第36章 ユニットバスと光の驚き、そして宿の新時代
第36章 ユニットバスと光の驚き、そして宿の新時代
翌朝。
朝食の準備、配膳、片付け、そしてチェックアウトの対応まで一気に駆け抜けたすすむは、ようやく一息つける時間を迎えていた。
宿の空気が落ち着いたところで、彼はリリアとレミーを自室へ招いた。
「お待たせしました。今日は新しい設備を見てもらおうと思って。」
部屋に入った二人は、見慣れない白い箱状の設備に目を丸くする。
「すすむさん、これは……?」
「ユニットバス(小)です。まずは、お湯を出してみますね。」
すすむが蛇口をひねると、金属の口から勢いよく温かい湯が流れ出した。
リリアは思わず口元を押さえ、目を輝かせる。
「な、なんて贅沢なの……! 部屋でお湯が出るなんて……!」
レミーも身を乗り出し、湯気を見つめながら感嘆の声を漏らす。
「これ、お客さんが見たら絶対に喜ぶよ! 村じゃこんなの見たことない!」
すすむは微笑みながら、次にトイレの説明をする。
水を流す仕組みや、匂いがこもらない構造を丁寧に説明すると、リリアは感動のあまり胸に手を当てた。
「すすむさん……これはもう、王都の貴族の屋敷より快適なんじゃないかしら……」
「そんなに褒められると照れますね。でも、まだありますよ。」
すすむは壁に取り付けたスイッチに手を伸ばした。
「これが、ルーフライトです。」
カチッ。
次の瞬間、天井のガスライト調の照明がふわりと灯り、部屋全体が一気に明るくなる。
リリアは思わず目を細め、レミーは「うわぁ……!」と声を上げた。
「すごく明るい……! こんな光、見たことないわ!」
「これ、魔法の道具なの? すごい……!」
二人は興奮気味にスイッチを何度もON/OFFし、光の変化を確かめていた。
すすむはその様子を見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「気に入ってもらえてよかったです。」
その日の午後。
すすむは空いている三人部屋に、ユニットバス(小)とルーフライトを設置した。
MPはごっそり減ったが、達成感は大きい。
準備が整うと、彼は大部屋に向かい、扉をノックした。
「ミーシャさん、クラレスさん、セレスさん。少しお時間よろしいですか?」
三人が顔を出すと、すすむは新しく改装した部屋へ案内した。
扉を開けた瞬間、三人は息を呑んだ。
「……なに、この部屋……?」
ミーシャが驚きの声を漏らし、クラレスは胸の前で手を組む。
セレスは目を丸くしながら、ゆっくりとユニットバスへ近づいた。
「小さいけれど……ちゃんと湯船があるのね……!」
すすむは蛇口をひねり、お湯が流れる様子を見せる。
「部屋でお風呂に入れるようにしました。照明も、スイッチで明るさを調整できます。」
カチッ。
天井のルーフライトが灯ると、三人は同時に声を上げた。
「「「わぁ……!」」」
ミーシャは興奮気味にすすむへ振り返る。
「すすむ、これ……すごいわよ! こんな部屋、王都でも滅多にないわ!」
クラレスは涙ぐみながら天井を見上げた。
「神よ……こんな恵みを与えてくださるとは……」
セレスは静かに頷き、しみじみと呟く。
「年を取って、こんなにわくわくすることは久しぶりだよ……」
すすむは三人の反応に満足しつつ、提案を切り出した。
「もしよければ、この部屋に移っていただけますか? 三人で使っていただけるように準備しました。」
三人は顔を見合わせ、即答した。
「もちろんよ!」(ミーシャ)
「ぜひお願いします!」(クラレス)
「こんな機会、逃す理由がないね。」(セレス)
こうして三人は大喜びで部屋の移動を希望した。
その後も、すすむは毎日MPを使い切るまで設備を設置し続けた。
ユニットバス(小)とルーフライトのセットは大量のMPを消費するため、一日に一部屋が限界だ。
だが、政務官ローレントも、助手のマーカスも、そしてグラントも、改装された部屋を見るたびに歓声を上げた。
「これは……文明の飛躍だな……!」(ローレント)
「明るい……! 夜でも本が読める……!」(マーカス)
「風呂が部屋にあるなんて……最高だ!」(グラント)
宿の評判は日に日に高まり、村の人々も噂を聞きつけて見学に来るほどだった。
そして数日後――
全ての客室が、ユニットバス(小)とルーフライトを備えた“異世界最高級の宿”へと生まれ変わった。
すすむは完成した宿を見渡し、静かに息をついた。
「……これで、また一歩、理想の宿に近づいたな。」
異世界の小さな村に、現代の快適さが根を下ろし始めていた。




