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第7章 村の宿屋と、リリアとの出会い

第7章 村の宿屋と、リリアとの出会い


偽装馬車を宿屋の前に停めると、すすむは深く息を吐いた。

長い道のりだったが、怪我人たちを無事に村まで運べたことに、胸の奥で静かな安堵が広がる。


宿屋は、村の建物の中でもひときわ目立っていた。

石造りの三階建てで、木造の家々が並ぶ村の中では異様なほど立派だ。

窓枠には鉄の補強が施され、入口には木製の看板が掲げられている。


「ここが……ハンスさんの宿屋か。」


すすむが馬車から降りると、ブランが急いで宿屋の扉を開けた。


「リリア! 大変だ、ハンスさんが……!」


その声に反応して、受付にいた女性が顔を上げた。

金髪のロングヘア、三十代ほど。

落ち着いた雰囲気だが、芯の強さを感じさせる瞳をしている。


「ブランさん? どうしたの……えっ?」


リリアと呼ばれた女性は、馬車の中に横たわるハンスを見つけた瞬間、顔色を失った。


「ハンス! レミーまで……!」


すすむは慌てるリリアに近づき、丁寧に頭を下げた。


「奥様、落ち着いてください。

私は旅の者ですが、道で事故を見かけ、応急処置をしてここまで運んできました。」


リリアはすすむの背広姿を見て、一瞬驚いたように目を見開いた。

だが、すぐに深く頭を下げた。


「……助けてくださって、本当にありがとうございます。

私はリリア。ハンスの妻です。」


すすむは軽く微笑み、言葉を返す。


「白谷すすむと申します。

皆さん、骨折はしていますが、命に別状はありません。

早く休ませてあげた方がいいでしょう。」


ブランはすでに村人を呼びに走っており、数分後には数名の村人が駆けつけた。

彼らはすすむの指示に従い、慎重に怪我人たちを運び出す。


政務官ローレントと助手マーカスは、宿屋の空いている部屋へ。

ハンスとレミーは、宿屋に隣接する自宅の寝室へ運ばれた。


リリアは夫の手を握りしめ、涙をこらえながらすすむに向き直る。


「あなたが……ここまで運んでくれなかったら……

本当に、どうなっていたか……」


すすむは首を振った。


「当然のことをしただけです。

困っている方を見過ごすわけにはいきませんから。」


その時、宿屋の入口に、白髪の老人が現れた。

長いシルバーの髪を後ろで束ね、落ち着いた雰囲気をまとっている。


「おお……これが、助けてくれた旅人殿か。」


リリアがすすむを紹介する。


「村長、こちらが……白谷すすむさんです。

夫と息子を助けてくださった方です。」


老人は優しく微笑み、すすむに手を差し出した。


「私はこの村の村長、ローガンという。

旅の方、あなたには感謝してもしきれない。

村を代表して礼を言わせてほしい。」


すすむは丁寧に握手を返した。


「白谷すすむと申します。

大したことはしていません。

ただ、偶然通りかかっただけです。」


ローガンはすすむの背広姿をじっと見つめた。


「……その衣装、見たことのない仕立てだな。

遠い国から来たのだろう?」


すすむは一瞬だけ言葉を選び、静かに頷いた。


「はい。かなり遠い国から来ました。

この辺りの文化とは違うかもしれません。」


ローガンは何かを察したように目を細めた。


「……そうか。

ならば、無理に聞くまい。

旅には事情がつきものだからな。」


そして、柔らかい声で続けた。


「しばらくこの村に滞在していくといい。

宿代はもちろん無料だ。

食事もこちらで用意しよう。」


すすむは苦笑しながらも、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。

では、お言葉に甘えさせていただきます。」


リリアも微笑み、すすむに向かって言った。


「あなたの部屋は三階にあります。

落ち着いたら、どうぞ休んでください。」


すすむは宿屋の階段を上りながら、胸の奥で静かに呟いた。


「……本当に、異世界に来てしまったんだな。」


背広姿のホテルマンが、異世界の宿屋の階段を上る。

その光景は、どこか不思議で、しかし確かに“新しい人生の始まり”を感じさせた。



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