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第59章 白い翼の奇跡

第59章 白い翼の奇跡


グレンホテルの昼の営業がひと段落し、すすむは給仕のサポートとして皿を下げていた。

そのとき、背後から重厚な声がかかる。


「すすむ、少し時間はあるか?」


振り返ると、ギルバートが腕を組んで立っていた。

いつもより表情が柔らかい。


「どうしました、ギルマス?」


「明日、Aランク冒険者パーティ《白い翼》が来る。

そのメンバーの一人に、ハイヒールを使える僧侶がいてな。」


その瞬間、すすむの脳裏にひらめきが走った。


――ハンスさんの件だ。


長くグレンインに滞在している冒険者、ハンス。

クラレスの話では、彼の目の傷は通常の治癒魔法では治らず、

ハイヒール以上の高位魔法でなければ回復しないという。


ギルバートは続けた。


「お前にはギルド支部の立ち上げで随分助けられた。

その恩返しというわけではないが……

ハンスさんの目の怪我、ようやく治せそうだ。」


すすむは胸が熱くなった。


「……本当ですか。」


「白い翼の僧侶は腕がいい。期待していいぞ。」


★★★★★


翌日。

白い翼のメンバーがグレンホテルに姿を現した。


白いマントを羽織った精鋭たちの中から、一人の僧侶がすすむに歩み寄る。


「白い翼の僧侶、ハインツだ。

ギルバートから話は聞いている。

ハンス……だったな。案内してくれ。」


落ち着いた声だが、芯の強さを感じる人物だった。


すすむは頷き、偽装馬車へ案内する。


★★★★★


グレンインの離れに到着すると、クラレスが出迎えた。


「すすむさん……本当に、治るんですか?」


「ええ。ハインツさんが来てくれました。」


部屋に入ると、ハンスはベッドに腰掛けていた。

片目に包帯を巻き、静かにこちらを見つめる。


「……治療をしてくれるんだってな。」


「はい。準備はよろしいですか?」


「もちろんだ。頼む。」


ハインツはハンスの前に立ち、深く息を吸った。


「では、始める。」


★★★★★


ハインツが両手をかざし、静かに詠唱を始める。


「――ハイヒール」


その瞬間、ハンスの顔の周囲が柔らかな光に包まれた。

温かい風が部屋を満たし、包帯の下から淡い輝きが漏れ出す。


すすむもクラレスも、息を呑んで見守った。


やがて光が収まり、ハインツが静かに告げる。


「……ゆっくり、目を開けてみてくれ。」


ハンスは震える手で包帯を外し、ゆっくりと瞼を開いた。


「……あ……」


最初は小さな声。

だが次の瞬間、彼の声は震え、涙が溢れた。


「見える……見えるぞ……!

クラレス……! お前の顔が……はっきり見える……!」


クラレスは泣きながらハンスに抱きついた。


「よかった……本当によかった……!」


★★★★★


ハンスの家族も駆けつけ、ハインツに深々と頭を下げた。


「本当に……本当にありがとうございます!」

「息子が……また目が見えるなんて……!」


ハインツは照れくさそうに微笑んだ。


「私は術を使っただけだ。

治る力を持っていたのは、本人だよ。」


すすむも胸が熱くなった。


ハンスはすすむの方を向き、力強く言った。


「すすむさん……ありがとう。

あなたが動いてくれなければ、この奇跡はなかった。」


すすむは首を振った。


「僕はきっかけを作っただけです。

治したのはハインツさんですし、

ここまで耐えてきたのはハンスさん自身ですよ。」


ハンスは涙を拭い、笑った。


「……また冒険に出られそうだ。」


その言葉に、部屋の空気が一気に明るくなった。


★★★★★


治療を終え、すすむとハインツは馬車でホテルへ戻った。


「……いい仕事をしたな。」


ハインツがぽつりと言う。


すすむは微笑んだ。


「あなたのおかげです。」


「いや、違う。

お前が動いたから、俺はここに来た。

それがすべてだ。」


僧侶の言葉は静かだが、重みがあった。


すすむは空を見上げた。


――この世界で、自分にできることがまだまだある。


そう強く感じた一日だった。


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