第25章 レミーの学びと、宿に満ちる温かな空気
第25章 レミーの学びと、宿に満ちる温かな空気
翌日。
朝の柔らかな光が差し込む廊下で、すすむはレミーを呼び止めた。
「レミー。今日は一緒に作業しよう。コーキング材の使い方を覚えておくと、これから役に立つよ。」
「うん。教えて、すすむさん。」
レミーはまだ完全ではないものの、歩く姿にはもう痛々しさはない。
若い身体の回復力と、クラレスの治癒魔法の効果は本当に大きかった。
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すすむは、昨日調達したコーキング材と塗料を手に、レミーと一緒に二階の客室へ向かった。
「まずは、隙間を見つけるところからだよ。」
すすむは窓枠に手を当て、冷たい風が入り込む部分を示す。
「ここに、こうやって……押し込むんだ。」
レミーは真剣な表情で頷き、すすむの手元をじっと見つめる。
「こう……かな。」
「そうそう。力を入れすぎないようにね。」
二人で作業を進めると、部屋の空気が少しずつ変わっていく。
隙間風が止まり、室内の温度が安定していくのがわかる。
すすむは、目立つ部分に木目調の塗料を塗りながら言った。
「仕上げは大事だよ。見た目がきれいだと、お客さんの印象も良くなる。」
「なるほど……父さんが見たら、きっと喜ぶよ。」
レミーの声には、どこか誇らしげな響きがあった。
こうして二人で作業を続け、翌日の夕方までには全ての部屋の隙間を修復し終えた。
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作業を終えると、すすむはレミーをバイオトイレとレンタルシャワールームへ案内した。
「レミー。これからは、ここも任せたいんだ。使い方を覚えておいてね。」
「うん。任せて。」
すすむは丁寧に説明し、レミーは真剣にメモを取りながら聞いていた。
宿の設備が整っていくにつれ、レミーの表情にも自信が戻ってきている。
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夕方。
すすむは厨房で、リリアに「ごろごろ肉のポトフ」の作り方を教えていた。
「お肉は大きめに切ってください。煮込むと柔らかくなるので。」
「はい。こうかしら。」
リリアは慣れた手つきで野菜を切り、鍋に入れていく。
すすむは火加減を調整しながら、香りの変化を確かめた。
「いい匂い……これなら、きっと皆さん喜ぶわ。」
「ええ。今日は特に、冒険者さんたちが楽しみにしてるみたいですよ。」
リリアは少し笑いながら言った。
「実はね、あの四人……本当は今日の昼に出発する予定だったの。でも……」
「でも?」
「『食事が美味しすぎるから、あと一週間滞在する。』って言われちゃったの。」
すすむは思わず吹き出しそうになった。
「そんなに……?」
「ええ。あなたの料理、すごいわよ。」
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夕暮れ時。
食堂の窓から差し込む橙色の光が、テーブルを柔らかく照らしていた。
冒険者四人は、すでに席に座っている。
剣士グラントは腕を組みながら、鍋の匂いに鼻をひくつかせていた。
斥候ミーシャは静かにスプーンを手に取り、期待を隠しきれない様子。
僧侶クラレスは微笑みながら祈りの言葉を唱え、
魔法使いセレスは落ち着いた表情で鍋を見つめている。
すすむとリリアがポトフを配膳すると、四人は一斉に歓声を上げた。
「これは……すごい香りだ。」
「お肉が大きい……!」
「野菜もたっぷりで、体に良さそう。」
「いただきます。」
スプーンを口に運んだ瞬間、四人の表情が一気に緩んだ。
「……うまい。」
「とろける……!」
「これは……旅を延ばしてでも食べたい味ですね。」
「一週間どころか、もっと居たいくらいだ。」
すすむはその言葉を聞きながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(この宿が、誰かの“居たい場所”になっている……)
それは、ホテルマンとして何よりの喜びだった。
夕暮れの食堂には、温かな湯気と笑い声が満ちていた。




