表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/225

第98章 ―ガストン港直送フェアー、始動―

第98章 ―ガストン港直送フェアー、始動―


ガストンとの定期便が整い、魚介類の安定供給が可能になったことで、すすむの頭の中には新しい構想が浮かんでいた。


――ホテルで、海鮮フェアをやろう。


グレン村の宿泊施設は、エレニアや周辺の村からの客が増え、料理の幅を広げたいという声も多かった。

 そこで、ガストン港から直送した魚介類を使った特別メニューを作り、期間限定フェアとして提供する。

 うまくいけば、レギュラーメニューにもできる。


すすむは厨房に立ち、まな板の上に並べられた魚を見つめた。


ブルーフィンの淡い桃色の身。

 シルバの銀色に輝く皮。

ラウラ貝の琥珀色の殻。

 スプリングシュリンプの透明な体。


どれも鮮度抜群で、見ているだけで食欲が湧いてくる。


「よし……やってみるか」


すすむは包丁を握り、まずは刺身を切り始めた。

 この世界の包丁は前の世界ほど精密ではないが、鍛冶屋ギルバートに頼んで作ってもらった特注品は切れ味が良い。


薄く、均一に切られたブルーフィンの身が皿の上に並ぶ。

 次に、シルバを三枚におろし、皮を引いて刺身にする。

 ラウラ貝は殻を開け、貝柱を取り出して薄切りにした。


刺身の盛り合わせが完成すると、すすむは次に寿司に取りかかった。


酢飯はこの世界には存在しないため、酢の代わりに果実酢と少量の砂糖、塩を混ぜて調整する。

 完全に同じ味にはならないが、爽やかな酸味が魚とよく合う。


握り寿司、巻き寿司、ちらし寿司。

 さらに、海鮮丼も作る。

 白いご飯の上に、色とりどりの魚介類が花のように並ぶ。


厨房のテーブルには、海の色を映したような料理がずらりと並んだ。


「……よし、これで準備完了だな」


すすむは深呼吸し、スタッフたちを呼びに行った。


★★★★★


グレンインの大広間には、ホテルの従業員マネージャーたちが勢ぞろいしていた。


ハンス

リリア

レミー

アゼリー

ジョシュア

ジータ

セレスト

ミーナ

ダレス

メイ

ローレント

マーカス

グラント

ミーシャ

クラレス

セレス


総勢十六名。

 どの顔も真剣で、期待と不安が入り混じった表情をしている。


「今日は、ガストン港直送フェアーの試作メニューを試食してもらいます」


すすむが言うと、ざわっと声が上がった。


「生魚……ですよね?」

「ちょっと怖いかも……」

「でも、すすむさんが作ったなら大丈夫だと思う」


すすむは笑って頷いた。


「無理に食べなくてもいい。でも、まずは一口だけでも試してみてほしい」


スタッフたちは席につき、テーブルに並べられた料理を見つめた。


刺身の皿は、まるで宝石のように輝いている。

 寿司は色鮮やかで、海鮮丼は見た目だけで食欲をそそる。


ハンスが代表して箸を取り、ブルーフィンの刺身を一切れ口に運んだ。


静寂が広がる。


そして――


「……これは……うまい!」


その一言で、場の空気が一気に変わった。


「本当ですか?」

「じゃあ私も……」

「いただきます!」


次々とスタッフたちが箸を伸ばし、刺身を口に運ぶ。


レミーは目を丸くし、アゼリーは驚きの声を上げ、ミーナは思わず笑顔になった。


「生臭さが全然ない……」

「こんなにあっさりしてるなんて……」

「口の中でとろける……」

「これは……お客様も喜ぶと思います!」


すすむは胸を撫で下ろした。


「よかった……みんなの反応が一番心配だったから」


ハンスが立ち上がり、すすむに向かって言った。


「すすむさん、これはぜひメニューに入れましょう。

 グレンインだけでなく、グレンホテル、グレンリゾートホテルでも提供すべきです」


他のスタッフたちも大きく頷いた。


「賛成です!」

「絶対人気が出ます!」

「女性のお客様は特に喜ぶと思います!」


こうして、ガストン港直送フェアーのメニューは正式に採用されることになった。


★★★★★


フェア初日。

 グレンインの食堂は、いつもより明るい雰囲気に包まれていた。


メニュー表には、新しく「ガストン港直送フェアー」の文字が踊っている。

 刺身盛り合わせ

 握り寿司

 海鮮丼

 ラウラ貝の酒蒸し

 スプリングシュリンプの塩焼き


客たちは興味津々でメニューを眺めていた。


「刺身……って、生の魚なのか?」

「ちょっと怖いけど……食べてみようかな」

「海鮮丼って綺麗ね!」


最初に注文したのは、旅の女性客だった。


「この海鮮丼をお願いします」


料理が運ばれると、彼女は目を輝かせた。


「わぁ……綺麗……!」


一口食べると、表情がぱっと明るくなる。


「おいしい……! こんな料理、初めて!」


その声が周囲に広がり、次々と注文が入った。


「刺身盛り合わせを!」

「寿司を頼む!」

「海鮮丼、私も!」


厨房は大忙しになったが、スタッフたちは笑顔で動き回っていた。


フェアは大成功だった。


特に女性客からの支持が圧倒的で、

「また食べたい」

「次は友達を連れてくる」

「レギュラーメニューにしてほしい」

という声が相次いだ。


そして――


ガストン港直送フェアーのメニューは、正式にレギュラーメニューとなった。


★★★★★


その日の夜、すすむは厨房の片隅で一息ついていた。


ハンスが近づき、静かに言った。


「すすむさん……あなたのおかげで、グレン村の料理は新しい段階に入りました。

 村も、ホテルも、もっと発展していくでしょう」


すすむは照れくさそうに笑った。


「みんなが協力してくれたからですよ。

 ガストンの海の恵みを、村のみんなと共有できてよかったです」


窓の外には、冬の夜空が広がっていた。

 星々が輝き、まるでガストンの海のように静かで美しい。


すすむはその光を見つめながら、次の展開を思い描いていた。


――この世界の食文化を、もっと豊かにしたい。


その思いが、胸の奥で静かに燃えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ