第117章 結婚式の準備 ― マリーの胸に灯る光
第117章 結婚式の準備 ― マリーの胸に灯る光
すすむとマリーが結婚を決めた翌日、グレン村は朝からざわついていた。
村の広場では、鍛冶屋集団「鋼の匠」のドワーフたちが大声で笑いながら鉄材を運び、
市場の店主たちは、祝いの品を並べる準備を始め、
村の子どもたちは、花を摘んで花冠を作っている。
まるで村全体が、春の訪れを待ちわびるように浮き立っていた。
――すすむ様が結婚する。
その知らせは、村中に一瞬で広まり、誰もが自分のことのように喜んだ。
そして、その中心にいるマリーは――
静かに胸に手を当てていた。
(……本当に、私が……すすむさんと……)
まだ夢の中にいるような気分だった。
マリーは、グレンインの自室で鏡を見つめていた。
頬が赤い。
胸が高鳴っている。
自分でも驚くほど、心が揺れていた。
(私は……護衛として生きてきた。
王女様を守るために、感情を押し殺して……
恋愛なんて、考えたこともなかったのに)
すすむと結婚する――
その事実は、マリーの人生を大きく変えるものだった。
(すすむさんは……優しい。
私のことを信じてくれる。
でも……私なんかが、本当に隣に立っていいの……?)
不安が胸をよぎる。
だが、同時に――
すすむが自分を見つめて言った言葉が、心に残っていた。
『俺と……結婚してください』
あの時のすすむの表情。
震える声。
真剣な瞳。
(……あの人は、私を選んでくれた)
その事実が、マリーの胸に温かい光を灯していた。
村長は、村の広場に立ち、大声で宣言した。
「皆の者!
すすむ様とマリーさんの結婚式を、村を挙げて祝うぞ!」
「おおおおおおおっ!!」
村人たちの歓声が響く。
「式は三日後じゃ!
それまでに、村を最高の状態に整えるぞ!」
村長の声に、村人たちは一斉に動き出した。
・広場の飾り付け
・市場の特別屋台の準備
・花道の設置
・祝福の音楽隊の編成
・子どもたちによる花撒きの練習
・鍛冶屋集団による特製の鐘の制作
村全体が、まるで祭りのように活気づいていた。
鍛冶屋集団「鋼の匠」の工房では、ガンツが腕を組んでいた。
「よし、やるぞお前ら!
すすむ様の結婚式だ!
最高の鐘を作るぞ!」
「おおおおおっ!!」
ドワーフたちは、火花を散らしながら巨大な鐘を鍛えていく。
「ガンツさん……そんな大きな鐘、どこに吊るすんですか?」
見学に来た村人が尋ねると、ガンツは笑った。
「決まってるだろ!
グレンホテルの屋上だ!」
「ええええええっ!?」
「結婚式の時に鳴らすんだよ!
村中に響くようにな!」
ドワーフたちは、誇らしげに笑った。
市場では、GOCの店主たちが集まっていた。
「すすむ様には世話になったからなぁ」
「祝いの品、何にする?」
「うちは特製の果物盛り合わせだ!」
「うちは酒樽を一本まるごと贈るよ!」
店主たちは、すすむとマリーのために、次々と祝いの品を準備していく。
GOC本部では、代表者が言った。
「GOCとしても、正式に祝いの品を贈ろう。
村の発展に尽くした二人だ。
盛大に祝わねばな」
すすむが築いた市場は、今や村の誇りだった。
その恩返しとして、店主たちは全力で祝福を準備していた。
リリアは、マリーの部屋を訪れた。
「マリーさん、入ってもいいですか?」
「リリア……どうぞ」
リリアは、布袋を抱えて入ってきた。
「これ……結婚式の衣装です。
村の女性たちが、マリーさんのために作ってくれました」
「え……?」
袋を開けると、白を基調とした美しいドレスが入っていた。
刺繍は手作りで、花の模様が丁寧に縫い込まれている。
「みんな……私のために……?」
「はい。
マリーさんは、村の英雄ですから」
マリーは、胸が熱くなった。
「……ありがとう……」
リリアは、微笑んだ。
「それに……すすむさん、すごく嬉しそうでしたよ。
“マリーが喜んでくれるといいな”って」
「すすむさんが……?」
マリーの頬が赤く染まった。
一方その頃、ギルバートはすすむを連れ出していた。
「おいすすむ、これ着ろ」
「え、何これ……?」
「新郎用の礼服だ。
村の仕立て屋が徹夜で作ったんだぞ」
「そんな……悪いよ……」
「いいから着ろ!
お前は村の英雄なんだ。
堂々としろ!」
すすむは、照れながら礼服に袖を通した。
「……似合ってるか?」
「似合ってるに決まってるだろ。
マリーが惚れ直すぞ」
「や、やめろよ……!」
すすむは顔を赤くした。
夜。
マリーは、窓辺に座り、月を見上げていた。
(……私は、幸せになっていいのかな)
護衛として生きてきた人生。
自分の幸せより、誰かを守ることを優先してきた。
(でも……すすむさんは、私を選んでくれた)
その事実が、胸に温かく広がる。
(私も……すすむさんを守りたい。
妻として……隣に立ちたい)
マリーは、そっと胸に手を当てた。
(明日……私は花嫁になる)
その言葉を心の中で繰り返すたび、胸が高鳴った。
結婚式前夜。
村では、前夜祭が開かれた。
広場には屋台が並び、音楽隊が演奏し、子どもたちが踊り、
鍛冶屋集団が作った鐘が試しに鳴らされ、村中に響き渡った。
「すすむ様ー! おめでとうございます!」
「マリーさん、幸せになってね!」
「二人とも、村の誇りだ!」
すすむとマリーは、村人たちに囲まれ、祝福の言葉を浴びた。
マリーは、胸がいっぱいになった。
(こんなに……祝ってもらえるなんて……)
すすむは、マリーの手をそっと握った。
「マリー……ありがとう。
俺と結婚してくれて」
「こちらこそ……すすむさん。
私を選んでくれて……ありがとう」
二人は、照れながらも微笑み合った。
その姿を、ギルバートと村長、リリア、そしてボルトンが遠くから見守っていた。
「よし……完璧だな」
「うむ……村の未来は明るいのう」
「すすむさん……幸せになってください……」
「マリー……よかったわね……」
村全体が、二人の幸せを願っていた。
前夜祭が終わり、村は静けさを取り戻した。
すすむとマリーは、それぞれの部屋で眠りについた。
明日――
二人は夫婦になる。
村の鐘が鳴り響き、花が舞い、祝福の声が広がるだろう。
グレン村は、二人の新たな門出を迎える準備を整えていた。




