのようにバランの前で首を垂れたのである。 「……まさか、乗れというのか。……かたじけない」 バランはグリフィンの背に乗り、主君たちが向かったはずの南へと飛び立った。


ところ変わって、ドワーフ領・嘆きの要塞。


要塞化の突貫工事により、地中深くで眠っていた魔法無効の古龍——**地竜アース・ドラゴン**が覚醒し、要塞内部を蹂躙し始めていた。同時に、要塞の外では王都から南下してきた魔族軍の先遣隊が、完成間近の防壁に牙を剥いていた。


「おめだぢ、ひるむな! 敵が来たべ! ぶっ叩いてやるべし!」


身長の二倍はある巨大な戦斧を振り回し、東北弁で叫ぶのはS級冒険者の少女だ。あまりの訛りの強さに誰も内容は理解できなかったが、彼女が大斧を一振りするたびに魔族の屍が積み上がっていく。


その時、上空を凄まじい速度の影が通り過ぎた。


「……あ、あだっ! 上空ば抜かれたべ! 誰だべ、あの魔物さ乗ってるのは!」


少女の叫びに冒険者たちが空を見上げる。そこにはグリフィンに跨り、黄金の布をなびかせる男の姿があった。 「侵入を許したか!」「いや、様子がおかしいぞ、あの乗り手は……!」


地竜との戦闘は苛烈を極めていた。


リリアーヌとミリィが放つ極大魔法も、地竜の鱗に触れた瞬間に霧散する。魔力による身体強化すら無効化される空間で、リリアーヌは「田中太郎」としての知識を総動員するが、有効な物理打撃手段が足りない。


公爵家の戦闘メイドたちも果敢に斬り込むが、地竜の圧倒的な質量の前になぎ倒され、一人、また一人と戦線を離脱していく。 「……リリアーヌ様、お逃げください! ここは私たちが……っ!」


絶望が支配していた。 魔法を完全に無効化する地竜の前に、リリアーヌとミリィの魔法は効かず、魔力強化を打ち消された公爵家の戦闘メイドたちも次々と打ち倒されていく。 地竜の巨大な顎が、動けないリリアーヌを飲み込もうと開かれた。


「……リリアーヌ様ぁぁ!!」


メイドたちの悲鳴が響く。リリアーヌが死を覚悟し、目を閉じたその瞬間——。メイドの一人が地竜の鋭い爪に弾き飛ばされ、ついに地竜の牙がリリアーヌへと迫る。 万事窮す——誰もがそう確信し、リリアーヌが死を覚悟したその時。


「——我があるじに、触れさせはせん!!」


上空から猛スピードで飛来した大型の怪鳥**「クラウド・グリフィン」**。その背から、一人の男が弾丸のように飛び降りた。


「……待たせたな、お嬢さん」


「……バラン、先生……?」


砂塵の中に立つのは、聖女のドレスを包帯代わりに巻き、黄金の光(と微かな漢臭)を纏った、王国最強の剣士。


「バラン先生! 生きていたのね……生きていてくれたのね!」


リリアーヌの瞳から大粒の涙が溢れる。絶望に沈んでいた避難民たちからも、地鳴りのような歓声が上がった。 公爵家の戦闘メイドたちも目に涙を浮かべていた。

バランは愛剣を抜き放つ。彼は魔法を使わない。彼が極めたのは「武技スキル」と「闘気オーラ」。魔法無効の地竜にとって、最も天敵となる「純粋な物理の極致」である。


「手負いゆえ、長くは持たん。……一気に決めるぞ、トカゲ公!」


地竜が咆哮し、バランが疾走する。 魔法の介在しない、鉄と鱗、そして男の意地がぶつかり合う凄絶な打撃戦。 バランの剣が地竜の逆鱗を捉えた瞬間、巨躯が崩れ落ち、勝利の咆哮が要塞に響く。 バランは剣を収めると、リリアーヌの前で深く跪いた。


「バラン先生……」


リリアーヌは涙を流したままバランに駆け寄る。死んだと思っていた忠義の騎士の生存に、要塞にいたすべての者が歓喜の声を上げた。


「……お迎えに上がりました。……お嬢様」


最強の騎士の帰還。亡国アレスガイアの反撃の火は、もはや誰にも消せぬほど強く燃え上がるのであった。

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