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第十一話:月下の暗殺者と、鋼鉄の魔法少女(マッチョ)

王都の夜は、静寂に包まれていた。 だが、ヴァランタン公爵邸の寝所を守る私、リリアーヌの神経は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。


「……ん。……ネズミが、多い。……屋根に十。庭に二十」


暗闇の中で、ミリィの声が響く。と同時に、窓ガラスを突き破って黒装束の集団が乱入した。帝国の暗部——感情を捨てた「死兵」たちだ。


「ルシウスには触れさせない……!《身体強化・極》!」


私は黄金の魔力を爆発させ、6歳のしなやかな体を弾丸のように加速させた。最短距離で一人目の喉笛を木剣(鉄仕様)で突き、そのまま二人目の鳩尾に掌打を叩き込む。


隣ではバラン先生の大剣が豪風を巻き起こし、セレスティーヌ先生が放つ「土属性」の礫、《ストーンバレット》の連射が暗殺者の急所を正確に撃ち抜いていく。さらに風属性を操り、雷光(雷は風の派生)を纏わせた不可視の刃で敵を切り裂いた。


だが、敵も承知の上だった。彼らは捨て駒。私たちの足を止め、わずかな「隙」を作るための囮だ。


「しまっ……! ルシウス様っ!!」


セレスティーヌ先生が叫ぶ。 囮が時間を稼ぐ間に、最後の一人が、天井から影のようにルシウスのゆりかごへと舞い降りた。その手には、邪神の毒が塗られた黒い短刀。


「終わりだ、勇者——」


暗殺者の刃が、無防備な赤ん坊の喉元に突き立てられようとした、その瞬間。


「——その穢れた手を退けよ、迷える子羊よオォォォッ!!」


ドガァァァン!! と、物理的に壁を粉砕して「それ」は現れた。 教皇を筆頭とする聖筋騎士団。全員がフリルの付いた「戦闘用聖女ドレス」を纏っている。なんというか、その姿は前世で見た魔法少女にそっくりだっ!!


「ハッ! セイクリッド・ポージングッ!!」


教皇が叫びながらサイドチェストをキメると、短く切り詰められたスカートが激しく舞い上がる。そこから見え隠れするのは、黄金の極小ビキニパンツと、圧倒的な「一物もっこり」の存在感。


「な、なんだ……この、得体の知れない圧迫感は……っ!?」


ルシウスを狙っていた暗殺者の動きが止まった。それどころか、屋敷に残っていた帝国暗部たちが、一様に顔を真っ赤にして股間を押さえ、その場にうずくまり始めたのだ。


「ぐっ、あ、ああ……っ! なぜ、私は奴らを見て……立って、しまうんだ……っ!!」


「逃がしませんよ。……ん。……地獄へのカウントダウン。……切れてる」


ミリィが冷ややかな視線で重力魔法を重ねる中、教皇軍のマッチョたちは、次々とポージングをキメていく。


「見てください、この僧帽筋! 勇者殿の未来は、この筋肉が守るのです!」 「肩にメロンが乗っているようですわよ、教皇様ァァッ!」


女言葉で叫ぶは教皇に付き従いし神殿騎士。ちなみにオネエである。戦場に野太い声が響き渡る!!


(……ルシウス。ごめん。姉ちゃん、お前をこんな世界から救ってやりたいけど、今はこいつらの方が、帝国より圧倒的に強いわ……)


私は、教皇のポージングの風圧でスヤスヤと眠るルシウスを抱き上げ、遠い目をして夜空を仰ぐのだった。


そしてしばらくの後、


「……はぁ。とりあえず、ルシウスがこれ以上、変な影響を受けなくてよかったわ」


私は、マッチョたちの放つ異様な熱気から守るように、ルシウスの耳をそっと塞いだ。


「リリアーヌ様、後処理はこちらで引き受けますわ」 セレスティーヌ先生が、乱れた服を整えながら歩み寄る。その瞳には、かつてないほどの冷徹な怒りが宿っていた。 彼女が倒れた暗殺者の一人の喉元に、土属性の魔力で生成した鋭利なきりを突き立てる。


「さて。あなたたちは捨て駒でしょうけれど、その魂に刻まれた記憶まで捨て去ったわけではないはず。……私の『精神抽出』は、少し……いえ、かなり痛みますわよ?」


「ヒッ、ヒィィッ! 助けてくれ! 殺せ! 頼むからあのポージングを止めさせてくれぇ!!」


暗殺者は、もはや死への恐怖よりも、目の前でサイドチェストをキメ続けるマッチョたちの視覚的圧力に精神を破壊されていた。 教皇は「なんと信心深い悲鳴でしょう」と、爽やかな笑顔(※バッチリメイク)で汗を拭っている。


その時、ミリィが蹲る男たちの股間に視線を落とし、ぼそりと呟いた。


「……ん。……やっぱり、これ。……邪神の紋章、共鳴してる。……魔族化の初期症状。……筋肉に、拒絶反応を起こしてる」


「え? 勃ったわけじゃなくて、拒絶反応なの?」 私が思わず聞き返すと、ミリィは「ん。……多分、両方」と短く返した。 どうやら、魔族のエネルギーと、教皇たちの「聖なる筋肉」から放たれる生命エネルギーが激しく衝突し、その反動がなぜか股間に集中したらしい。なんという不毛な物理法則だろうか。


翌朝。 王都の公爵邸の応接室には、重苦しい空気が流れていた。 セレスティーヌ先生の尋問により、驚くべき事実が判明したのだ。


「……帝国領内の主要都市には、すでに数千規模の『変異種』が潜伏。皇帝は魔王の依代よりしろとなり、近々、全軍を挙げた『総力戦』を仕掛けるつもりですわ」


母エレナは顔を青くし、手紙を握りしめた。 「……ラグナがいる前線だけでなく、この王都、そして私たちの領地までもが戦火に包まれるというの……?」


私は、母の震える手をそっと握った。 「お母様、大丈夫です。私が、ルシウスもこの家も守りますから」


「リリアーヌ……。あなたはまだ6歳なのよ?」


「6歳だからこそ、伸び代があるんです」


私はミリィと視線を合わせた。 ミリィは、静かに頷き、魔法杖の先端で床に複雑な座標を描き始める。


「……ん。……王都の地下、マナが溜まってる。……利用すれば、時空の門、開ける。……ただし、中の一年は、外の一日。……精神が、摩耗する。……美少女のまま、中身がおばさんになるリスク」


(……あ、もうすでにおっさんだから、そこは大丈夫だわ)

おばさんではなくおっさんになるというツッコミは俺の前世を知らないミリィには話せないが、まぁ大した問題はないだろう。

私は心の中でツッコミを入れつつ、立ち上がった。


「セレスティーヌ先生、バラン先生。今日からルシウスの教育は、大聖堂の『筋肉軍団』に一時的に任せます。……教皇様にベロチューされないよう、監視だけは付けて」


「「はっ!」」


「私はミリィと、その『部屋』に入ります。……一週間。外の世界で一週間が過ぎる頃、私は七年分の修行を終えて出てくるわ。……魔王でも何でも、ルシウスに手を出したことを後悔させてやる」


しかし、クソ女神から貰った精神と時間の部屋を使う前に同じような(多少時間は経過するが)修行部屋へ行けるとは、何たる幸運か。

本来肉体がもう少し成長する10歳前後(ルシウス誕生で多少早めようとは思っていたが)で挑戦しようと思っていた修行を今できるのは大きい。(さらに後でもう一回本物の精神と時間の部屋に入れる)

とりあえず、物理面の修行は後に取っておこう。肉体が出来上がってからの方が都合が良いからだ。

対して魔法の修行は身体面の成長は関係ない。間合いとか関係ないからね。


やる気になった私。6歳の幼女が放つにはあまりにも苛烈なプレッシャーに、部屋の空気が震えた。 私の黄金の髪が、高まる魔力に呼応して、プラチナ色に発光し始める。


こうして、勇者の姉による「史上最速の育成計画」が、王都の地下深くで人知れず幕を開けた。

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