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第13章 異世界の厨房と、ホテルマンの料理術

第13章 異世界の厨房と、ホテルマンの料理術


宿屋の食堂で、ローレントとマーカスの不満を聞き終えたあと。

すすむは、静かに厨房へ向かった。


「……次は、食事だ。」


寝具の改善で二人の態度は少し和らいだ。

だが、食事の質が低いままでは、満足には程遠い。

ホテルマンとして、すすむは“食”の重要性をよく知っていた。


若い頃、修行のため、すすむが勤めていたホテルには、

和食、中華、フレンチ、創作料理――四つのレストランがあった。

給仕として働く中で、料理を説明するために、すすむは厨房に入り、

料理長たちから調理の基本を教わった。


包丁の扱い、火加減、素材の活かし方。

料理の背景や文化。

客に料理を届けるために必要な知識を、すすむは貪欲に吸収した。


(あの頃の経験が……まさか異世界で役に立つとはな。)


すすむは苦笑しながら、厨房の扉を開けた。


中は質素で、調理器具も最低限。

鉄鍋、木のまな板、刃こぼれした包丁。

調味料は塩と、香草のような乾燥ハーブだけ。


すすむは棚を開け、食材を確認した。


「……これは……」


昨日の夕食で食べたオーク肉。

今日の朝食で出たパセリのような野菜。

そして、オレンジに似た果物。


だが、野菜はしなび、肉は強烈な獣臭を放っていた。


「このままじゃ……どうにもならないな。」


すすむは腕を組み、しばらく考え込んだ。


(通販で食材を買えれば……)


そう思い、ステータスを開こうと念じたが――

魔力はゼロのままだった。


「……そうだ。寝具を買ったから、魔力が枯渇してるんだった。」


すすむはため息をつき、腕時計を確認した。

針は、ちょうど正午を少し過ぎたところを指している。


その瞬間、すすむの視界に淡い光が広がった。


――魔力10/10


「……回復してる?」


すすむは驚き、腕時計を見つめた。


「正午を過ぎると……魔力が回復するのか。」


偶然かもしれないが、規則性があるのはありがたい。

すすむはすぐに通販魔法を開いた。


画面には、食材のカテゴリが並んでいる。


「……よし。」


すすむは迷わず、必要な食材を選んだ。


・ミネストローネ用の野菜セット(トマト、玉ねぎ、にんじん、セロリ)

・ビーツとジャガイモ

・豚肉の薄切り(シュニツェル用)

・パンの代わりにクロワッサン(出来合い)


魔力5を消費し、食材が目の前に現れる。


「……これで、なんとかなる。」


すすむは袖をまくり、調理を始めた。


★★★★★


まずはミネストローネ。

野菜を丁寧に刻み、鍋で炒める。

玉ねぎの甘い香りが広がり、リリアが驚いたように目を丸くした。


「白谷さん……その香り、何ですか?

こんな匂い、初めてです……」


すすむは微笑みながら説明する。


「玉ねぎを炒めると、甘みが出るんです。

ここにトマトと水を加えて煮込めば、スープになります。」


次に、ビーツとジャガイモのグリークサラダ。

茹でた野菜を角切りにし、塩とハーブで和える。


「色が……すごく綺麗ですね。」


「ビーツは赤い色が特徴なんです。

味は優しいですよ。」


そして、メインのシュニツェル。

薄切りの豚肉に塩を振り、小麦粉をまぶし、卵液にくぐらせ、パン粉をつける。


「白谷さん、その衣……どうなるんですか?」


「揚げると、サクサクになりますよ。」


すすむは油を熱し、肉をそっと入れた。

じゅわっと音が響き、黄金色の衣が膨らんでいく。


リリアは目を輝かせた。


「……すごい……こんな料理、見たことがありません。」


すすむは笑いながら答えた。


「ホテルの厨房で、少しだけ教わったんです。

本格的ではありませんが……喜んでもらえると嬉しいですね。」


クロワッサンを温め、皿に盛り付ける頃には、

厨房は香りで満たされていた。


時計を見ると、午後2時近くになっていた。


「よし……できた。」


すすむは料理を皿に盛り、リリアと手分けして運ぶ。


まずはローレントの部屋へ。

扉を開けると、ローレントは驚いたように身を起こした。


「……これは……?」


すすむは丁寧に頭を下げた。


「お体に優しい料理を作りました。

よければ、召し上がってください。」


続いてマーカスの部屋へ。

彼も目を丸くし、皿を見つめた。


「……こんな料理、見たことがない。」


すすむは微笑んだ。


「口に合えばいいのですが。」


異世界の宿屋に、ホテルマンの料理が並ぶ。

その瞬間、すすむの“おもてなし改革”は、確かな一歩を踏み出した。

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