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第38章 上級政務官の胃袋をつかんだ日

第38章 上級政務官の胃袋をつかんだ日


マンハイム上級政務官が宿に泊まり始めて二日目の朝。

ローレント政務官と助手マーカスの顔色は、まるで夜通し通夜をしてきたかのように真っ青だった。


「……ローレントさん、大丈夫ですか?」

すすむが声をかけると、ローレントは震える声で答えた。


「だ、大丈夫じゃない……! あと三日も検地が残っているのに、上級政務官が隣の部屋に泊まって監督するとか……死刑宣告だ……」


マーカスも同じく青ざめている。


「上司が四六時中そばにいるなんて……胃が……胃が……」


二人の肩は落ち、背中には重圧がのしかかっていた。

すすむは苦笑しつつも、ホテルマンとして“上司に詰められる部下”の気持ちは痛いほど理解できた。


朝食が終わると、マンハイム上級政務官がロビーに姿を現した。


「給仕、昼食を村長の家に届けてくれ。検地の合間に食べる。」


その言い方は命令に近いが、昨日の料理に感動していたせいか、どこか期待を含んだ声音でもあった。


すすむは軽く会釈し、すぐに頭の中でメニューを組み立てる。


(ケータリングは得意分野だ……任せてください、上級政務官様。)


まずは《通販》で弁当箱を購入し、調理に取りかかった。


・豚肉の生姜焼き

・刻みキャベツ

・甘く煮たリンゴ

・ポルチーニ茸と野菜のラタトゥイユ

・ドライトマトとジャガイモのサラダ

・ローストビーフ


彩り、香り、食感、栄養バランス。

すべてを考慮しながら、すすむは手際よく詰めていく。


その様子を、リリアとレミーが興味津々で覗き込んでいた。


「すすむさん……お弁当って、こんなに綺麗に詰めるものなのね……!」

「色がすごくきれいだよ! 見てるだけでお腹が空いてくる!」


二人の感嘆の声に、すすむは少し照れながらも嬉しくなる。


「料理は見た目も大事ですからね。食べる前から楽しんでもらえるように。」


完成した弁当は、まるで宝石箱のように美しかった。


「レミー、これを村長の家までお願いできますか?」


「任せて!」


レミーは胸を張り、弁当を抱えて走っていった。


夕方。

検地を終えた三人が宿に戻ってきた。


ローレントとマーカスは疲労困憊で魂が抜けかけていたが、

マンハイム上級政務官だけは妙に上機嫌だった。


すすむを見つけると、すぐに歩み寄ってくる。


「給仕! 昼の弁当、見事だったぞ!」


「それは光栄です。」


「まず、あの容器だ! あんな薄くて軽い箱に料理を詰めるとは……斬新すぎる!

それに料理の彩り、味、香り……どれも素晴らしい! あれは芸術だ!」


マンハイムは興奮気味に身振り手振りを交えながら褒め続ける。


「豚肉の生姜焼きというのか? あの甘辛い味は初めてだ。

ローストビーフも絶妙だった。

そして……あのリンゴ! あれは何だ? デザートなのか? 副菜なのか? どちらでもいい、美味かった!」


すすむは丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。お口に合って何よりです。」


「うむ! 夕食も期待しているぞ!」


最後にそう言い残し、マンハイムは部屋へ戻っていった。


ローレントとマーカスは、放心したようにすすむを見つめる。


「……すごい……」

「上級政務官があんなに褒めるなんて……初めて見ました……」


すすむは苦笑しながら肩をすくめた。


「どうやら、上級政務官の胃袋をつかんでしまったようですね。」


その言葉に、ローレントは涙目ですすむの手を握った。


「すすむさん……どうか……どうかこの三日間、我々を助けてください……!」


こうして、宿は新たな“特別なお客様”を迎え、

すすむの料理はさらに異世界の人々を魅了していくことになるのだった。



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