第2章 ステータスと魔法と、異世界の道
第2章 ステータスと魔法と、異世界の道
すすむは、車の中でしばらく道を眺めていた。
遠くに見えた馬車は、まだこちらへ向かってくる気配がない。
風が草原を渡り、車体を軽く揺らす。
「……本当に、異世界なのかもしれないな。」
口に出してみると、妙に現実味が増した。
だが、確証はない。
夢かもしれないし、事故のショックで見ている幻覚かもしれない。
そう思いながらも、すすむはふと、ある“お約束”を思い出した。
「……ステータス、なんてものは……?」
半ば冗談のつもりで、心の中で念じてみる。
――その瞬間。
視界の端に、淡い光が浮かび上がった。
すすむは思わず息を呑む。
「……え?」
光は形を成し、透明な板のようなものが目の前に現れた。
そこには、見慣れない文字と数字が並んでいる。
白谷すすむ LV1
体力:12
防御:10
素早さ:13
知力:10
魔力:10
スキル
・建物LV1(消費5)
・車保守LV1(消費5)
・偽装LV1(消費5)
・通販LV1(消費5)
・言語LV1
すすむは、しばらく言葉を失った。
「……これは……ゲームのステータス画面、みたいな……?」
指を伸ばしてみると、光の板はすり抜ける。
だが、確かにそこに“ある”と感じられる不思議な存在感があった。
「魔力……10ポイント……?」
魔法という概念があるらしい。
しかも、使える魔法がいくつか表示されている。
建物、車保守、偽装、通販――
どれも、ホテルマンとしての経験や、現代日本の生活に関係がありそうなものばかりだ。
「……通販って、まさか……」
試しに、頭の中で“通販”を強く念じてみる。
すると、視界にまた光が広がり、今度は見覚えのある“通販サイト”のような画面が浮かび上がった。
「……本当に……?」
商品一覧が並び、検索窓まである。
ただし、品揃えは簡素で、救急セットや工具、簡易寝具など、最低限のものだけだ。
「……魔法で、買える……?」
試しに、救急セットのページを開こうとすると――
魔力消費:5
という文字が表示された。
「……魔力が10だから……2回しか使えない、ということか。」
すすむは画面を閉じた。
今は使うべきではない。
状況がわからない以上、魔力は温存するべきだ。
「……落ち着け。まずは、情報だ。」
すすむは深呼吸をし、車の外に出た。
草原の風が、背広の裾を揺らす。
遠くの道を見つめると、さきほどよりもはっきりと馬車の姿が見えた。
ゆっくりと、こちらへ向かっている。
「……本当に、馬車だ。」
木製の車体、二頭の馬、御者らしき人物。
まるで中世ヨーロッパの絵画のような光景だ。
すすむは車に戻り、エンジンをかけた。
草原の丘陵を越え、道へ向かってゆっくりと進む。
「……とにかく、あの道に出よう。」
車は草を踏みしめながら進み、やがて道の近くにたどり着いた。
すすむは車を止め、馬車が近づくのを待つことにした。
しかし、馬車はまだ遠い。
すすむは、車を道から少し離れた丘の陰に移動させ、様子を見ることにした。
「……慎重に行こう。」
異世界かどうかはまだ確定ではない。
だが、見知らぬ土地であることは間違いない。
不用意に姿を見せるより、まず観察するべきだ。
すすむは車の中で、馬車が近づくのをじっと待った。
風が草原を渡り、遠くで鳥の声が響く。
静かで、どこか穏やかな時間だった。
「……さて、どうなるか。」
すすむは、これから始まるであろう異世界での生活を、まだ想像できずにいた。
だが、この慎重な判断が、後に彼の運命を大きく左右することになる。




