表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/235

第112章 暗殺者襲来 ― 静寂を裂く刃

第112章 暗殺者襲来 ― 静寂を裂く刃


その夜、グレン村は深い静寂に包まれていた。

 冬の冷たい風が木々を揺らし、雪こそ降らないものの、空気は刺すように冷たい。

 グレンインの二階――すすむの部屋の前では、マリーが背筋を伸ばし、静かに見張りを続けていた。


すすむは部屋の中で書類を整理している。

 GOCの本部設立、ホテルの稼働状況、従業員宿舎の管理……やることは山ほどある。

 だが、マリーがそばにいることで、不思議と安心感があった。


(……本当に、俺なんかを守るためにここまでしてくれるなんてな)


すすむは、少し照れくさく思いながらも、マリーの存在に感謝していた。


だが――その静かな夜は、突然破られることになる。


★★★★★


グレン村の外れ。

 月明かりの届かない森の中を、一人の男が歩いていた。


黒い外套に身を包み、顔を覆い、気配を完全に消している。

 エレニア商業ギルド調整部が送り込んだ暗殺者――“影渡り”の異名を持つ男、ザイロ。


彼は、王国でも指折りの暗殺者であり、数々の標的を仕留めてきた。

 毒、変装、潜入、暗殺術……どれも一流。

 そして何より、彼は「護衛付きの標的」を得意としていた。


「……護衛は一名。

 王女の護衛経験者だと? 面白い」


ザイロは、口元をわずかに歪めた。


「だが、護衛がいようと関係ない。

 俺の仕事は、標的を“消す”ことだ」


彼は、音もなく村の中へと溶け込んでいった。


★★★★★


グレンイン二階の廊下。

 マリーは、ふと眉をひそめた。


(……風の流れが変わった?)


彼女は、王女の護衛として長年鍛えられた感覚を持っている。

 暗殺者の気配、殺気、空気の揺らぎ――それらを敏感に察知する能力だ。


廊下の奥、階段の方から、微かな“違和感”が漂ってきた。


(来た……)


マリーは、腰の剣に手を添えた。


ザイロは、グレンインの屋根に軽やかに降り立った。

 足音は一切しない。

 まるで影が滑るように、窓の隙間から中へ侵入する。


彼は、すすむの部屋の位置を正確に把握していた。

 密偵が調べた情報は正確だった。


「……あそこだな」


ザイロは、廊下に出る前に毒針を一本取り出した。

 指先で軽く弾けば、音もなく標的の首に刺さる。

 即死ではないが、数秒で意識を失わせる強力な毒だ。


「護衛がいても関係ない。

 まずは護衛を排除する」


ザイロは、廊下へと足を踏み出した。


廊下の中央で、マリーは静かに立っていた。


ザイロは驚かなかった。

 むしろ、予想通りだと言わんばかりに口元を歪めた。


「……待ち構えていたか。

 さすが王女の護衛だな」


「あなたが……暗殺者ですね」


「その通りだ。

 標的は“すすむ”。

 邪魔をするなら、お前も消す」


マリーは剣を抜いた。

 金属の澄んだ音が廊下に響く。


「私は、すすむさんを守るためにここにいます。

 あなたの好きにはさせません」


「ほう……いい目だ。

 だが――」


ザイロは、毒針を指先で弾いた。


シュッ!


空気を裂く音とともに、毒針がマリーの首を狙う。


だが――。


カンッ!


マリーは剣で毒針を弾き落とした。


「……!」


ザイロの目がわずかに見開かれた。


「毒針を弾くか……?

 面白い」


「あなたの攻撃は、すべて見えています」


「ならば――これはどうだ!」


ザイロは、一瞬で距離を詰めた。

 まるで影が跳ねるような動き。

 短剣がマリーの喉元を狙う。


マリーは剣で受け止め、火花が散った。


ギィンッ!


「くっ……!」


「ほう、受け止めるか」


ザイロは、連続で斬撃を繰り出す。

 その速さは常人の目では追えない。


だが、マリーはすべてを受け止め、時にかわし、時に反撃した。


廊下に金属音が響き渡る。


ギンッ! ガキンッ! キィンッ!


まるで二人の戦いが、夜の静寂を切り裂いていくようだった。


しかし――ザイロの攻撃は、徐々に激しさを増していった。


「どうした? 息が上がってきているぞ」


「……っ」


マリーは、王女の護衛として鍛えられていたが、

 ザイロは暗殺専門の戦闘技術を持つ男だ。


攻撃の軌道が読みにくく、毒針や煙玉を混ぜた変則的な攻撃が続く。


ザイロは、マリーの肩を浅く切り裂いた。


「くっ……!」


血が滲む。


「終わりだ」


ザイロは、マリーの腹部を狙って短剣を突き出した。


だが――。


マリーは、痛みをこらえながら剣を横に振り抜いた。


ザシュッ!


ザイロの腕に深い傷が走る。


「……っ!?」


「あなたの攻撃は……読めます」


マリーは、息を切らしながらも剣を構え直した。


「私は……すすむさんを守るために……倒れるわけにはいきません!」


「……ククッ。

 いい目だ。

 だが、守るだけでは勝てんぞ!」


ザイロは、煙玉を投げつけた。


ボンッ!


廊下が白い煙に包まれる。


煙の中で、ザイロは気配を完全に消した。


(……どこ?)


マリーは、目を閉じた。

 視覚ではなく、気配、空気の流れ、足音、呼吸――

 すべてを研ぎ澄ませる。


(……右上!)


マリーは、天井に向かって剣を突き上げた。


ザシュッ!


「……っ!?」


天井に張り付いていたザイロの胸を、剣が貫いた。


ザイロは、血を吐きながら落下した。


「……馬鹿な……気配を……完全に……消したはず……」


「あなたの殺気は……消えていませんでした」


マリーは、剣を構えたまま、静かに言った。


「私は……守るために戦っています。

 あなたのように、奪うためではありません」


「……クク……

 なるほど……

 これが……“護衛”か……」


ザイロは、薄く笑いながら息絶えた。


廊下に静寂が戻る。


マリーは、膝をつき、肩で息をした。


「……守れた……

 すすむさん……」


その目には、安堵と疲労が入り混じっていた。


★★★★★


その頃、エレニア商業ギルド本部。

 マーサは、調整部からの報告を受けていた。


「……ザイロが……倒された?」


「はい。

 護衛の女――マリーに討たれたとのことです」


「……ザイロは、王国でも屈指の暗殺者よ。

 それを倒した……?」


「はい。

 護衛の女は、王女の護衛経験者であり、実力は相当なものかと」


マーサは、しばらく沈黙した。


そして、ゆっくりと椅子に背を預けた。


「……そう。

 ならば、すすむに手を出すのは……容易ではないわね」


マーサの瞳には、怒りと同時に、慎重さが宿っていた。


「今は動かない。

 次に動くときは……もっと確実な手段を用意する必要がある」


マーサは、静かに呟いた。


「すすむ……あなたは、思った以上に厄介な存在ね」


こうして、暗殺者襲来の夜は終わり、

 すすむはマリーの献身によって守られた。


だが、エレニア商業ギルドの影は消えていない。

 むしろ、より深く、より静かに――

 グレン村を狙う闇は、形を変えて迫りつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ