第114章 守るための体制 ― 村とホテルとGOCの防衛網
第114章 守るための体制 ― 村とホテルとGOCの防衛網
夜明け前の薄暗い空が、ゆっくりと白み始めていた。
グレンインの二階、すすむの部屋では、マリーが静かに眠っている。
昨日の激闘の傷は、ハインツの“ハイヒール”によって完全に癒えたものの、体力の消耗は激しく、まだ起き上がれる状態ではなかった。
すすむは、マリーの寝顔を確認し、そっと毛布をかけ直した。
「……ゆっくり休んでくれ。
今度は、俺が守る番だ」
そう呟き、すすむは静かに部屋を出た。
今日は、村長とブランとの重要な会議がある。
暗殺者襲来という重大事件を受け、村全体の警備体制を見直す必要があった。
村長の屋敷に入ると、すでにブランが待っていた。
ブランは、最近村の警備隊長に任命されたばかりだ。
元々は村の狩人であり、腕っぷしも強く、村人からの信頼も厚い。
「すすむ様、昨日は……本当に大変でしたな」
村長は、深刻な表情で迎えた。
「マリーさんのこと……聞きました。
あれほどの傷を負わせるとは……相手は相当な手練れだったのでしょう」
「ええ……。
でも、マリーが守ってくれました。
彼女がいなければ、僕は……」
すすむは、言葉を詰まらせた。
ブランは、拳を握りしめて言った。
「……すみません、すすむ様。
村の警備隊長として、あんな刺客を村に入れてしまったのは、私の責任です。
マリーさんにあんな怪我を負わせてしまったのも……」
「ブランさんのせいじゃありません。
相手はプロの暗殺者でした。
普通の警備では防ぎきれなかったと思います」
すすむは、ブランの責任感を否定するように首を振った。
「でも……これからは、同じことを繰り返さないようにしないといけません」
村長は、深く頷いた。
「その通りじゃ。
商業ギルドが動いておる以上、また刺客を送り込んでくる可能性は高い。
村の警備を強化せねばならん」
「村長、警備隊の増員をお願いできますか?」
「もちろんじゃ。
すでに村の若者たちから志願者が出ておる。
今日中に十名ほど追加で警備隊に加えるつもりじゃ」
「ありがとうございます」
すすむは、胸を撫で下ろした。
だが、村の警備だけでは不十分だ。
ホテル、GOC本部、従業員宿舎……守るべき場所は多い。
「村の警備は村長とブランさんにお願いして……
僕は、ホテル側の警備体制を整えます」
「すすむ様……頼みますぞ」
村長は、すすむの肩に手を置いた。
「あなたは、この村の中心じゃ。
あなたが倒れれば、村は混乱する。
どうか……無理をせんようにな」
「はい……」
すすむは、深く頭を下げた。
村長の屋敷を出たすすむは、ホテルに戻り、従業員のグラントを呼び出した。
グラントは、元冒険者であり、今はホテルの従業員として働いている。
冒険者時代の経験から、戦闘も警備も得意だ。
「すすむさん、呼びましたか?」
「グラントさん……昨日の件、聞いてますよね」
「ええ。
マリーさんが暗殺者を倒したと……。
まさか、そんなことが起きるとは思いませんでした」
グラントは、真剣な表情で続けた。
「ホテルも狙われる可能性がある……そういうことですね?」
「はい。
だから、ホテルに“警備部門”を立ち上げたいんです。
ホテル内の巡回、宿泊客の安全確保、そしてGOC本部の警備も含めて……
しっかりとした体制を作りたい」
「なるほど……」
グラントは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「それなら、冒険者ギルドに依頼を出しましょう。
警備専門の冒険者を雇えば、即戦力になります」
「お願いします」
「任せてください。
今日中にギルドに行って、依頼を出してきます」
グラントは力強く頷いた。
★★★★★
二日後。
ホテルの裏手にある広場では、グラントが新たに契約した冒険者たちを集め、訓練を行っていた。
集まったのは、総勢18名。
剣士、槍使い、弓使い、魔法使い……
それぞれが冒険者としての経験を持ち、警備任務にも慣れている者たちだ。
「よし、全員揃ったな!」
グラントが声を張り上げる。
「今日から、グレンホテル警備部の一員として働いてもらう!
任務は、ホテル内の巡回、GOC本部の警備、そして村の警備隊との連携だ!」
「了解!」
冒険者たちの声が響く。
そこへ、すすむが姿を見せた。
「みなさん、ありがとうございます。
これからよろしくお願いします」
すすむは、能力を発動した。
「――警備員装備セット!」
光が弾け、警帽、警備員の制服、懐中電灯が大量に出現した。
「これを……使ってください。
見た目で警備員だと分かるようにしたいんです」
「おお……これは……!」
「動きやすいな!」
「懐中電灯って……すごい明るい!」
冒険者たちは、興味津々で装備を手に取った。
グラントは、すすむの肩を叩いた。
「すすむさん、これはいいですね。
見た目が揃うだけで、警備の統一感が出ます」
「ありがとうございます。
あと、GOC本部ビルの警備もお願いします。
あそこも狙われる可能性がありますから」
「了解です。
GOC側とも連携して、警備ルートを決めておきます」
すすむは、最後にもう一つだけ伝えた。
「それと……使っていない施設の施錠を徹底してください。
暗殺者は、隙を突いて侵入してきます。
どんな小さな建物でも、鍵をかけておくように」
「任せてください!」
グラントは力強く答えた。
★★★★★
その日から、村全体の警備体制は大きく変わった。
村長とブランが率いる村の警備隊は、人数を増やし、夜間巡回を強化した。
ホテル警備部は、18名の冒険者を中心に、24時間体制で巡回を開始した。
GOC本部ビルにも警備員が常駐し、出入りの管理が徹底された。
村の入口には見張り台が設置され、夜間は松明が灯される。
ホテルの廊下には警備員が立ち、非常口や裏口の施錠が確認される。
GOC本部の周囲には、魔法による簡易結界が張られた。
村人たちは、最初こそ驚いたが、すぐに安心感を覚えた。
「これで……もう刺客なんて来ないよな」
「すすむ様が守ってくれてるんだ」
「マリーさんも無事だったし……本当に良かった」
村には、少しずつ平穏が戻りつつあった。
夕方。
すすむは、ホテルの屋上に立ち、村を見下ろしていた。
警備員たちが巡回し、村の灯りが穏やかに揺れている。
(……これで、少しは安心できるかな)
だが、すすむの胸には、まだ不安が残っていた。
(商業ギルド……マーサ……
あの人が、こんなことで諦めるとは思えない)
マリーの負傷した姿が脳裏に浮かぶ。
(もう二度と……あんな思いはしたくない)
すすむは、拳を握りしめた。
「絶対に……守る。
この村も、ホテルも、GOCも……
そして、マリーも」
その決意は、静かだが強く、揺るぎないものだった。
こうして、グレン村は新たな防衛網を手に入れ、
次に訪れる嵐に備えることとなった。




