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第3章 丘の道と、暴走する馬車

第3章 丘の道と、暴走する馬車


すすむは、車を丘の陰に停め、道の様子をじっと観察していた。

草原を渡る風が、車体を軽く揺らす。

遠くで鳥の声が響き、世界は穏やかそのものだった。


しかし、すすむの胸には緊張があった。


「……本当に、馬車が通るのだろうか。」


異世界かどうかはまだ確信が持てない。

だが、ステータス画面の存在と、遠くに見えた馬車らしき影が、現実をじわじわと押し寄せさせていた。


すすむは、車の中で背筋を伸ばし、深呼吸をした。

ホテルマンとして、未知の状況でも冷静であることは身に染みついている。


「まずは、観察だ。焦らない。」


そう自分に言い聞かせる。


やがて、一時間ほどが過ぎた頃だった。

丘の向こうから、ゆっくりと車輪の軋む音が聞こえてきた。


「……来た。」


すすむは身を乗り出し、道の方を見つめた。


土煙を上げながら、木製の馬車が姿を現した。

二頭の馬が引き、御者台には中年の男性が座っている。

馬車の後部には、数名の人影が揺れていた。


「本当に……中世の馬車だ。」


すすむは息を呑んだ。

まるで歴史資料の中から抜け出してきたような光景だ。


馬車は、丘陵のゆるやかな坂を下ってくる。

御者は手綱を巧みに操り、馬たちも落ち着いているように見えた。


しかし――


「……あ。」


馬の耳がピクリと動き、次の瞬間、馬たちがすすむの車の方を向いた。


すすむの車は、丘の陰に隠しているつもりだったが、完全に死角ではなかったらしい。

光沢のある車体が、異世界の馬たちには異様に見えたのだろう。


馬の目が大きく見開かれ、鼻息が荒くなる。


「まさか……」


すすむが呟いた瞬間、馬たちは突然、暴れ出した。


「ヒヒィィンッ!」


御者が慌てて手綱を引くが、馬は完全にパニックに陥っていた。

馬車は大きく揺れ、車輪が跳ねる。


「危ない……!」


すすむは車のドアに手をかけたが、間に合わない。


馬車は制御を失い、坂道を暴走し始めた。

御者の叫び声が風に乗って響く。


「止まれっ! 止まれぇっ!」


しかし、馬たちは恐怖に駆られ、さらに速度を上げる。

馬車は左右に揺れ、乗っている人々の悲鳴が聞こえた。


すすむは車を飛び出し、道の先を見つめた。


「……あれでは、転倒する……!」


予感はすぐに現実となった。


馬車は坂の途中で大きくバランスを崩し、横転した。

木製の車体が軋み、車輪が外れ、馬車はそのまま丘の斜面を転がり落ちていく。


「っ……!」


すすむは迷わず車に戻り、エンジンをかけた。

アクセルを踏み込み、馬車が落ちた方向へ向かう。


「急がないと……!」


ホテルマンとして、事故現場に遭遇したときの対応は身についている。

救急処置の経験もある。

何より、目の前で人が危険に晒されているのを見過ごすことはできなかった。


車は草原の斜面を下り、転がった馬車の近くに停まった。


すすむはドアを開け、駆け寄る。


馬車は無残に壊れ、木片が散乱している。

馬は恐怖のまま走り去ったのか、姿はなかった。


そして、地面には――

御者と、三人の乗客が投げ出されていた。


すすむは息を呑む。


「……大丈夫ですか!」


返事はない。

三人は気絶しており、うち二人は明らかに骨折していた。

御者だけが、かろうじて意識を保っている。


すすむは膝をつき、御者の肩に手を置いた。


「しっかりしてください!」


御者は苦しげに顔を上げ、すすむの姿をぼんやりと見つめた。


「……あなたは……誰だ……?」


すすむは一瞬、言葉に詰まった。

だが、言語スキルのおかげか、会話は問題なく通じている。


「私は……国外から旅をしてきた者です。事故を見て、助けに来ました。」


御者は痛みに顔を歪めながらも、すすむの言葉に安堵したようだった。


「……助けて……くれ……」


すすむは深く頷き、周囲の怪我人たちを見回した。


「わかりました。まずは応急処置をします。」


異世界での最初の出会いは、予想外の“救助”から始まった。


すすむは背広の袖をまくり、ホテルマンとして培った冷静さと判断力を総動員して、行動を開始した。


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