第75章 ― 商業ギルドとの交渉 ―
第75章 ― 商業ギルドとの交渉 ―
外見木造ポンチョの運行が軌道に乗り、村の活気が一段と増した頃。
すすむは、次なる課題に頭を悩ませていた。
――人材不足。
ビジネスホテルBとビラ建物を建てたことで、宿泊可能人数は一気に増えた。
しかし、運営するスタッフは以前のまま。
リリア、ハンス、ミーナの三人では、短期ではなんとかできたとしても、
長期的には回しきれない。
すすむは、冒険者ギルドのギルマスのもとを訪れ、追加の人材紹介を依頼した。
ギルマスは腕を組み、苦い顔をした。
「悪いが……さすがに、これ以上は無理だ」
「そんなに人がいないんですか?」
「いや、いないわけじゃない。だが、宿で働けるような“まともな”人材となると、限られてくる。
それに、今のグレン村の規模じゃ、冒険者ギルドだけで支えきれん」
ギルマスは言いにくそうに視線をそらした。
「……その代わりに、だ」
「? どうしたんですか?」
「……あいつらだけには、困ってる弱みを見せたくないが」
すすむは、すぐに察した。
「商業ギルド、ですか?」
ギルマスは渋い顔でうなずいた。
「エレニアには冒険者ギルドの他に、商業ギルドがある。
あいつらなら、人材も物資も持っている。
だが……正直、仲は良くない」
言葉の端々に、長年の確執が滲んでいた。
「ギルマスが嫌なら、僕が直接行きますよ」
すすむがそう言うと、ギルマスは驚いたように目を見開き、そして苦笑した。
「……助かる。あいつらに頭を下げるのは、どうにも性に合わん」
すすむはうなずき、翌朝エレニアへ向かうことを決めた。
★★★★★
翌日早朝。
すすむは、車を飛ばして、エレニアにいた。
エレニアの街は、朝日を浴びて活気を帯び始めていた。
ギルバートから聞いた場所に向かうと、そこには冒険者ギルドとは対照的な、石造りの立派な建物があった。
扉が開くと同時に中へ入り、受付カウンターへ向かう。
「おはようございます。ホテルの人材募集で伺いました。白谷すすむと申します」
受付の女性は、すすむの名を聞いた瞬間、目を丸くした。
「……あの、グレン村の?」
「はい」
「どうぞ、中へ。ギルマスがお待ちです」
(え、もう知ってるの?)
すすむは驚きつつも案内に従い、奥の部屋へ通された。
部屋の扉が開くと、そこには金髪の中年女性が座っていた。
落ち着いた雰囲気と、鋭い眼差し。
ただ者ではないと一目でわかる。
「すすむさんですね。どうぞおかけください」
促され、すすむは応接ソファに腰を下ろした。
「私はエレニア商業ギルドギルマスのマーサです。
あなたのことは、以前から聞いていましたよ」
「えっ……僕のことを?」
マーサは微笑んだ。
「グレン村のホテル開業。
そして、最近はこの町から大量の食材を仕入れている。
商業ギルドとしては、当然把握しています」
(……情報網がすごい)
「本当は、こちらから挨拶に伺おうと思っていたんです。
ですが、あなたのほうから来てくれた。
これは好都合ですね」
すすむは姿勢を正した。
「実は、人材不足でして……」
「ええ、知っています。
あれだけ急激に規模を拡大すれば、人材が枯渇するのは当然です」
マーサは書類を一枚取り出し、すすむの前に置いた。
「そこで、商業ギルドから提案があります」
マーサは指を二本立てた。
「一つ。
グレン村のホテルへの物資提供を、すべて商業ギルドに任せてほしい。
マージンは20%ということで。」
すすむは眉をひそめた。
「二つ。
ホテルの売店の利権を商業ギルドに渡してほしい。
その代わり――」
マーサは微笑む。
「ホテルの人材は、こちらから提供します」
すすむは息を呑んだ。
(……なるほど。人材を餌に、物資と売店の利権を取りに来たか)
商業ギルドらしい、実に商売的な提案だった。
すすむは、自分の“通販”能力のことを思い出す。
この世界の誰も知らない、圧倒的な調達手段。
(……この条件を飲む必要は、ない)
だが、ここで即答するのは得策ではない。
「申し訳ありません。
少し考える時間をいただけますか?」
マーサはあっさりとうなずいた。
「もちろん。
あなたがどう判断するか、楽しみにしていますよ」
すすむは頭を下げ、商業ギルドを後にした。
エレニアの街を歩きながら、すすむは深く息を吐いた。
「……どうするべきか」
商業ギルドの提案は魅力的だ。
人材不足は深刻で、すぐにでも解決したい。
だが、利権を渡すのはリスクが大きい。
(ギルマスが嫌がった理由も、なんとなくわかるな……)
そんなことを考えていると――
「おや、すすむどの?」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには上級政務官の姿があった。
「政務官殿……!」
「奇遇ですな。エレニアに何か用事でも?」
すすむは一瞬迷ったが、正直に答えることにした。
「実は……ホテルの人材不足で、商業ギルドに相談に来ていました」
政務官は目を細め、興味深そうにうなずいた。
「なるほど。
商業ギルドは、したたかですからな。
何を提案されました?」
すすむが内容を説明すると、政務官は苦笑した。
「ふむ……彼らしい。
だが、あなたが即答しなかったのは正しい判断です」
「そうでしょうか……?」
「ええ。
商業ギルドは有能ですが、利権を握ると強引になる。
あなたのホテルが、彼らの“商売道具”にされかねません」
すすむは胸のつかえが少し軽くなった。
政務官は続けた。
「一週間後、高級政務官を連れていきます。
そのあと、私とマーカスを雇ってくれませんか?」
突然、ローレント政務官はそのようなことを言い、すすむは驚いた。
「私たち、政務官を辞めるのです。いろいろありましてね。」
ローレントはそう言うと、町の雑踏に消えていった。
すすむは立ち尽くし、空を見上げた。
――どういうこと?




