第87章 ― 農地に芽吹く未来、村を変える種 ―
第87章 ― 農地に芽吹く未来、村を変える種 ―
エレニア商業ギルドによる仕入れ妨害は、
グレンリゾートホテルにとって大きな痛手だった。
だが、すすむは落ち込むどころか、
むしろ静かに燃えるような決意を胸に抱いていた。
(……なら、村で育てればいい。
外に頼れないなら、自分たちで作ればいい)
ホテルマンとしての経験から、
“安定した供給”がどれほど重要かを知っている。
そして、村の未来を考えれば、
農業の多角化は避けて通れない道でもあった。
すすむは、村長ローガンの家を訪れた。
「村長、相談があります」
すすむが切り出すと、ローガンは眉を上げた。
「また何か思いついたのか、すすむ殿」
「はい。エレニアの市場が使えないなら、
村で育てる作物を増やすべきだと思うんです」
ローガンは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「……実はな、村でも他の作物を育てたいという声はある。
だが、小麦だけでも手一杯でな。
人手が足りんのだ」
すすむは頷いた。
予想していた答えだった。
(なら、人手を補う仕組みを作ればいい)
「村長、裏庭をお借りできますか?
お見せしたいものがあります」
ローガンは首をかしげながらも、裏庭へ案内した。
すすむは収納スキルを使い、
次々と農業機械を取り出していった。
・小型耕運機
・散水装置
・有機肥料
・化成肥料
・堆肥
・石灰
・草刈り機
・チェーンソー
・野菜収穫機
・軽量スコップ
・その他、農作業を効率化する道具の数々
ローガンは目を丸くした。
「な、なんだこれは……!?」
「農作業を楽にする道具です。
これがあれば、人手不足はかなり解消できます」
すすむはひとつひとつ丁寧に説明した。
耕運機を動かすと、
土がふわりと持ち上がり、ローガンは声を失った。
「……魔道具か?」
「いえ、僕の世界の“道具”です。
魔力は使いませんが、誰でも扱えます」
ローガンはしばらく耕運機を見つめ、
やがて深く息を吐いた。
「すすむ殿……来週、村人を集める。
皆に使い方を教えてやってくれんか」
「もちろんです」
すすむは微笑んだ。
★★★★★
翌週。
村の広場には、老若男女問わず多くの村人が集まっていた。
「今日は、農業機械の使い方を説明します」
すすむが声を張ると、
村人たちは興味津々といった表情で前に集まった。
耕運機を動かすと、
土が一瞬で耕され、村人たちから歓声が上がる。
「すげぇ……!」
「こんなに早く土が柔らかくなるなんて……」
「これがあれば、畑を倍にしても大丈夫だ!」
草刈り機を使えば、
雑草があっという間に刈り取られる。
散水装置を動かせば、
均一に水が撒かれ、村人たちは目を輝かせた。
「すすむ殿、これは……革命だぞ……!」
ローガンが感嘆の声を漏らす。
すすむは、村人たちの反応に胸が熱くなった。
(この村には、変わる力がある。
あとは、きっかけさえあればいい)
農機具の説明が終わると、
すすむは次に、通販で調達した“サンプル”を取り出した。
「ここからは、育てられる作物の説明です」
村人たちの視線が集まる。
すすむは、野菜の種を並べていった。
・小松菜
・菜の花
・大根
・春菊
・水菜
・かぶ
・赤カブ
・白菜
・キャベツ
・芽キャベツ
・カリフラワー
・ロマネスコ
・えんどう豆
・かいわれ
・キュウリ
・トマト
・ミニトマト
・ネギ
・小ネギ
・ニラ
・なす
・ピーマン
・パプリカ
・オクラ
・ブロッコリー
・にんじん
・ジャガイモ
・タマネギ
・里芋
・アーティーチョーク
・リーキネギ
・ツルナ
・しそ
・インゲン
・落花生
・大豆
・小豆
・花豆
村人たちは、見たことのない種に目を丸くした。
「こんなに種類があるのか……!」
「これ全部、育てられるのか?」
「土の相性はどうなんだ?」
すすむは、肥料のやり方、種をまく時期、
管理方法を丁寧に説明した。
次に、果物の苗を取り出す。
「果物も、いくつか育てられます」
・リンゴ
・なし
・洋梨
・サクランボ
・ブドウ
・プルーン
・杏
・梅
・かき
・桃
・スモモ
・イチゴ
・メロン
・スイカ
・イチジク
・キウイ
「この地域は、日本でいうと東北地方くらいの気候です。
なので、暖かい地域の果物は難しいですが……」
すすむは少し笑って続けた。
「ゆず、温州ミカン、オレンジ、かぼす……
このあたりも、試しに植えてみましょう」
村人たちの目が輝いた。
「果物が育てられたら、村の名物になるぞ!」
「子どもたちが喜ぶなぁ」
「ジャムや干し果物にもできる!」
すすむは、希望に満ちた声を聞きながら、
ひとつひとつ苗を配っていった。
農機具の導入と、作物の多角化。
それは、村の生活を大きく変える第一歩だった。
・農作業の負担が減り
・新しい作物への挑戦が始まり
・収穫量が増え
・ホテルの食材が安定し
・余剰分は他の町へ売れる
村人たちは、すすむの説明を聞きながら、
未来の姿を思い描いていた。
「これで、エレニアの商業ギルドに頼らずに済むな」
「村の収入も増えるぞ!」
「ホテルの料理も、もっと美味しくなるんじゃないか?」
ローガンは、すすむの肩を叩いた。
「すすむ殿……本当に、村を変えてくれるのだな」
すすむは首を振った。
「いえ、変えるのは村の皆さんです。
僕は、そのお手伝いをしているだけです」
だが、その言葉とは裏腹に、
村人たちの視線には、すすむへの深い信頼が宿っていた。
その日、村の畑には、
これまで見たことのないほど多くの人が集まり、
新しい作物の準備を始めていた。
耕運機の音が響き、
散水装置が水を撒き、
子どもたちが苗を運び、
大人たちが畝を作る。
村全体が、ひとつの大きな畑のようだった。
すすむは、その光景を見ながら静かに思った。
(この村は、きっと強くなる。
外に頼らず、自分たちの力で未来を作れるようになる)
そして、
その未来の中心に、
グレンリゾートホテルがあることを願った。
ホテルの料理が、
村の畑で育った野菜や果物で彩られ、
訪れた客が驚き、喜び、
村の名が広まっていく。
そんな未来を想像しながら、
すすむは空を見上げた。
雲の切れ間から差し込む光が、
まるで新しい時代の幕開けを告げているようだった。




