第59章 白い翼の奇跡
第59章 白い翼の奇跡
グレンホテルの昼の営業がひと段落し、すすむは給仕のサポートとして皿を下げていた。
そのとき、背後から重厚な声がかかる。
「すすむ、少し時間はあるか?」
振り返ると、ギルバートが腕を組んで立っていた。
いつもより表情が柔らかい。
「どうしました、ギルマス?」
「明日、Aランク冒険者パーティ《白い翼》が来る。
そのメンバーの一人に、ハイヒールを使える僧侶がいてな。」
その瞬間、すすむの脳裏にひらめきが走った。
――ハンスさんの件だ。
長くグレンインに滞在している冒険者、ハンス。
クラレスの話では、彼の目の傷は通常の治癒魔法では治らず、
ハイヒール以上の高位魔法でなければ回復しないという。
ギルバートは続けた。
「お前にはギルド支部の立ち上げで随分助けられた。
その恩返しというわけではないが……
ハンスさんの目の怪我、ようやく治せそうだ。」
すすむは胸が熱くなった。
「……本当ですか。」
「白い翼の僧侶は腕がいい。期待していいぞ。」
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翌日。
白い翼のメンバーがグレンホテルに姿を現した。
白いマントを羽織った精鋭たちの中から、一人の僧侶がすすむに歩み寄る。
「白い翼の僧侶、ハインツだ。
ギルバートから話は聞いている。
ハンス……だったな。案内してくれ。」
落ち着いた声だが、芯の強さを感じる人物だった。
すすむは頷き、偽装馬車へ案内する。
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グレンインの離れに到着すると、クラレスが出迎えた。
「すすむさん……本当に、治るんですか?」
「ええ。ハインツさんが来てくれました。」
部屋に入ると、ハンスはベッドに腰掛けていた。
片目に包帯を巻き、静かにこちらを見つめる。
「……治療をしてくれるんだってな。」
「はい。準備はよろしいですか?」
「もちろんだ。頼む。」
ハインツはハンスの前に立ち、深く息を吸った。
「では、始める。」
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ハインツが両手をかざし、静かに詠唱を始める。
「――ハイヒール」
その瞬間、ハンスの顔の周囲が柔らかな光に包まれた。
温かい風が部屋を満たし、包帯の下から淡い輝きが漏れ出す。
すすむもクラレスも、息を呑んで見守った。
やがて光が収まり、ハインツが静かに告げる。
「……ゆっくり、目を開けてみてくれ。」
ハンスは震える手で包帯を外し、ゆっくりと瞼を開いた。
「……あ……」
最初は小さな声。
だが次の瞬間、彼の声は震え、涙が溢れた。
「見える……見えるぞ……!
クラレス……! お前の顔が……はっきり見える……!」
クラレスは泣きながらハンスに抱きついた。
「よかった……本当によかった……!」
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ハンスの家族も駆けつけ、ハインツに深々と頭を下げた。
「本当に……本当にありがとうございます!」
「息子が……また目が見えるなんて……!」
ハインツは照れくさそうに微笑んだ。
「私は術を使っただけだ。
治る力を持っていたのは、本人だよ。」
すすむも胸が熱くなった。
ハンスはすすむの方を向き、力強く言った。
「すすむさん……ありがとう。
あなたが動いてくれなければ、この奇跡はなかった。」
すすむは首を振った。
「僕はきっかけを作っただけです。
治したのはハインツさんですし、
ここまで耐えてきたのはハンスさん自身ですよ。」
ハンスは涙を拭い、笑った。
「……また冒険に出られそうだ。」
その言葉に、部屋の空気が一気に明るくなった。
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治療を終え、すすむとハインツは馬車でホテルへ戻った。
「……いい仕事をしたな。」
ハインツがぽつりと言う。
すすむは微笑んだ。
「あなたのおかげです。」
「いや、違う。
お前が動いたから、俺はここに来た。
それがすべてだ。」
僧侶の言葉は静かだが、重みがあった。
すすむは空を見上げた。
――この世界で、自分にできることがまだまだある。
そう強く感じた一日だった。




