第27章 看板づくりと、ミーシャの意外な才能
第27章 看板づくりと、ミーシャの意外な才能
翌日の昼下がり。
すすむとレミーは、宿の裏手――馬車を停めている広場で作業をしていた。
すすむが能力で調達した木の板と塗料を並べ、簡易作業台を作る。
「よし、ここに“グレンイン”の看板を描くぞ。」
「うん。父さんもきっと喜ぶよ。」
二人で板の表面を磨き、下地を塗り、文字の配置を考えていると――
「何してるの?」
軽やかな声が背後から聞こえた。
振り返ると、斥候のミーシャが腰に手を当てて立っていた。
「看板を作ろうと思ってて……」とすすむが答えると、
ミーシャはにやりと笑った。
「何か書こうとしているの?私、絵がうまいわよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。地図も描くし、魔物の特徴を記録することも多いからね。
細かい作業は得意よ。」
すすむは思わず手を止めた。
「実は……宿の看板を描こうとしてたんです。
“グレンイン”って名前を入れたくて。」
ミーシャは胸を張り、堂々と言った。
「そうなの。じゃあ私に任せてよ。」
★★★★★
すすむとレミーが板を固定すると、ミーシャは筆を取り、迷いなく描き始めた。
まずは大きく、力強い筆致で――
Glen Inn
と中央に文字を描く。
その周囲には、森を思わせる蔦の装飾、村の象徴である小川の波紋、
そして宿を表すランタンの小さなイラストまで添えられていく。
「す、すごい……」
「ミーシャさん、めちゃくちゃ上手い……!」
レミーは目を輝かせ、すすむも思わず見入ってしまった。
ミーシャは筆を置き、満足げに言った。
「どう? 旅人が見たら一発で宿だってわかるでしょ。」
「はい! 本当にすごいです!」
「ミーシャさん、ありがとうございます!」
二人の感嘆に、ミーシャは照れくさそうに肩をすくめた。
「ふふ、これくらいお安い御用よ。」
★★★★★
三人は完成した看板を慎重に持ち上げ、宿の入口へ運んだ。
夕陽が差し込み、看板の木目と装飾が美しく輝く。
「ここに取り付けましょう。」
すすむは脚立を立て、看板を入口の上へ掲げる。
レミーが支え、ミーシャが位置を調整し、
すすむはペグを打ち込んでしっかりと固定した。
カン、カン、カン――
乾いた音が村に響く。
最後の一本を打ち終えると、すすむは一歩下がって看板を見上げた。
「……いい。これは本当にいい。」
風に揺れる木の板。
“グレンイン”の文字は堂々としていて、旅人の目を引くこと間違いなしだ。
すすむは胸の奥からじんわりと満足感が湧き上がるのを感じた。
「ミーシャさん、本当にありがとうございました。」
ミーシャは軽く手を振り、いつものクールな笑みを浮かべた。
「どういたしまして。
でも……こんなに喜んでもらえるなら、描いた甲斐があったわ。」
すすむとレミーは深く頭を下げた。
こうして、“グレンイン”は初めて“宿らしい顔”を手に入れた。
その看板は、これから訪れる旅人たちを静かに迎え入れることになる。




