第63章 鋼の匠との出会い
第63章 鋼の匠との出会い
翌日。
すすむは朝早くグレン村を出発し、馬車に揺られながらエレニアの町へ向かった。
以前、政務官たちを送り届けたときにも来たが、あの時は慌ただしく、町をゆっくり見る余裕はなかった。
今日は違う。
鍛冶屋《鋼の匠》へ向かう前に、少し観光もしてみようと思ったのだ。
ギルバートの話では、エレニアの人口は約2万人。
グレン村とは比べ物にならないほど大きく、
石畳の道、三階建ての建物、行政府、領主の館などが整然と並ぶ。
まさに“中世ヨーロッパの地方都市”といった雰囲気だった。
「……すごいな。グレン村とは全然違う。」
すすむは思わず感嘆の声を漏らした。
まず向かったのは、市場だった。
朝の市場は活気に満ちており、
新鮮なリンゴ、キャベツ、玉ねぎ、じゃがいもなどの野菜が山積みになっている。
ソーセージやハムといった加工肉、牛や豚の生肉も豊富だ。
ただし――
「魚は……やっぱりほとんどないか。」
内陸の町であるため、海産物はほぼ皆無だった。
すすむは、料理に使えそうな食材をいくつか購入し、収納スキルでしまっていく。
市場の隣にある小さなカフェに入り、
紅茶とパンのセットを注文した。
「……うん、素朴だけど美味しい。」
パンは少し固めだが、香ばしくて食べ応えがある。
紅茶も香りがよく、旅の疲れを癒してくれた。
時間を調整し、いよいよ目的地へ向かう。
★★★★★
市場から二つ先の区画。
ギルバートにもらった地図を確認しながら歩くと、
三階建ての長屋の一角に、目的の鍛冶屋があった。
看板には、力強い筆跡で《鋼の匠》と書かれている。
「……ここか。」
すすむは深呼吸し、意を決してドアを開けた。
中に入ると、鉄の匂いが鼻をついた。
奥では数人の男たちが、
ガンッ! ガンッ!
と大きな音を立てながらハンマーを振るっている。
火花が散り、炉の熱気が空気を揺らしていた。
しかし、誰もすすむに気づかない。
鍛冶場の喧騒に、すすむはどう声をかけていいか迷ってしまった。
「えっと……すみませ――」
その時。
奥の部屋から、背の低い女性が姿を現した。
身長はすすむの肩ほど。
だが、腕は鍛えられており、
エプロンには煤がついている。
髪は後ろでひとまとめにされ、瞳は鋭く職人の光を宿していた。
彼女はすすむを見るなり、首をかしげた。
「……あんた、誰だい? 客かい?
それとも修理の依頼か?」
声は小柄な体に似合わず、はっきりしていた。
すすむは慌てて頭を下げた。
「えっと、グレン村から来ました。
ギルバートさんからの紹介で……」
紹介状を差し出すと、女性はそれを受け取り、目を細めて読み始めた。
そして――
「……ふん。ギルバートの紹介ね。
なら、話くらいは聞いてやるよ。」
そう言って、彼女は手招きした。
「ついてきな。ここじゃ話しづらい。」
すすむは胸をなでおろしながら、彼女の後を追った。




