第115章 すすむ結婚大作戦 ― 三人の密議と暗躍
第115章 すすむ結婚大作戦 ― 三人の密議と暗躍
マリーの怪我は、ハインツの“ハイヒール”による治癒のおかげで完全に回復した。
体力こそまだ万全ではないものの、彼女はすでにすすむの身辺護衛を再開していた。
グレンインの廊下を歩くすすむの後ろを、静かに、しかし確かな足取りでついていくマリー。
その姿は、まるで影のように自然で、すすむ自身もすっかり慣れてしまっていた。
「マリー、無理しないでいいからな」
「大丈夫です。
私は、すすむさんを守るためにここにいますから」
その言葉に、すすむは少し照れながらも、どこか安心したように微笑んだ。
――その様子を、遠くから見つめる男がいた。
ギルバートである。
「……あいつ、40代にもなって結婚もしたことがない。
あれじゃ一生結婚できないぞ。
何とかせねば……!」
ギルバートは、拳を握りしめた。
すすむは優しい。
仕事熱心で、村のために尽くしている。
だが、恋愛に関しては壊滅的に鈍い。
マリーの好意にも気づいていないし、リリーの視線にも気づいていない。
「このままでは……村の英雄が独り身のまま終わってしまう……!」
ギルバートは、使命感に燃えていた。
そして――。
「村長、リリア。
ちょっと話がある」
こうして、三人による“秘密結社”が誕生した。
★★★★★
村長の屋敷の奥、誰も使っていない会議室。
ギルバート、村長、リリアの三人が集まっていた。
「……で、ギルバートよ。
わしらを呼び出して、何の話じゃ?」
「ふふふ……村長、リリア。
今日から我々は――
“すすむを結婚させる会”のメンバーだ!」
「はぁ?」
「えっ?」
二人は同時に声を上げた。
「いや、だってよ……あいつ、もう40代だぞ?
このままじゃ一生独身だ。
村の英雄が独り身なんて、寂しすぎるだろ!」
「……まぁ、確かにのう。
すすむ様は立派な方じゃが、恋愛には疎いのう」
村長は、しみじみと頷いた。
「リリア、お前も思うだろ?」
「え、ええ……。
すすむさんは優しいし、頼りになるし……
でも、恋愛となると……その……」
リリアは、頬を赤らめながら言った。
「よし、決まりだ!
三人で、すすむを結婚させるための“工作”を行う!」
「工作って……」
「ギルバートさん、なんか悪いことみたいに聞こえますよ……」
「違う!
これは善意だ!
すすむの幸せのためだ!」
三人は顔を見合わせ、うなずき合った。
こうして、秘密結社「すすむを結婚させる会」は正式に結成された。
★★★★★
翌日。
村長は、すすむを村長宅に呼び出した。
「すすむ様、最近は忙しいのう。
ホテルの警備も強化されて、村も安心じゃ」
「ありがとうございます。
村長のおかげで、警備隊も増えて助かっています」
「ところでのう……すすむ様」
村長は、急に真剣な顔になった。
「そろそろ……家庭を持つ気はないのかの?」
「ぶっ……!」
すすむは、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「い、いきなり何を……!」
「いやのう、村の若い者たちも結婚して子どもが生まれておる。
村の発展には、家庭が増えることも大事じゃ」
「そ、それは……そうですけど……」
「すすむ様は、立派な方じゃ。
村の誰もが尊敬しておる。
結婚相手に困ることなどないじゃろう」
「い、いや……そんな……」
村長は、さらに畳みかけた。
「例えば……マリーさんとか、リリーさんとか……」
「ちょ、ちょっと待ってください村長!
なんでその二人の名前が出てくるんですか!」
「いやぁ、わしの勘じゃ。
あの二人、すすむ様のことを……」
「やめてください!
そんな話じゃないでしょう!」
すすむは、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「と、とにかく!
僕はまだ結婚とか……そういうのは……!」
すすむは逃げるように村長宅を後にした。
村長は、ふふふと笑った。
「よし……第一段階は成功じゃな」
★★★★★
その日の午後。
リリアは、すすむを市場に呼び出した。
「すすむさん、ちょっと手伝ってほしいことがあって……」
「いいよ。何をすればいい?」
リリアは、わざとらしく市場のカップルたちを見渡した。
「ねぇ、すすむさん。
結婚って……どう思います?」
「ぶっ……!」
すすむは、またしても変な声を出した。
「な、なんでそんな話に……!」
「だって……最近、村でも結婚する人が増えてきて……
私も、ちょっと気になって……」
リリアは、頬を赤らめて視線をそらした。
「すすむさんは……誰か好きな人とか……いないんですか?」
「い、いないよ!
そんな暇ないし……!」
「でも……マリーさんとは仲良さそうですよね?」
「な、なんでそこでマリーが出てくるんだ!」
「だって……いつも一緒にいるし……
守ってくれてるし……
なんか……お似合いだなって……」
「ち、違うから!
あれは護衛で……!」
すすむは、顔を真っ赤にして手を振った。
リリアは、心の中でガッツポーズをした。
(よし……動揺してる……!
ギルバートさんの言った通り……!)
★★★★★
翌日。
ギルバートは、すすむを冒険者ギルドに呼び出した。
「すすむ、ちょっと来い」
「どうしたんだよ、ギルバート」
「お前の結婚相手候補をまとめておいた」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
すすむは、ギルバートの手にある書類を奪い取った。
そこには――
・マリー(護衛、元王女付き)
・リリー(冒険者、ホテル常連)
・村の女性たち数名
・商人の娘
・鍛冶屋の娘
などなど、勝手に“候補者リスト”が作られていた。
「な、なんだよこれ!!」
「いや、村の未来のためだ。
お前が結婚すれば、村も安泰だろ?」
「勝手に決めるな!!」
「じゃあ誰がいいんだ?
マリーか? リリーか?
それとも……」
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
すすむは、頭を抱えて叫んだ。
ギルバートは、にやりと笑った。
(よし……追い詰めていくぞ……!)
★★★★★
その夜。
村長宅の会議室に、三人が再び集まった。
「どうじゃ、ギルバート。
すすむ様の反応は?」
「最高だったぞ。
顔真っ赤にして逃げていった」
「リリアはどうだった?」
「すすむさん、すごく動揺してました……!
“マリーがどうとか”って……」
「ふむ……マリーさんの名前が出ると反応が大きいのう」
「やっぱり……マリーさんが本命なんじゃ……?」
「いや、リリーの可能性もあるぞ」
三人は、真剣な顔で議論を始めた。
「とにかく……すすむを結婚させるためには、
もっと追い込む必要がある」
「次は……どうします?」
「決まっておる」
村長は、にやりと笑った。
「“二人きりの時間”を作るのじゃ」
「おお……!」
「すすむさんと……誰かを……?」
「そうじゃ。
マリーでもリリーでもよい。
とにかく、二人きりにして、
“意識させる”のじゃ!」
三人は、悪だくみのように笑った。
「すすむ様……
あなたの幸せのためじゃ……!」
こうして、秘密結社「すすむを結婚させる会」は、
次なる工作へと動き出した。




