第15章 リリアの初めての本格料理と、家族の笑顔
第15章 リリアの初めての本格料理と、家族の笑顔
すすむは厨房を出て、裏口から馬車の方へ向かった。
もちろん、食材はすでに用意してある。
だが、リリアに“自然に見せるため”に、あえて馬車から取ってくるふりをした。
「お待たせしました。
これが、さっき政務官の方々にお出しした料理の材料です。」
すすむが袋を開けると、リリアは驚きの声を上げた。
「まあ……こんなに綺麗な野菜……!
それに、このお肉……薄くて柔らかそう……」
すすむは微笑み、まな板の前に立つリリアに声をかけた。
「では、リリアさん。
さっきの料理を、今度はあなたの手で作ってみましょう。」
リリアは緊張した面持ちで頷いた。
「は、はい……やってみます。」
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まずはミネストローネから。
リリアは昨日見たすすむの動きを思い出しながら、野菜を刻み始めた。
「玉ねぎは……こう、でしたよね?」
「そうです。指を丸めて、刃を滑らせるように。」
すすむが優しくフォローすると、リリアの手つきは少しずつ安定していく。
鍋に油を入れ、玉ねぎを炒めると、甘い香りが広がった。
「……この香り、昨日も感じました。
これが……料理の香りなんですね。」
「はい。玉ねぎの甘みが出てきた証拠です。」
次に、ビーツとジャガイモのサラダ。
リリアは色鮮やかなビーツに驚きながらも、丁寧に角切りにしていく。
「こんなに綺麗な色……まるで宝石みたい。」
「料理は見た目も大事ですからね。」
そして、メインのシュニツェル。
リリアは薄切り肉に塩を振り、小麦粉をまぶし、卵液にくぐらせ、パン粉をつける。
「これで……いいんでしょうか?」
「ええ。とても上手です。」
油に肉を入れると、じゅわっと音が響き、衣が黄金色に変わっていく。
リリアは思わず息を呑んだ。
「……すごい……本当に、こんな風になるんですね……!」
すすむは微笑みながら頷いた。
「料理は、手間をかけた分だけ応えてくれますよ。」
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午後4時を回る頃、すべての料理が完成した。
リリアは皿を見つめ、緊張した面持ちですすむに尋ねた。
「白谷さん……これで、いいでしょうか?」
すすむは一つひとつ味見をし、静かに頷いた。
「ええ。とても美味しくできています。
ハンスさんとレミーさんにも、きっと喜んでもらえますよ。」
リリアは胸に手を当て、ほっと息を吐いた。
「……よかった……!」
二人は皿を丁寧に盆に乗せ、宿屋の隣にあるリリアたちの家へ向かった。
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家の中では、ハンスがベッドに横たわり、レミーが椅子に座っていた。
二人ともまだ痛みはあるものの、意識ははっきりしている。
「あなた……? その料理は……?」
リリアは微笑みながら答えた。
「白谷さんに教えていただいて、私が作ったの。
食べてみて。」
ハンスは驚いたように目を見開き、スープを一口飲んだ。
「……っ……これは……!」
レミーもサラダを口にし、目を輝かせた。
「お母さん……これ、すごく美味しい!
こんなの、食べたことないよ!」
ハンスは震える声で言った。
「王族が食べる料理のようだ……
いや……それ以上かもしれん……
リリア、お前が……これを……?」
リリアは照れくさそうに笑った。
「ええ。白谷さんに教えていただいて……」
レミーはシュニツェルを食べ終えると、皿を持ち上げた。
「おかわり……ないの?」
すすむは苦笑しながら答えた。
「今日はこれで全部なんです。
でも、また作れますよ。」
レミーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、明日も食べたい!」
ハンスも深く頷いた。
「白谷殿……本当に、感謝してもしきれん。
この料理は……心まで温かくなる……」
リリアはその言葉を聞き、目に涙を浮かべた。
「白谷さん……
もっと……もっと料理を教えてください。
私、この宿を……もっと良くしたいんです。」
すすむは静かに微笑んだ。
「もちろんです。
一緒に、良い宿を作っていきましょう。」
異世界の小さな宿屋に、
確かな希望の灯がともった瞬間だった。




