第79章 ― 新たな仲間、新たな生活 ―
第79章 ― 新たな仲間、新たな生活 ―
高級政務官クラコフがエレニアへ戻ってから、二週間が過ぎた。
グレン村は、あの晩餐会を境に、どこか空気が変わったように感じられた。
村人たちは自信を持ち、宿泊客は増え、外見木造ポンチョの運行も軌道に乗り始めている。
そんなある日の朝。
ビジネスホテルBのロビーで書類を整理していたすすむのもとに、外見木造ポンチョのエンジン音が響いた。
「……来たか」
すすむは立ち上がり、外へ出た。
外見木造ポンチョの扉が開き、ローレントとマーカスが降りてきた。
二人とも、以前よりもどこか晴れやかな表情をしている。
「すすむどの、今日からよろしく頼む」
ローレントは深く頭を下げた。
その背筋は、役人時代よりもずっと軽やかに見えた。
「こちらこそ。正式に辞められたんですね」
「ええ。王都の役所に辞表を提出し、すべての引き継ぎを終えました。
……長かったですが、ようやく自由になれました」
ローレントはそう言って、ほっとしたように笑った。
マーカスも続く。
「私も、政務官補佐を辞めました。
これからは、家族と一緒にこの村で働きたいと思います」
すすむは二人の手を握った。
「ようこそ、グレン村へ」
ローレントは妻を連れてくると聞いていたため、
すすむはあらかじめヴィラを一軒用意していた。
半円形の白い外観は、冬の陽光を受けて柔らかく輝いている。
「……これが、私たちの家に?」
ローレントの妻は、驚きで声を失っていた。
「はい。どうぞ中へ」
扉を開けると、暖かい空気がふわりと流れ出る。
「……あったかい……!」
「魔法素材でできているので、室温が一定に保たれるんです」
ローレントの妻は、浴室を見てさらに驚いた。
「お湯が……蛇口をひねるだけで……!」
「シャワーもありますよ。温度調整もできます」
「す、すごい……!」
ふかふかのベッド、冷蔵庫、清潔なトイレ。
どれもこの世界では考えられない設備だ。
ローレントは妻の肩に手を置き、静かに言った。
「ここで……新しい生活を始めよう」
妻は涙ぐみながら頷いた。
マーカスは妻と子ども二人を連れてくるということで、
すすむはヴィラを二軒提供した。
子どもたちは、部屋に入るなり歓声を上げた。
「お父さん! ベッドがふわふわだよ!」
「見て! 水が冷たいまま出てくるよ!」
「お風呂が……広い!」
マーカスの妻は、冷蔵庫を開けて驚いた。
「……氷を使っていないのに、こんなに冷たいなんて……」
マーカスはすすむに深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます。
こんな家に住めるなんて、夢のようです」
すすむは笑った。
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます」
★★★★★
その日の午後。
グレンホテルのロビーに、見慣れた顔ぶれが揃っていた。
長期滞在していた冒険者――
グラント、ミーシャ、クラレス、そしてセレス。
グラントが代表して口を開いた。
「すすむさん。俺たち……冒険者を辞めて、ここで働きたい」
すすむは驚いた。
「えっ……本当に?」
ミーシャが頷く。
「ここで働く人たちを見て……私も、こういう仕事がしたいと思ったの」
クラレスも続く。
「宿の仕事って、意外と楽しいのよ。
それに、ここは居心地がいいしね」
そして、セレスが杖をつきながら前に出た。
「わしはもう歳じゃが……清掃ぐらいはできるわい。
働かんと体がなまるし、ボケるからな」
すすむは思わず笑ってしまった。
「もちろん、大歓迎です」
グラントは家族を呼ぶという。
四人家族だと聞き、すすむはヴィラを二軒提供した。
「こんな立派な家に……俺たちが住んでいいのか?」
「もちろんです。家族でゆっくりしてください」
ミーシャ、クラレス、セレスには、それぞれ一軒ずつ提供した。
セレスは、部屋に入るなり目を丸くした。
「……なんじゃ、この暖かさは……!
魔法か? いや、魔法でもこんな均一にはならんぞ……」
「魔法素材で……」
(もう説明はこれで統一するしかない)
クラレスはベッドに飛び込み、ふわりと沈んだ。
「うわ……これ、天国じゃない?」
ミーシャは浴室を見て、感嘆の声を上げた。
「お湯が……すぐ出る……!
これ、毎日入りたい……!」
皆が口々に喜びを語り、すすむは胸が熱くなった。
ローレント、マーカス、グラント、ミーシャ、クラレス、セレス。
総勢六名の新しい仲間が加わった。
すすむは彼らをグレンホテルに配属し、
新しく建てたビジネスホテルBと合わせて、
本格的な従業員教育を開始することにした。
ロビーに全員を集め、すすむは言った。
「今日から、皆さんと一緒にホテルを運営していきます。
よろしくお願いします」
ローレントが一歩前に出た。
「こちらこそ。
この村で、第二の人生を始められることを嬉しく思います」
マーカスも続く。
「家族も、この村を気に入っています。
全力で働かせていただきます」
グラントは胸を叩いた。
「任せてくれ。力仕事なら何でもやる」
ミーシャは笑顔で。
「接客、頑張ります!」
クラレスは落ち着いた声で。
「料理の補助もできますよ」
セレスは杖をつきながら。
「清掃はわしに任せんかい」
すすむは深く頷いた。
「みんなで、最高のホテルを作りましょう」
★★★★★
その夜。
ローレントの妻、マーカス家族、グラント家族は、
ヴィラで初めての夜を迎えた。
温かい家。
温水が出る風呂。
ふかふかのベッド。
冷たい水が出る冷蔵庫。
この世界では考えられない設備に、
誰もが驚き、そしてすぐに笑顔になった。
「お父さん、ここ……すごいよ!」
「お風呂が気持ちよかった!」
「ベッドがふわふわで眠くなる……」
ローレントの妻はすすむに言った。
「本当に……ありがとうございます。
こんな家に住めるなんて、夢にも思いませんでした」
すすむは微笑んだ。
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます」
こうして、グレン村には新しい風が吹き始めた。
元政務官とその家族。
元冒険者たち。
そして、村人たち。
多様な人々が集まり、
グレンホテルはさらに活気を帯びていく。
すすむは、夜空を見上げながら静かに思った。
――この村は、もっと良くなる。
もっと、たくさんの人が笑顔になれる場所になる。
その決意とともに、
新たな日々が静かに幕を開けた。




