第34章 商隊の夜と、宿屋の成長
第34章 商隊の夜と、宿屋の成長
夕暮れが村を金色に染め始めた頃、宿の前の道に土煙が上がった。
レミーが外で薪を割っていた手を止め、目を細める。
「……商隊だ!」
十数台の荷馬車が列をなし、護衛の冒険者たちが周囲を固めている。
この規模の商隊がグレン村に立ち寄るのは珍しい。
そして彼らは宿の看板を見るなり、次々と馬車を止め始めた。
「すみませーん! 宿、空いてますか!」
リリアが慌てて玄関から飛び出し、すすむも後ろから続く。
商隊長らしき男が朗らかに笑いながら言った。
「今日は野営のつもりだったが、こんな立派な宿があるとはな!
全員分、部屋を頼みたい!」
「ぜ、全員分……?」
リリアが目を丸くする。
すすむはすぐに状況を理解し、胸の奥が熱くなる。
――全室満室。
この宿が、ついにそんな日を迎えたのだ。
「リリアさん、すぐに夕食の準備に取りかかりましょう。
人数が多いので、二部制にします!」
「ええ、わかったわ!」
厨房へ駆け込むと、ちょうどクラレスたち冒険者チームが帰ってきた。
「すすむさん、またポルチーニ茸、取ってきたわよ」
ミーシャが袋を掲げる。
すすむは思わず笑みをこぼした。
「助かります! 今日は大人数なので、大活躍しますよ」
★★★★★
すすむは能力《通販》でピザ生地のベースを調達し、
ポルチーニ茸、玉ねぎ、ハーブ、チーズをたっぷり乗せてオーブンへ。
同時に、ポルチーニ茸のグラタン用にホワイトソースを作り、
耐熱皿に具材を詰めて次々と焼き上げる。
「すすむさん、スープはどうするの?」
「大鍋を調達します!」
念じると、厨房の隅に大鍋が現れた。
そこへ炒めた野菜とポルチーニ茸、ブイヨンを加え、
香り高いスープがぐつぐつと煮立っていく。
オーブンはフル稼働。
厨房は熱気と香りで満ち、リリアが汗を拭いながら笑った。
「こんなに忙しいの、久しぶりね!」
「でも……楽しいですね」
すすむは本心からそう思った。
ホテルマンとしての血が騒ぐ。
大人数の料理を回す緊張感と達成感――懐かしい感覚だった。
★★★★★
食堂は商隊の人々でぎっしり埋まり、
焼きたてのピザとグラタン、スープが次々と運ばれていく。
「うまい! なんだこの香りは!」
「ポルチーニ茸って、こんなに濃厚なのか……!」
「この村に、こんな料理が出せる宿があるとは……!」
すすむは厨房からその声を聞き、胸が熱くなる。
料理を運ぶレミーも誇らしげだった。
「すすむさん、みんなすごく喜んでるよ!」
二部制の夕食は大成功。
部屋へ戻る商隊の人々からは、料理だけでなく寝具の質にも驚く声が上がった。
「ふかふかだ……街の宿より上じゃないか!」
「この村、侮れんな……」
リリアは照れくさそうに笑い、すすむは静かに安堵した。
★★★★★
翌朝。
まだ薄暗い時間から、すすむとリリアは朝食の準備に追われていた。
クロワッサン、黒ライ麦パン、クランベリージャム、バター。
グリーンサラダに、能力で調達したコーンスープ。
そして薄切りベーコンとスクランブルエッグ。
「すすむさん、パンの香りがすごいわね!」
「焼きたてはやっぱり違いますね」
レミーは食堂の準備を終えると、商隊の荷物運びへ走っていく。
ハンスは目がほとんど見えないながらも、気配で忙しさを察し、
「わしも……何か手伝えることは……」
と言うが、リリアが優しく肩に触れた。
「大丈夫よ、あなたは座ってて」
ハンスは悔しそうにしながらも、家族の気遣いに小さく頷いた。
朝食も二部制で提供され、
食堂はまたも感動の声で満たされた。
「朝からこんな贅沢な食事、初めてだ!」
「この宿……本当にすごいな」
★★★★★
皿洗いと片付けが終わる頃、
商隊長が受付に立つリリアへ深々と頭を下げた。
「素晴らしい宿だった。
料理も寝具も、どれも一級品だ。
また必ず立ち寄らせてもらう」
そう言い残し、商隊はゆっくりと村を後にした。
荷馬車の列が見えなくなった瞬間――
すすむの身体が淡く光に包まれた。
「……え?」
ステータス画面が浮かび上がる。
白谷すすむ LV4
体力:30
防御:25
素早さ:32
知力:20
魔力:100
スキル
・建物LV3(消費5~100)
・車保守LV1(消費5~10)
・偽装LV1(消費5)
・通販LV2(消費5~100)
・収納LV1
・言語LV1
「……ずいぶん変わったな」
魔力は一気に100。
建物スキルはLV3へ上昇し、新たに《収納》まで覚えている。
リリアが不思議そうに近づいてきた。
「すすむさん、どうかしたの?」
すすむは微笑んだ。
「いえ……宿が、また一歩成長した気がして」
リリアも同じように笑った。
「ええ、本当に。
あなたが来てから、毎日が変わっていくわ」
すすむは胸の奥が温かくなるのを感じた。
――この宿は、もっと良くなる。
自分の力で、もっと多くの人を笑顔にできる。
そう確信しながら、すすむは新しい一日へと歩き出した。




