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第113章 守られた夜、揺れる心

第113章 守られた夜、揺れる心


暗殺者ザイロとの死闘が終わった後、グレンインの二階には、重い沈黙が落ちていた。


廊下には血の跡が残り、壁には剣戟の痕が刻まれている。

 マリーは、戦いの最後にザイロを討ち取ったものの、肩と脇腹に深い傷を負い、意識が朦朧としていた。


「マリー! 大丈夫か!」


すすむは、駆け寄って彼女の身体を支えた。

 マリーの体温は低く、呼吸は浅い。

 血が止まらず、服が赤く染まっていく。


「す……すむ……さん……無事……で……よかった……」


マリーは、弱々しく微笑んだ。

 その笑顔が、すすむの胸を締めつけた。


「喋るな! 今、手当てするから!」


すすむは、マリーを抱きかかえ、自室のベッドに寝かせた。


すすむは、震える手でマリーの傷を確認した。

 肩の傷は深く、脇腹の切り傷は血が止まらない。


(こんな……こんなに傷ついて……俺を守るために……)


胸の奥が痛んだ。

 自分が狙われたせいで、マリーがこんな目に遭った。

 その事実が、すすむの心を強く締めつけた。


「……俺のせいだ……」


すすむは、唇を噛んだ。


だが、落ち込んでいる暇はない。

 今はマリーを助けることが最優先だ。


「そうだ……俺には、能力がある……!」


すすむは、深呼吸し、能力を発動した。


「――医薬品セット!」


光が弾け、日本の救急箱が現れた。

 中には、消毒液、ガーゼ、包帯、止血剤、痛み止め、抗生物質……

 日本で使っていた一般的な医薬品が揃っている。


「これで……なんとか……!」


すすむは、震える手で消毒液を取り、マリーの傷口を洗浄した。


「っ……!」


マリーが苦しげに声を漏らす。


「ごめん……ごめん……でも、これしかできないんだ……!」


すすむは、必死に止血し、ガーゼを当て、包帯を巻いた。

 抗生物質を飲ませ、痛み止めも飲ませる。


だが――。


マリーの顔色は、良くならなかった。


呼吸は浅く、額には汗が浮かび、意識は朦朧としている。


「なんで……なんで効かないんだ……!」


すすむは、拳を握りしめた。


(日本の薬は、この世界の傷には……効きが弱いのか……?

 それとも、暗殺者の刃に毒が……?)


焦りが胸を締めつける。


「マリー……頼むから……目を開けてくれ……!」


すすむは、マリーの手を握りしめた。


その時――。


ドンッ!


勢いよく扉が開いた。


「すすむ! 無事か!」


ギルバートが飛び込んできた。

 その後ろには、白衣を着たハインツが続く。


「ギルバート……ハインツ……!」


「暗殺者が来たと聞いた! マリーはどこだ!」


「ここだ……! 傷が……深い……!」


ギルバートは、マリーの状態を見ると、顔をしかめた。


「……これは、普通の治療では無理だな」


「やっぱり……!」


すすむは、絶望しかけた。


だが、ハインツは静かに頷いた。


「大丈夫だ。

 “あれ”を使えば、治せる」


「“あれ”……?」


ギルバートが、すすむの肩を叩いた。


「ハインツの“ハイヒール”だ。

 あれは、どんな傷でも治す……高位魔法だ」


「ハイヒール……?」


すすむは、それでも不安が消えなかった。


ハインツは、ハイヒールを唱え始めた。


マリーの体は、怪我をしたところを中心に光に包まれていった。

「これが……“ハイヒール”だ」


ハインツは、ハイヒールの高位魔法を唱え続けている。。


すると――。


光がより一層強く溢れた。


柔らかく、温かい光がマリーの身体を包み込む。

 傷口がゆっくりと閉じ、血が止まり、肌が再生していく。


「す……すごい……!」


すすむは、目を見開いた。


光は数十秒続き、やがて静かに消えた。


マリーの傷は――完全に治っていた。


★★★★★


「……ん……」


マリーが、ゆっくりと目を開けた。


「マリー!」


すすむは、思わず彼女の手を握った。


「す……すむさん……?」


「よかった……本当に……よかった……!」


すすむの声は震えていた。

 マリーは、すすむの表情を見て、驚いたように目を丸くした。


「すすむさん……泣いて……?」


「泣いてない……! 泣いてないから……!」


「ふふ……ありがとうございます……」


マリーは、弱々しく微笑んだ。


その笑顔を見て、すすむは胸の奥が温かくなるのを感じた。


ギルバートとハインツは、静かに部屋を出ていった。

 すすむは、マリーのそばに座り、深く息を吐いた。


「……俺のせいで、こんな目に遭わせて……本当にごめん」


「違います……。

 私は、すすむさんを守るためにここにいます。

 それが……私の役目です」


「でも……!」


すすむは、言葉を詰まらせた。


「俺は……守られてばかりだ……。

 マリーが傷つくのを見るのは……もう嫌だ……」


マリーは、そっとすすむの手を握った。


「すすむさん。

 あなたは、この村の人たちを守っています。

 ホテルを作り、宿舎を作り、市場を整備し……

 みんな、あなたに助けられているんです」


「……」


「だから、私があなたを守るのは……当然のことなんです」


マリーの言葉は、優しく、温かかった。


すすむは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


「……ありがとう、マリー」


「はい……」


マリーは、安心したように目を閉じた。


すすむは、彼女の寝顔を見つめながら、静かに呟いた。


「絶対に……守るから。

 今度は、俺が……」


窓の外が、少しずつ明るくなっていく。

 長い夜が終わり、朝が訪れようとしていた。


すすむは、マリーの手を握ったまま、静かに夜明けを迎えた。


彼の胸には、強い決意が芽生えていた。


(もう……誰にも、マリーを傷つけさせない。

 そして、この村も……絶対に守る)


その決意は、これから訪れる新たな戦いの始まりでもあった。

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