第十四話:乱入の小猫、あるいは親分の咆哮
混沌を極める『デウス・エクス・マキナゲーム』。リリーが放った「真面目にやりなさい!」という叫びすら、筋肉と欲求の濁流に飲み込まれていく中、戦場にはさらなる異変が起きていた。
そもそも、このカオス・レムリアにおいて、あの「北斗」の漢たちやリリーたちがこれほど苦戦(?)するはずがない。何かがおかしい。そう、デウス・エクス・マキナの計算を狂わせているのは、参加者リストに載っていない「想定外の因子」だった。
・・最弱の脅威:ミャールジの氷結・・
玉座で苛立ちを募らせるデウス・エクス・マキナの足元に、一匹の猫がトコトコと歩み寄った。 それは、アストラルティーアから迷い込んだ猫獣人の一の子分、ミャールジ。
あまりにも弱々しく、魔力も感じられないその存在を、究極の木偶は「ただの迷い猫」と断じて無視を決め込んでいた。しかし、ミャールジが小さな口を開いた瞬間、闘技場の空気が凍りついた。
「……ミャッ!!」
パキパキパキィィッ!!
次の瞬間、デウス・エクス・マキナの巨大な脚部が、絶対零度を遥かに超える禍々しい氷に閉ざされた。 「な、何だ……この氷は!? 私の装甲を直接凍結させるだと……ッ!?」
はじめて、デウス・エクス・マキナはこの「毛玉」が、自分を脅かすほど凶悪な魔法の使い手であることに気づいた。
・・親分の乱入:猫獣人の仁義・・
「小癪な家畜め……消え失せろ!!」
デウス・エクス・マキナが、その氷を砕きながら巨大な腕を振りかざした。標的は、魔法を放ちきって「ミャ~」と呑気に欠伸をしているミャールジ。
だが、その鉄拳が振り下ろされる直前、地響きと共に巨大な影が割り込んできた。
「待てやコラァッ!! 誰の身内に手ぇ出してんだ、このポンコツがぁ!!」
魚人の剣士と激しく斬り合っていたはずの**猫獣人の親分(巨漢)**が、戦いを一時中断し、その巨躯でデウス・エクス・マキナの腕を真っ向から受け止めたのである。
「……おい、半魚人。こいつの掃除が先だ。俺の子分に手を出した落とし前、きっちりつけてもらうぜ」
「……フン、致し方あるまい。私の獲物を横から奪おうとする不届き者は、ここで刺し貫くのみよ」
魚人の剣士もまた、不敵な笑みを浮かべて剣を構え直す。
・・カオス、極まれり・・
「なによ……今度は猫と魚の連合軍? もうこの会場、種族のバーゲンセールね」
リリーは呆れながらも、ミリィとモミジに指示を出した。
「ミリィ、あの猫の魔法で凍った隙を狙って因果の核を撃ち抜くわよ。モミジ、あんたは……」 「リリー! あの猫、きっといい出汁が出るべ……じゃなくて、守ってやるべさ!!」 モミジは空腹で判断力が鈍りつつも、その怪力で迫りくる木偶の雑兵たちをなぎ倒していく。
アンソニーと教皇は相変わらず「筋肉の対話」を続けているが、その衝撃波がデウス・エクス・マキナの装甲をじわじわと削り取っていた。
究極の木偶として降臨したはずのデウス・エクス・マキナ。しかし、彼が対峙しているのは、もはや「戦士」ではなく、制御不能な「世界の歪みそのもの」であった。
・・偽りの終焉、真なる絶望の幕開け・・
「……これで、終わりよ。『因果・全事象抹消』!!」
リリーの瞳が太陽よりも眩しく輝き、ミリィの無機質な魔力がデウス・エクス・マキナの核を捉えた。因果律そのものを書き換えられた究極の木偶は、断末魔を上げる暇もなく、その存在を世界の記憶から消し去られた。
それと同時に、闘技場を包んでいた重苦しい空気が霧散する。ハゲ女神が言っていた「地球や他世界とのパス」が、今の衝撃で完全に断絶したのだ。
「……ふぅ。ようやく終わったわね。もうこれ以上、変な猫や筋肉や世紀末の漢たちが降ってこないと思うと、せいせいするわ」
リリーは肩の荷を下ろし、夕暮れに染まる南の島を眺めた。確かに、すでに結合してしまった国家や人々はそのままだが、これ以上の「未知のカオス」は訪れない……はずだった。
・・絶望は、空から降り注ぐ・・
しかし、リリーの安堵は、空に浮かぶ**「赤い月」**が不気味な脈動を始めた瞬間に凍りついた。
「……ん。リリー、見て。……パスは切れた。でも、『切れる前に滑り込んできた連中』が、まだ残ってる」
ミリィが指差す先、雲海を割って現れたのは、巨大なクジラの如き姿をした蛮神ビスマルク。そして、闘技場の瓦礫の影から、漆黒の法衣を纏ったアシエンたちが冷笑を浮かべて姿を現した。
「……フフ。デウス・エクス・マキナなど、所詮は前座。真の『アーダー(次元統合)』は、これから始まるのだよ……」
・・十三世界の脅威、集結・・
パスが途切れる直前、この世界には「究極の木偶」をも凌駕する邪悪が根を張っていた。
異界滅神とアシエン: 混沌を呼び込み、世界を再統合しようと目論む影の支配者たち。
蛮族の神々: 雲海を泳ぐクジラを筆頭に、各地の信仰から生まれた強大な蛮神たち。
深淵の王ハデス: 第一世界エオルクガネを破滅の淵に追いやった、古の真なる人。
赤い月の四天王: 火、水、土、風の力を司るかつての英雄たち。そして、彼らを統べる暗黒の騎士。
「ちょっと……何なのよこれ! ラスボス級がバーゲンセールみたいに並んでるじゃないの!!」
リリーは叫んだ。デウス・エクス・マキナを倒してハッピーエンドだと思っていたのに、待っていたのは「全並行世界の邪悪による総力戦」であった。
・・立ち上がる戦士たち・・
「……リリーさん。宿命の星は、まだ消えてはいないようです」 トキが口紅の跡を完全に拭い去り、静かに闘気を高める。
「オラ、お腹空いたけど……アイツら、なんだかすごく『悪そう』だべさ! 叩っ斬ってやるだべ!」 モミジもまた、巨大な斧を担ぎ直し、赤い月を睨みつけた。
アレスガイアの生徒たち、レムリアの騎士団、北斗の漢たち、そしてエオルクガネから来た異世界の英雄。 カオス・レムリアの真の存亡を賭けた戦いは、今この瞬間に始まったのだ。
「いいわよ……こうなったらヤケクソよ! 全員まとめて、このレムリアから叩き出してあげるわッ!!」
リリーの宣言と共に、カオス・レムリア史上最大の「最終決戦」の火蓋が切って落とされた。




