第97章 ―ガストンとの新たなつながり―
第97章 ―ガストンとの新たなつながり―
魚介類バーベキューパーティーが終わった翌日、すすむはグレンインの自室で、ぼんやりと天井を見つめていた。
昨日の賑わいが、まだ耳の奥に残っている。
村人たちの笑い声、子どもたちのはしゃぎ声、ガンツの豪快な笑い。
そして、魚が焼ける香ばしい匂い。
――あれほど喜んでもらえるとは思わなかった。
すすむは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
ガストンで仕入れた魚介類は、村人たちにとって珍しいご馳走だった。
冬の間はどうしても食卓が単調になりがちだが、海の幸が加わるだけで、食卓は一気に華やかになる。
そして、ふと思った。
(ホテルでも……やれるんじゃないか?)
グレンイン、グレンホテル、グレンリゾートホテル。
どれも宿泊客が増えつつあり、料理の幅を広げたいという声も聞いていた。
すすむはベッドから起き上がり、机に向かった。
「ガストン港直送魚介フェア……」
紙にそう書いてみる。
――悪くない。
宿泊客向けに、定期的に魚介フェアを開催する。
それに合わせて、村の広場でもイベントを開けば、村全体が活気づく。
だが、問題がある。
魚介類を安定して仕入れるには、ガストンとの定期的な往復が必要だ。
エレニアへ向かう路線はすでに確立しているが、ガストンは距離もあり、山道も険しい。
さらに、仕入れの調整役も必要だ。
市場の状況、漁の具合、価格交渉――それらを任せられる人材がいなければ、安定した供給は難しい。
「うーん……どうしたものか」
すすむは腕を組んだ。
そのとき、ふとギルバートの顔が浮かんだ。
(ギルバートなら、何か知っているかもしれない)
すすむは立ち上がり、鍛冶屋へ向かった。
★★★★★
鍛冶屋の扉を開けると、鉄を打つ音が響いていた。
ギルバートは汗を拭いながら、すすむに気づくと顔を上げた。
「おう、すすむ。どうした?」
「実は……ガストンとの定期的な仕入れを考えていて。
誰か、現地で調整役をしてくれる人を知らないかと思って」
ギルバートは少し考え、すぐに答えた。
「なら、ガストンの冒険者ギルドのギルマス、ボルトンに頼れ」
「ボルトン……?」
「ああ。あいつは信用できる。紹介状を書いてやるよ」
ギルバートは机の上の紙を取り、さらさらと文字を書き始めた。
そして、地図も描き、すすむに手渡した。
「これを持っていけ。話は通じるはずだ」
「ありがとう、ギルバート」
ギルバートは鼻を鳴らし、鉄槌を再び振り上げた。
「お前のやることは、村のためになる。遠慮するな」
その言葉に、すすむは胸が熱くなった。
★★★★★
次に向かったのはガンツの酒場だった。
ガンツはカウンターの奥で酒樽を運んでいたが、すすむを見ると手を止めた。
「おう、すすむ! 昨日は最高だったな!」
「ありがとう。実は……ガストンとの定期便を作りたいんだ。
運転手を探していて」
ガンツは目を丸くし、すぐに笑った。
「運転手なら心配いらねぇよ。ドワーフが増えてきてるだろ?
あいつら、酒のためならどこへでも行く。運転も任せろって言ってたぞ」
「本当に?」
「ああ。グレン村はドワーフの間で“隠れた酒の町”として有名になってきてるからな。
そのうち、ドワーフの村になるかもしれんぞ?」
ガンツは豪快に笑った。
すすむもつられて笑った。
「じゃあ、運転手は任せてもいい?」
「任せとけ。四人ほど選んでおく」
こうして、ガストンへの定期便の準備は整った。
★★★★★
三日後。
すすむはポンチョの運転席に座り、後ろを振り返った。
そこには、ガンツが選んだ四人のドワーフが乗っていた。
皆、がっしりとした体格で、髭を編み込んでいる。
そして、全員が酒樽のような声で挨拶してきた。
「よろしく頼むぞ、すすむ殿!」
「ガストンの酒も楽しみだ!」
「魚も食えるんだろう?」
「帰りに飲む酒は格別だな!」
すすむは苦笑しながらも、頼もしさを感じた。
外は小雪が舞っていたが、積もる気配はない。
山道は相変わらず険しいが、先日どかした岩のおかげで、車は揺れながらも進んでいく。
「ロックリザード……今日は出てこないでくれよ」
すすむは蛇避けスプレーの存在を確認しながら、慎重にハンドルを握った。
幸い、山道では何事も起こらず、三時間ほどでガストンの町が見えてきた。
町の手前で車を停め、馬と木造の偽装をかける。
「よし、行こう」
門の前に着くと、兵士がすすむを見て目を見開いた。
「おお、其方はこの間の!」
「魚介類の買い付けと、ボルトンさんと話をするために来ました」
「冬でもグレン村から来るとは……ギルマスだな。通ってよい」
兵士は笑顔で門を開けた。
★★★★★
ガストンの冒険者ギルドは、白い壁と青い屋根の建物の中でもひときわ大きく、堂々とした佇まいだった。
すすむは地図を頼りにギルドへ向かい、扉を開けた。
中は活気に満ちていた。
冒険者たちが依頼を確認し、受付に列を作っている。
すすむが受付に紹介状を差し出すと、受付嬢は目を丸くし、すぐに奥へ走っていった。
しばらくすると、赤い長髪を後ろで束ねた細身の女性が現れた。
その瞳は鋭く、しかし言葉は丁寧だった。
「お初にお目にかかる。ガストン冒険者ギルドのギルマス、ボルトンだ」
すすむは紹介状を渡し、事情を説明した。
ボルトンは静かに頷き、紹介状を読み終えると、口元に微笑を浮かべた。
「わかった。この町の魚介類の仕入れ、そして運搬のサポートをしよう。
エレニアを救ったことは聞いている。カイルを助けてもらい、感謝する」
「カイルを……?」
「そうだ。私はかつて、ギルバート、カイルと同じパーティーだった。
私は剣士、ギルバートは盾役、カイルは魔導士。
懐かしい仲間だ」
すすむは驚き、そして納得した。
ギルバートの豪快さ、カイルの知性、そしてボルトンの静かな強さ。
確かに、三人は良いチームだったのだろう。
ドワーフの運転手たちもボルトンと顔合わせをし、仕入れの段取りや、乗客の案内について話し合った。
ボルトンは力強く言った。
「このギルドが責任を持ってサポートしよう。
ガストンとグレン村の交流は、きっと双方に利益をもたらす」
すすむは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に助かります」
★★★★★
ギルドを出た後、すすむはもう一つ寄りたい場所があった。
――青い窓亭。
ガストンに来たときに泊まった宿だ。
もし運転手たちが帰れなくなった場合、ここに泊まれるようにしておきたかった。
宿に入ると、女将が笑顔で迎えてくれた。
「まあ、また来てくれたのね」
「実は……運転手たちがガストンに来る機会が増えると思うんです。
もしものときに泊まれるよう、お願いしたくて」
女将はすぐに頷いた。
「もちろんいいわよ。裏の空き地に馬車を停めてもらって構わないわ。
困ったときはお互い様だからね」
すすむは心から感謝した。
★★★★★
その後、すすむたちは市場へ向かい、魚介類を大量に仕入れた。
ドワーフたちは目を輝かせ、魚を選ぶ手つきもどこか楽しげだった。
「こいつは酒に合うな!」
「この貝は焼いたら旨そうだ!」
「帰りが楽しみだ!」
すすむは笑いながら、収納能力で次々と魚介類をしまっていった。
こうして、ガストンでの用事はすべて終わった。
帰り道も特にトラブルはなく、夕方にはグレン村の門が見えてきた。
すすむは深く息を吐いた。
「これで……ガストンとの新しいつながりができたな」
村の未来が、また一つ広がった気がした。




