第六話:適齢期の戦慄、あるいは力士の包囲網
王都の冒険者ギルド。ドワーフ地下帝国での騒動と、あの「種もみじいさん」の最期を報告したリリーたちを待っていたのは、受付嬢の驚愕の表情だった。
「リリーさん……。あなたが看取ったそのおじいさん、実はレムリア全土を緑に変えると謳われた**『伝説の農聖・ミスミ』**様ですよ!? 彼が遺した種もみは、どんな荒野でも一晩で実る神の種だったとか……」
「いやいや、ただの『種もみじいさん』でしょ、今日より明日の……って、そんな設定があったの!? 道理で芽吹くのが早かったわけだわ……」
リリーは呆れたが、その功績(と薬草採取)により、三人のランクは一気にFからEへと上がった。銅のプレートが鉄へと変わり、ようやく冒険者としての第一歩を踏み出した実感が湧く。……が、その喜びは一瞬で霧散した。
・・勇者ルシウス、絶望を運ぶ・・
ギルドの酒場で祝杯をあげようとした三人の前に、顔を引き攣らせた弟・ルシウスが駆け込んできた。
「姉さん、大変だよ! お父様が……ラグナお父様が、屋敷で姉さんの**『お見合い写真』**を山ほど用意して待ってるんだ!」
「はぁ? 何言ってるのよ。お父様は『リリーを嫁にやるくらいならレムリアを鎖国する』とか言ってたじゃない」
リリーは鼻で笑った。しかし、ここは異世界レムリア。前世の知識では幼女に見えても、実年齢20歳は立派な結婚適齢期の後半戦。ミリィやモミジは「使用人だから」という建前でスルーされているが、ヴァランタン公爵家の令嬢ともなれば、周囲の圧は凄まじい。
「お父様もね、『リリーを相撲部屋に取られるくらいなら、せめて自分が納得する男を……』って、血涙を流しながら選んでたよ。はい、これサンプル」
・・お見合い写真の正体・・
ルシウスから渡された写真の束を、リリー、ミリィ、モミジが覗き込む。
「……何これ。これ、相撲力士のブロマイドでしょ!?」
「……ん。リリー、これ……東の小結・ハリテ山。……こっちは、西の前頭・塩投げ丸」
「オラの村の牛よりデカい男ばっかりだべさ!」
写真は、公爵の「娘を守れる強い男」という基準と、レムリアの「相撲ブーム」が最悪の形で融合した結果であった。どの男もまわし姿で四股を踏んでおり、愛の囁きよりも「ドスコイ!」という叫びが聞こえてきそうな面々ばかりである。
「冗談じゃないわよ! 誰が自分の結婚相手に『決まり手』を期待するっていうのよッ!!」
・・逃亡の護衛依頼・・
このまま屋敷に帰れば、公爵(父)に捕まり、強制的に力士たちとのティーパーティー(ちゃんこ会)に参加させられるのは明白だ。
「ミリィ、モミジ! 逃げるわよ! 今すぐこの街を出る依頼を受けなさい!」
「……ん。了解。……適当な護衛依頼、見つけた。目的地は……レムリア南方の秘境『フリル山脈』。依頼主は、巡業中のアンソニー枢機卿の一行」
「アンソニー!?……まぁいいわ、力士の群れに囲まれるよりは、あっちのピンクのフリルとプロテインの臭いの方がまだマシよ!」
リリーはEランクになったことで解放された「商人一行の護衛(という名の逃避行)」の書類をひったくると、公爵邸とは正反対の南門へと猛ダッシュを開始した。
「姉さーーーん! お父様が『ちゃんこの準備はできてるぞ!』って叫んでるよーーー!」
ルシウスの叫びを背中に受けながら、最強のEランク冒険者たちは、新たなるカオスが待つ南方へと旅立つのであった。
・・ロリの矜持、あるいは国境を越えた変態・・
リリーが力士のブロマイドから逃げ出し、アンソニー枢機卿との合流を目指して南へ爆走していたその頃。
この衝撃的な「リリーお見合い騒動」の噂は、距離の壁を越え、魔神の跡地に建国されたばかりの新生アレスガイア王国へと瞬時に届いていた。
・・王の咆哮と、公爵の戦慄・・
「な、なんだと……ッ!? リリーたんが……あのアレスガイアの至宝にして我らが信仰の対象が……結婚だとぉぉぉおおおおおッ!!!」
新生アレスガイア国王**エドワード(ガリ)は、玉座から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。その隣で、より丸みを帯びたポークミート公爵**も、手に持っていた高級肉の串焼きを落とし、ぶるぶると肉を震わせる。
「許せん……断じて許せんぞぉ! 相手は誰だ!? どこの馬の骨だ!?」
「……報告によれば、レムリアの力士……いわゆる『巨大な男たち』とのことです」
「力士ぃ!? あの『岩のような肉の塊』共に、リリーたんの華奢な肩を抱かせるというのか!?」
二人の脳裏には、巨大な力士の横で、折れてしまいそうなほど儚げに佇むリリー(見た目幼女)の姿が浮かんだ。それは彼らにとって、魔神の再臨よりも恐ろしい「世界の終わり」を意味していた。
・・ノータッチの禁忌、崩壊の危機・・
「エドワード様、お忘れですか。わが国の国教は『ロリを愛せ、ただし観賞のみ(ノータッチ)』……。しかし、結婚となれば話は別ですぞ!」
「そう……結婚したならば、それはもはや『観賞』の枠を超える……。あの、白磁の如き絶壁を……合法的にすべすべできる権利が、その力士なる者に与えられるというのか……ッ!!」
二人の瞳に、危険な光が宿る。彼らにとってリリーは20歳だろうが100歳だろうが、その「見た目」こそが真理。そして結婚という契約は、彼らが己に課した「ノータッチ」という鉄の戒律を、第三者が公然と破ることを意味していた。
「ロリの矜持にかけて、リリーたんを奪われるわけにはいかぬ! 野郎ども、早馬だ! レムリアへ全速力で走らせろ!!」
「わが国の全軍……いや、全変態……もとい、全崇拝者を動員せよ! リリーたんの絶壁は、世界の共有財産なのだぁぁ!!」
・・カオスの予感・・
新生アレスガイア王国から、鼻息も荒い騎士団(と、眼光の鋭すぎる文官たち)がレムリアへ向けて出撃した。
ヴァランタン公爵(父): 「リリーを奪うなら最強の力士でなければならぬ!」
アレスガイア国王: 「力士など、わがノータッチの法で裁いてくれるわ!」
リリー: 「アンソニー、早く逃げるわよ! ろくな予感がしないわ!」
リリーがEランクの護衛任務で目指す「フリル山脈」。そこは、筋肉と相撲とフリル、そして距離の壁を越えてやってくる「執念の愛好家たち」が激突する、かつてないカオスな戦場になろうとしていた。




