第33章 森の恵みと、新たな名物料理
第33章 森の恵みと、新たな名物料理
翌朝。
宿の食堂に柔らかな朝日が差し込み、温かいスープの香りが漂っていた。
朝食を終えると、政務官ローレントと助手マーカスは、今日も村長宅へ向かっていった。
畑の検地はまだ続くらしく、二人とも真剣な表情で資料を抱えている。
一方、冒険者チームの四人――グラント、ミーシャ、クラレス、セレスの姿もあった。
「今日も村長さんからの依頼でな。森の奥の魔獣を狩ってくる。」
グラントが大きな剣を背負いながら言う。
「ギルドがない村は、こういう直接依頼が多いのよ。」
ミーシャが肩をすくめる。
すすむは興味深く耳を傾けた。
「直接依頼って、どういう仕組みなんですか?」
セレスが穏やかに説明してくれる。
「ギルドで受ける依頼とは別に、依頼主から直接“依頼状”を受け取るのです。
達成したら依頼主から報酬を受け取り、私たちは“依頼完了書”を発行してギルドに提出します。
そうすると、正式な実績として記録されるのですよ。」
「へぇ……結構複雑なんですね。」
「ええ。でも、ギルドがない村ではこれが普通ですわ。」
クラレスが微笑む。
四人は軽く手を振り、狩りへと出かけていった。
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夕方。
空が茜色に染まり始めた頃、冒険者たちが戻ってきた。
「ただいま戻ったぞ!」
グラントが大声で笑う。
「今日は討伐の途中で、珍しいものを見つけたの。」
ミーシャが袋を差し出す。
すすむが袋を開けると――
ふわりと濃厚な香りが立ちのぼった。
「……これは、ポルチーニ茸と黒トリュフじゃないか。」
思わず声が漏れた。
日本でも高級食材として扱われる二つが、まさか異世界の森で採れるとは。
「今日の夕食に使えないか?」
グラントが期待の眼差しを向ける。
すすむは笑って頷いた。
「もちろん。最高の料理にしてみせます。」
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すすむはリリアを呼び、厨房へ向かった。
「今日は特別メニューだよ。
ポルチーニ茸のパスタと、黒トリュフのリゾットを作る。」
「パスタ……リゾット……?」
リリアは首をかしげる。
「この村では、ポルチーニもトリュフもオリーブオイル漬けにして食べるのが一般的なんだって?」
すすむが聞くと、リリアは頷いた。
「ええ。香りが強いから、そのまま食べるのが普通で……
料理に使うなんて、考えたこともなかったわ。」
「じゃあ、今日は新しい食べ方を紹介するよ。」
すすむは手際よく材料を切り、鍋に火を入れる。
バターの香りが広がり、リリアが思わず息を呑んだ。
「すごい……香りが全然違う……」
「トリュフは香りが命だからね。
リゾットはゆっくり、丁寧に火を通すんだ。」
すすむは米を炒め、スープを少しずつ加えながら、丁寧にかき混ぜる。
その横で、ポルチーニ茸のパスタも同時進行で仕上げていく。
しばらくして――
二つの料理が完成した。
「よし、できた。」
鍋から立ち上る香りは、厨房全体を包み込み、リリアは目を輝かせた。
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量は多い。
冒険者四人分だけでなく、政務官たち、リリアたち、そしてすすむ自身の分まで十分にある。
まずは冒険者たちに提供した。
「……なんだ、この香りは……!」
グラントが目を見開く。
「ひと口で、こんなに幸せになれるなんて……」
クラレスが感動して涙ぐむ。
「これ、王都の高級店でも出ないわよ……」
ミーシャが驚きの声を上げる。
セレスは静かに味わい、深く頷いた。
「……これは、料理というより芸術ですわね。」
続いて政務官たちにも出すと、ローレントが目を丸くした。
「こ、これは……!
王都でも滅多にお目にかかれぬ一品ですぞ……!」
マーカスも感嘆の声を漏らす。
「この宿……ただ者ではありませんね……」
すすむは照れくさく笑った。
「森の恵みのおかげですよ。」
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こうして、
「黒トリュフのリゾット」
「ポルチーニ茸のパスタ」
という二つの新メニューが、この宿の名物として加わった。
村人たちの間でも噂になり、
「一度食べてみたい」
という声が広がっていく。
異世界の小さな村の宿に、また一つ、すすむのホスピタリティが根付いた瞬間だった。




