第22章 冒険者たちの夕餉と、小さな達成感
第22章 冒険者たちの夕餉と、小さな達成感
村人たちは相変わらず、宿の新設備――バイオトイレやレンタルシャワールーム――を興味深そうに見学しに来るものの、
実際に宿泊する気配は薄かった。
「便利そうだなあ」「すごい仕組みだ」などと感心はしてくれるが、村人にとって宿は“旅人が泊まる場所”という認識が強く、
わざわざ自分たちが泊まる理由はないらしい。
そんな中、宿の客は三日前から滞在している商人夫妻だけ。
静かな日々が続いていたが、その日の夕方、すすむは外から複数の足音と話し声を感じ取った。
(……お客さんだ)
厨房で仕込みをしていた手を止め、耳を澄ませる。
どうやらリリアが玄関で応対しているようだった。
しばらくしてロビーに戻ると、リリアが宿帳を開きながら嬉しそうに微笑んでいた。
「すすむさん、よかったわ。冒険者のパーティーが四人、本日宿泊してくれるって。」
「おお、それはありがたいですね。」
リリアは宿帳に記入された名前を指でなぞりながら説明を続けた。
「ギルドの転籍で、この村を通ることになったらしいの。隣の国まで行く途中なんですって。
剣士、斥候、僧侶、魔法使い……典型的な四人組ね。二階の二部屋を使ってもらうことにしたわ。」
すすむは頷きながら、自然と胸が高鳴るのを感じた。
(せっかく泊まってくれるんだ。しっかり“おもてなし”しないと)
「夕食は、ちょっと気合い入れて作りますよ。」
「ふふ、すすむさんの料理なら、きっと喜んでくれるわ。」
その言葉に背中を押されるように、すすむは厨房へ戻った。
すすむが選んだメニューは――ハンバーガー。
この世界ではまず見かけない料理だが、だからこそ旅人には喜ばれるだろうと考えた。
付け合わせは、ポテトフライ、ピクルス、そしてグリーンサラダ。
パテは牛肉のものに加え、鱈に似た白身魚を使ったフライも用意する。
「今日は豪華ですね。」とリリアが微笑む。
「冒険者さんたち、長旅で疲れてるでしょうし。がっつり食べてもらいたいですから。」
すすむは慣れた手つきでパンを焼き、パテを焼き、魚を揚げる。
ケチャップやマスタード、特製ソースをしっかりと塗り、野菜を挟み込む。
リリアはいつものように、すすむの手元を興味深そうに見つめていた。
「本当に、すすむさんの料理って見てるだけで楽しいわね。
なんだか、魔法みたい。」
「魔法は使ってませんよ。……まあ、ちょっとだけ使ってるかもしれませんけど。」
二人で笑い合いながら、皿に盛り付けていく。
牛肉と魚、二種類のハンバーガーがずらりと並ぶと、厨房が一気に華やいだ。
「よし、これで全員分ですね。」
冒険者四人、政務官ローレントと助手マーカス、ハンス、レミー、リリア、そして自分の分。
合計十一皿のハンバーガーが完成した。
★★★★★
ロビーのテーブルに料理を並べると、冒険者たちが驚いた顔で集まってきた。
「な、なんだこの料理は……!?」
「パンに……肉が挟まってるのか? いや、魚もあるぞ?」
「すごい匂い……お腹すいてきた……。」
剣士の青年が恐る恐るかぶりつくと、目を見開いた。
「……うまっ!!」
その声に続いて、斥候の少女が勢いよく食べ始める。
「なにこれ! 外はカリッとしてるのに、中はジューシー!
こんなの初めて食べた!」
僧侶の青年は魚のフライを選び、感嘆の声を漏らした。
「この白身……ふわふわだ……。揚げ物なのに重くない……。」
魔法使いの女性はサラダをつまみながら、しみじみと呟く。
「旅の途中でこんな食事ができるなんて……贅沢ね。」
すすむは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(よかった……喜んでもらえて)
★★★★★
政務官ローレントと助手マーカスも、いつものように上品に食べながらも表情は緩みっぱなしだ。
「白谷殿の料理は、毎日が楽しみで仕方ないよ。」
「本当に……この村に来てから、食事が一番の癒やしです。」
ハンスとレミーも、包帯姿ながら嬉しそうに食べている。
リリアは、すすむの隣で静かに微笑んでいた。
「すすむさん……本当にありがとう。
お客さんたち、みんな幸せそうよ。」
すすむは照れくさくなりながらも、素直に頷いた。
「料理で喜んでもらえるのって……やっぱり嬉しいですね。」
宿の中は、笑い声と食器の音で満たされていた。
つい数日前まで静かだった空間が、まるで別の場所のように温かい。
すすむは、その光景を見ながら思う。
(ああ……こういう瞬間のために、俺は“おもてなし”をしてきたんだな)
異世界でも、変わらないものがある。
人が喜ぶ顔を見ると、自分も満たされる――そんな感覚だ。
そしてすすむは、心の中で静かに決意する。
(もっと、この宿を賑やかにしていこう。
この世界でも、俺にできることはきっとある)
温かい料理の香りと、笑顔に包まれながら、すすむの異世界での新しい一歩がまた始まっていた。




