第21章 村に広がる噂と、宿屋の新時代
第21章 村に広がる噂と、宿屋の新時代
バイオトイレが設置され、シャワールームが導入され、
さらにアメニティセットまで揃った宿屋は、
もはや村の誰もが知る“異世界の施設”になりつつあった。
最初に変化を感じたのは、宿屋の裏手にある井戸の周りだった。
「なあ、あれ……本当に臭くないんだって?」
「うん、ブランが言ってた。『鼻が幸せになるトイレ』だってよ。」
「鼻が幸せって何だよ……でも気になるな。」
村人たちは、バイオトイレの前を通るたびに、
恐る恐る扉を開けては、驚きの声を上げた。
「……ほんとに臭くない!」
「魔法か? いや、魔道具か?」
「リリアさんの宿、どうなってるんだ……?」
噂は瞬く間に広がり、
村の広場でも、鍛冶屋でも、酒場でも、
宿屋の話題で持ちきりになった。
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次に話題になったのは、シャワールームだった。
リリアが毎日嬉しそうに髪を整えている姿を見て、
村の女性たちがざわつき始めた。
「リリアさん、髪が……つやつやしてる……」
「肌も綺麗になってない?」
「何か特別な薬草でも使ってるの?」
リリアは照れながら答えた。
「いえ……白谷さんが用意してくれた“シャワー”というもので……
お湯が出て、髪も体も洗えるんです。」
女性たちは目を丸くした。
「お湯で……毎日洗えるの?」
「そんな贅沢、王都の貴族でもしないわよ!」
「リリアさん、すごい……!」
そして、リリアがアメニティセットを見せると、
村の女性たちはさらに騒ぎ出した。
「この小さな棒は何?」
「耳を掃除するものです。」
「えっ、そんな道具があるの!?」
「この白い粉は?」
「歯を磨くためのものです。」
「歯を……磨く……?」
「この小さな刃物は?」
「髭を剃るためのものです。」
「ひ、髭を剃る道具まで……!」
村の女性たちは興奮し、
村の男性たちは羨望の眼差しを向けた。
「リリアさんの宿……すごすぎないか?」
「王都の宿より豪華なんじゃ……」
「いや、王都でもこんなサービスは聞いたことがない。」
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そして、ついに村長ローガンの耳にも噂が届いた。
「白谷殿……村の者たちが、そなたの導入した“設備”について話しておる。
まるで王都の貴族の館のようだと。」
すすむは苦笑しながら答えた。
「そんな大したものではありませんよ。
ただ、少しでも生活が楽になればと思って。」
ローガンは深く頷いた。
「そなたが来てから、この村は確実に変わり始めておる。
宿屋の評判も、村の評判も、良い方向に向かっておる。」
リリアも横で微笑んだ。
「白谷さんのおかげで、お客さんが増えるかもしれません。
こんな村でも、泊まりたいと思ってくれる人が……」
すすむは静かに頷いた。
「ええ。
そのためにも、もっと改善していきましょう。」
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その日の夕方。
宿屋の前を通りかかった村人が、
シャワールームとバイオトイレを見て呟いた。
「……ここ、本当に村の宿屋か?」
「いや、もう“村の誇り”だな。」
宿屋の前に立つすすむは、
その言葉を聞きながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
(少しずつだけど……確かに変わってきている。)
異世界の小さな宿屋は、
今や村の未来を照らす光になりつつあった。




