第39章 エレニアへの送迎準備と、偽装馬車の進化
第39章 エレニアへの送迎準備と、偽装馬車の進化
マンハイム上級政務官が宿に滞在して二日目の朝。
ローレント政務官と助手マーカスの顔色は、昨日にも増して青ざめていた。
理由は単純だった。
上級政務官が来たことで、検地作業が“異常な速度”で進み、
本来あと三日かかる予定が、今日中にほぼ終わってしまったのだ。
「……明日にはエレニアに戻るぞ。」
マンハイムのその一言で、二人は魂が抜けたような表情になった。
宿の快適さと料理に名残惜しさを滲ませつつも、
上級政務官としての責務は果たす――その姿勢はさすがだった。
村長宅に行く前、マンハイムがすすむを呼び止めた。
「白谷すすむ殿。明日、我々三人をエレニアまで送ってほしい。」
「エレニアまで……ですか?」
「うむ。行きに使った早馬は貸し馬屋のものでな。
戻る足がないのだ。馬車を出してもらえると助かる。」
すすむは即座に頷いた。
「承知しました。お任せください。」
マンハイムは満足げに頷き、ローレントとマーカスを連れて村長宅へ向かった。
三人が出ていった後、すすむはリリアを呼び、道の情報を聞く。
「エレニアまでは……そうね、だいたい八十キロくらいかしら。
丘陵地帯を抜けていく道で、あの……すすむさんが最初にハンスたちと会った場所を通るわ。」
「なるほど……あの道か。」
すすむは記憶を辿りながら頷いた。
あの草原の丘陵地帯を越えるとなると、馬車の揺れは相当なものになる。
(なら、快適性を上げておかないと……)
ホテルマンとしての“移動の快適さ”へのこだわりが、自然と頭をもたげる。
裏の広場に移動したすすむは、周囲を確認してから車を呼び出した。
そして、偽装スキルを発動し、八人乗りの大型馬車へと変化させる。
二頭立ての馬は、例の“リアルすぎるロボット馬”。
筋肉の動きまで再現されたその姿は、近くで見ても本物と見分けがつかない。
「さて……ここからが本番だ。」
すすむは車保守スキルを使い、馬車の内部構造を調整していく。
まずは――
エアサスペンションの導入。
見えない部分にクッション機構を仕込み、
丘陵地帯の揺れを極限まで抑える。
次に――
幌の密閉構造化。
風雨を完全に遮断し、内部の温度を保ちやすくする。
布地は厚手で、外からの視線も通さない。
さらに――
座席の改良。
通販でマットとクッションを購入し、
長時間座っても疲れないように配置する。
「これなら……エレニアまでの道のりも快適に過ごせるはず。」
馬車の内部は、まるで“移動式ラウンジ”のような仕上がりになった。
すすむは馬車の外観をもう一度確認し、満足げに息をついた。
「よし。これで準備完了だ。」
明日、エレニアへ向かう旅路は、
ただの送迎ではなく――
すすむの“ホスピタリティ”が詰まった特別な移動になる。
マンハイム上級政務官がどんな反応を見せるのか、
すすむは少しだけ楽しみにしていた。




