第96章 ―冬空に映える海の色―
第96章 ―冬空に映える海の色―
ガストンで仕入れてきた大量の魚介類を前に、すすむはしばらくの間、腕を組んで考え込んでいた。
収納能力の中には、銀色に輝くシルバ、淡い桃色のブルーフィンの切り身、殻が琥珀色に光るラウラ貝、
赤みがかったレッドスケイル、透明感のあるスプリングシュリンプ――まるで宝石箱のように、色とりどりの海の恵みが詰まっている。
だが、どう扱うべきか決めかねていた。
村の人々に配るか。
宿屋に卸すか。
それとも、自分で少しずつ楽しむか。
どれも悪くはない。
だが、どこかしっくりこない。
すすむは窓の外を見た。
冬の空は澄み渡り、青く、冷たく、どこかガストンの海を思わせた。
――そうだ。
みんなで楽しめばいい。
その瞬間、すすむの胸の中で、迷いがすっと消えた。
「よし……みんなで食べよう」
決めた途端、心が軽くなった。
せっかく海の町まで行って仕入れてきたのだ。
村の人たちにも、この世界ではなかなか味わえない“海の色”を楽しんでもらいたい。
すすむはすぐに村長の家へ向かった。
★★★★★
村長の家の扉を叩くと、すぐにリリアが顔を出した。
彼女の栗色の髪が冬の光を受けて柔らかく輝いている。
「すすむさん、どうかしましたか?」
「実は……ガストンで魚をたくさん仕入れてきたんです。
それで、三日後に村の広場で、魚介類のバーベキューパーティーを開きたいと思って」
リリアの目がぱっと明るくなった。
「まあ! それは素敵ですね。村長にもすぐ伝えます」
奥から村長が現れ、すすむの提案を聞くと、深く頷いた。
「村の者たちも喜ぶだろう。冬はどうしても食卓が単調になるからな。
広場の使用も許可しよう。準備は村の有志に声をかけておく」
「ありがとうございます」
続いて、すすむはギルバートの鍛冶屋へ向かった。
ギルバートは鉄を打つ音を止め、すすむの話を聞くと、豪快に笑った。
「魚のパーティーか! 面白ぇじゃねぇか! 手伝いが必要なら言ってくれよ!」
その声は、まるで真っ赤な炎のように力強かった。
すすむはさらに、グレンイン、グレンホテル、グレンリゾートホテルにも足を運び、パーティー開催のポスターを貼らせてもらった。
白い紙に青い文字で「魚介類バーベキューパーティー開催!」と書かれたポスターは、冬の村に鮮やかな色を添えた。
最後に、ガンツの酒場へ向かった。
「三日後に魚介パーティーをやるんです。ガンツさんもぜひ」
ガンツは目を輝かせ、赤ら顔をさらに赤くした。
「魚に酒! 最高じゃねぇか! 酒は任せろ、たっぷり用意してやる!」
すすむは苦笑しながらも、心の中で“やっぱりガンツさんだな”と思った。
こうして、準備は整った。
★★★★★
三日後。
冬空は雲ひとつなく晴れ渡り、冷たい空気が村の広場を包んでいた。
だが、その冷たさを吹き飛ばすように、広場には活気が満ちていた。
村の有志たちが、黒い鉄製のバーベキューコンロをいくつも並べ、薪をくべ、火を起こしている。
赤い炎がぱちぱちと音を立て、白い煙が空へと昇っていく。
すすむは収納能力から、色とりどりの魚介類を取り出した。
銀色のシルバの山。
淡い桃色のブルーフィンの切り身。
殻が琥珀色に輝くラウラ貝。
赤いレッドスケイル。
透明なスプリングシュリンプ。
それらがテーブルの上に並ぶと、まるで海の色がそのまま広場に現れたようだった。
「すごい……!」
「こんな魚、見たことない!」
「今日はご馳走だな!」
村人たちの声が弾む。
リリアはカット野菜を並べ、ギルバートは鉄串を用意し、村の子どもたちは興奮して走り回っている。
そして――
「酒はここだぁーっ!!」
ガンツが、すでに酒コーナーを占領していた。
大きな樽をいくつも並べ、赤い顔で笑っている。
「飲め飲めぇ! 魚には酒だ!」
すすむは思わず吹き出した。
火が十分に起きると、村人たちは次々と魚介類を焼き始めた。
シルバが焼けると、銀色の皮がぱりっと弾け、香ばしい匂いが広がる。
ラウラ貝は殻が赤く染まり、じゅわっと汁が溢れ出す。
ブルーフィンの切り身は、淡い桃色から白へと変わり、脂が滴り落ちて火に落ちるたび、青い炎が一瞬だけ立ち上がった。
冬空の下、白い煙が青空に溶けていく。
その光景は、まるでガストンの港で見た海と空の色が、ここグレン村に再現されたかのようだった。
「すすむさん、これ美味しいです!」
リリアが笑顔でシルバの串焼きを差し出す。
すすむが一口かじると、身はふっくらとしていて、塩だけでも十分に旨い。
「うん……これはうまいな」
ギルバートはレッドスケイルを豪快に焼き、子どもたちに振る舞っている。
子どもたちは赤い魚に目を輝かせ、口いっぱいに頬張っていた。
ガンツはというと――
「おいすすむ! この貝、酒に合うぞ!」
すでに上機嫌で、ラウラ貝をつまみに酒を飲んでいた。
村の宿泊施設に泊まっている客たちも参加し、広場は笑い声と香ばしい匂いで満たされていた。
すすむはその光景を見渡し、胸がじんわりと温かくなった。
――やってよかった。
ガストンで見た海の色。
港の匂い。
魚の輝き。
それらを、こうして村のみんなと共有できた。
すすむは空を見上げた。
冬の青空が、どこかガストンの海のように見えた。
「またやろう」
すすむは静かにそう呟いた。
村の人々の笑顔が、何よりの答えだった。




