第70章 ビジネスホテルA・開業に向けて
第70章 ビジネスホテルA・開業に向けて
ビジネスホテルAの建設を終えた翌日、すすむは早朝から机に向かっていた。
ホテルを建てたはいいが、建物だけでは何も始まらない。
運営するためには――人が必要だ。
(……さて、どうやって集めるか)
すすむは腕を組んだ。
この世界には「ホテル」という概念がほとんどない。
宿屋はあるが、受付、配膳、清掃、設備管理といった細かな役割分担は存在しない。
つまり、ホテルスタッフを集めるには、まず仕事内容を理解してもらう必要がある。
だが、すすむには一つ頼れる存在がいた。
「ギルマスに相談してみるか……」
冒険者ギルドは、村でもっとも人が集まる場所だ。
冒険者はもちろん、村人も頻繁に出入りする。
人材募集をするなら、ここ以上の場所はない。
ギルドに向かうと、ギルマスはカウンターで書類を整理していた。
すすむを見ると、すぐに顔を上げる。
「おお、すすむ。今日はどうした?」
「実は……ホテルを運営するための人を集めたいんです」
「ホテル……あの三階建てのやつか」
「はい。あれを動かすには、受付、調理、清掃、設備管理……いろいろ必要で」
ギルマスは腕を組み、ふむ、と唸った。
「なるほどな。だが、村にはそんな仕事をしたことがある者はいないぞ?」
「経験は問いません。教育はこちらでやります。
ただ……人を集めるために、給金は金貨で、少し色を付けて支給しようと思います」
「金貨……しかも色を付けるのか」
ギルマスは目を丸くした。
「それなら、応募者は集まるだろう。
冒険者の中にも、安定した仕事を求める者は多い。
村人も、金貨がもらえるなら興味を持つはずだ」
「募集の手伝い、お願いできますか?」
「任せろ。ギルドの掲示板に貼り出しておく。
それと、口頭でも声をかけておこう」
「ありがとうございます」
すすむは深く頭を下げた。
ギルドに募集が貼り出されると、予想以上の反響があった。
「金貨がもらえる仕事だって?」
「受付って何をするんだ?」
「料理ならできるぞ!」
「清掃なら任せろ!」
冒険者だけでなく、村人も興味津々で集まってくる。
ギルマスが説明し、すすむが補足する形で面談を進めた。
結果――
・フロント(受付)対応:8人
・調理・配膳係:12人
・ハウスキーピング:18人
・工務係:2人
合計40人のスタッフが集まった。
すすむは胸を撫で下ろした。
(……よかった。これだけいれば、ホテルを回せる)
だが、問題はここからだ。
40人ものスタッフが村に住むとなれば、住居が必要になる。
すすむは迷わず、建物スキルを使った。
「ビジネスホテルA……もう二棟、建てるか」
すすむはMPの消費量が大きいため、日をずらして、二棟を建てることにする。
建てる時、魔法陣が広がり、光が地面を包む。
そして、二棟のホテルが姿を現した。
もちろん、これらは宿泊施設としてではなく――
「従業員宿舎にしよう」
部屋数は十分だ。
各自に個室を与え、共同の食堂や浴場も使える。
スタッフたちが快適に暮らせる環境を整えることは、ホテル運営の基盤になる。
★★★★★
数日後、スタッフたちが荷物を抱えてグレン村に到着した。
冒険者風の者、村人風の者、若者から中年まで、年齢も様々だ。
「今日からよろしくお願いします!」
「働けるのが楽しみです!」
「受付って、どんなことをするんですか?」
すすむは笑顔で迎えた。
「皆さん、まずは宿舎に案内します。
その後、ホテルで研修を行いますので、よろしくお願いします」
スタッフたちは緊張と期待の入り混じった表情で頷いた。
翌日から、すすむは従業員教育に取りかかった。
ホテルのロビーにスタッフを集め、まずは全体説明を行う。
「ここは、ビジネスホテルAです。
宿泊客に快適に過ごしてもらうため、皆さんの協力が必要です」
すすむは、受付、調理、清掃、工務、それぞれの役割を説明した。
受付担当の8人をロビーに集める。
「まずは、笑顔で挨拶することが大事です。
宿泊客が最初に接するのが、皆さんですから」
「笑顔……こうですか?」
「もっと柔らかく……そう、それくらいで大丈夫です」
受付担当は緊張しながらも、真剣に取り組んでいた。
すすむはチェックインの流れ、鍵の受け渡し、料金の説明などを教える。
彼らはメモを取りながら、何度も頷いた。
厨房では、調理担当の12人が集まっていた。
すすむは厨房の設備を説明し、簡単な朝食メニューを教える。
「この鉄板でパンを焼きます。
こちらの鍋でスープを作ります」
「火が……勝手につく……!」
「これも魔法か?」
「はい、魔法です」
すすむは苦笑しながら答えた。
ガンツほどではないが、調理担当も設備に興味津々だ。
配膳の仕方、食堂の準備、片付けなども丁寧に教えた。
客室フロアでは、18人の清掃担当が集まっていた。
「ベッドメイクは、この順番で行います。
シーツを引いて、枕カバーを替えて……」
「なるほど……」
「これ、慣れれば早くできそうだな」
すすむは実演し、スタッフたちに実際にやってもらう。
最初はぎこちなかったが、徐々に手つきが良くなっていった。
工務係の2人には、ホテルの設備の説明を行った。
水回り、照明、空調、洗濯機、エレベーターなど、点検すべき場所は多い。
「何か異常があれば、すぐに僕に報告してください」
「了解しました!」
彼らは真剣な表情で頷いた。
こうして、すすむは毎日スタッフと向き合い、研修を続けた。
最初は戸惑いも多かったが、三週間も経つと、スタッフたちは見違えるほど成長していた。
「いらっしゃいませ!」
「朝食の準備、整いました!」
「客室の清掃、完了しました!」
すすむは胸が熱くなるのを感じた。
(……みんな、本当に頑張ってくれたな)
ホテルは建物だけではない。
人がいて、初めて“宿泊施設”として機能する。
そのことを、すすむは改めて実感した。
★★★★★
そして――三週間後。
コンテナ客室に加え、ビジネスホテルAが正式に開業した。
ロビーには受付スタッフが立ち、厨房からは朝食のいい匂いが漂う。
客室は清潔に整えられ、浴場には湯気が立ち上っている。
村人や冒険者たちが、興味津々でホテルを訪れた。
「ここが新しい宿か!」
「すごい……まるで王都の施設みたいだ」
「泊まってみたいな!」
すすむはホテルの前に立ち、静かに息を吸った。
(……ここからが本当のスタートだ)
新しい宿泊施設が、村にどんな未来をもたらすのか。
すすむは胸を高鳴らせながら、開業初日の朝を迎えた。




