第24章 レミーの復帰と、宿に流れ始めた新しい風
第24章 レミーの復帰と、宿に流れ始めた新しい風
レミーが歩けるようになってから、宿の空気は目に見えて変わった。
まだ全力で動けるわけではないが、若さゆえの回復力は驚くほどで、簡単な仕事なら問題なくこなせる。
「レミー、そっちはお願いね」
「うん、母さん!」
リリアが調理している間、レミーは配膳の準備をし、皿やカトラリーを整えていく。
誰かが食堂を掃除している時は、彼が客室の掃除に回る。
その姿を見て、リリアは何度も「本当に助かるわ」と嬉しそうに言っていた。
すすむにとっても、レミーの復帰は心強かった。
宿の仕事は細かい作業が多く、誰かが動けるだけで全体の流れが格段に良くなる。
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もう一つの変化は、政務官ローレントと助手マーカスの様子だった。
クラレスの治癒魔法のおかげで、二人は杖を使いながらも自力で歩けるようになり、昼食の時間には食堂まで降りてくるようになった。
「白谷殿、今日も良い香りだな」
「本当に……ここに来てから食事が楽しみで仕方ない」
以前のような不機嫌さはすっかり消え、むしろ穏やかで礼儀正しい態度に戻っている。
食事が人の心を変えるというのは、異世界でも同じらしい。
すすむは微笑みながら、「ごゆっくりおくつろぎください。」と声をかける。
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政務官たちが席についた直後、冒険者パーティーの四人が食堂に入ってきた。
「昼食をお願いしたいんだが、今日のメニューは?」
剣士グラントが声をかける。
すすむはエプロンを整えながら答えた。
「本日の昼食は、ハンバーグのプレートです。
ハンバーグ、サラダ、バターライスのセットになります」
「おお、それは楽しみだ!」
「私もそれで」
「同じく」
「では四人分お願いします」
冒険者たちが注文を終えると、政務官ローレントが手を挙げた。
「白谷殿、我々も同じものを頼む」
「かしこまりました」
すすむは厨房に戻り、ハンバーグを焼き始めた。
肉の焼ける香ばしい匂いが食堂に広がり、皆が期待に満ちた表情を浮かべる。
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料理を配膳すると、冒険者も政務官も、まるで競うように食べ始めた。
「うまい……! 肉汁が……!」
「このバターライス、香りがすごいわね」
「サラダのドレッシングも美味しい……」
「白谷殿、これは……本当に絶品だ」
すすむはその様子を見て、胸の奥が温かくなる。
(食べてくれる人がいるって、やっぱり嬉しいな)
宿の食堂には、しばらくの間、幸せそうな咀嚼音だけが響いていた。
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昼食の片付けが終わり、夕方になると、すすむは裏口から外へ出た。
魔力を使い、必要な食材を補充する。
さらに、宿の全客室分の寝具と、できるだけ多くのコーキング材を調達した。
(これで、しばらくは困らないな)
すすむはホテル時代、工務部の仕事も経験していた。
設備のメンテナンスや修繕は、ある程度なら自分でできる。
宿の二階に上がり、特に隙間風のひどい部屋へ向かう。
窓枠や壁の継ぎ目に手を当てると、冷たい風がスーッと流れ込んでくる。
「……これはひどいな」
すすむはコーキング材を取り出し、丁寧に隙間へ流し込んでいく。
指でならし、表面を整え、乾燥を待つ。
(これで、冬の寒さも少しは和らぐはずだ)
作業をしながら、すすむはふと微笑んだ。
(料理だけじゃなく、こういうところでも宿を良くできる。
ホテルマンとしての経験が、ちゃんと活きてるな)
夕暮れの光が差し込む部屋で、すすむは静かに作業を続けた。
宿は少しずつ、確実に良くなっていく。
そしてその変化は、やがて村全体にも広がっていくのだろう――
すすむはそんな予感を抱きながら、次の部屋へと向かった。




