第110章 GOC誕生と、忍び寄る影
第110章 GOC誕生と、忍び寄る影
グレン村――いや、今や「村」と呼ぶにはあまりにも大きく成長したこの土地は、日々新しい変化を迎えていた。
ビジネスホテルCの建設、従業員宿舎Bの増設、市場の整備。
そのすべてが、村の生活を豊かにし、人の流れを呼び込み、商売を活性化させていた。
そして、ついに市場の店主たちが連合を組むことになった。
その名は――GOC(グレン卸売センター)。
市場の店主たちが自然と集まり、互いに協力し合うための組織として誕生したのだ。
GOCは、単なる商店街の寄り合いではなかった。
店を運営するにあたり、原料となる商品を融通し合い、仕入れの運送を共同で行い、新規出店の際には資金を貸し出す。
まるで商業ギルドの縮小版でありながら、より柔軟で、より地域密着型の組織だった。
「これで、仕入れがずいぶん楽になるなぁ」
「うちみたいな小さな店でも、新しい商品を扱えるようになるぞ」
「困ったときに助け合えるのはありがたいねぇ」
市場の店主たちは、すすむが整備した市場に感謝しつつ、GOCの誕生を喜んでいた。
すすむは、彼らの活動を支援するため、従業員宿舎Bを一棟丸ごと提供した。
そこをGOCの本部とし、各店舗の事務所としても使えるようにしたのだ。
「すすむ様、本当にありがとうございます!」
「こんな立派な建物を……!」
「これで、会議も事務仕事もはかどります!」
店主たちは口々に礼を述べ、すすむは少し照れながらも笑顔を返した。
「街が発展するのは、みんなの努力のおかげだよ。
俺は、ただその手助けをしているだけだから」
そう言うすすむの姿に、店主たちはますます信頼を寄せていった。
★★★★★
その日の夕方。
すすむは、ビジネスホテルCのレストランで遅めの食事をとっていた。
温かいスープの湯気が立ち上り、外の寒さを忘れさせてくれる。
そこへ、ギルバートが姿を見せた。
「よぉ、すすむ。ここにいたか」
「ギルバート? どうしたんだ?」
ギルバートは、にやにやとした表情で椅子に腰を下ろした。
「どうだ、マリーは?」
「……なんの話だよ」
すすむは、わざとらしくスープをすする。
ギルバートは肘をつき、わざとらしくため息をついた。
「はぐらかすなよ。最近、マリーとよく一緒にいるじゃないか」
「仕事の話だよ。あいつはギルドの職員だし」
「ふーん……?」
ギルバートは、からかうような視線を向けてくる。
すすむは、話題を変えようとしたが、その前にギルバートが真剣な表情になった。
「……それはそれとして、すすむ。お前、狙われてるぞ」
「……は?」
すすむは、スプーンを持つ手を止めた。
「どういう意味だ?」
「GOCのことだよ。あれは商業ギルドにとって脅威だ。
商業ギルドは、街の商売を牛耳ることで利益を得ている。
だが、GOCが力を持てば、彼らの影響力は弱まる」
「そんな……俺はただ、市場を整備しただけだぞ」
「それが問題なんだよ」
ギルバートは低い声で続けた。
「商業ギルドは、気に入らない相手を排除するためにアサシンを雇うことがある。
お前も、気をつけたほうがいい」
すすむは、言葉を失った。
自分が狙われる――そんなこと、考えたこともなかった。
「……本気で言ってるのか?」
「ああ。だから、警戒しておけ」
ギルバートはそう言い残し、席を立った。
すすむは、冷めていくスープを見つめながら、胸の奥に不安が広がっていくのを感じていた。
★★★★★
その夜。
すすむは、グレンホテルの受付でジータと経営情報について話していた。
「宿泊率は上がっています。特にビジネスホテルCの稼働率が高く……」
「そうか。じゃあ、次の月は……」
そこへ、足音が近づいてきた。
「すすむさん」
振り返ると、マリーが立っていた。
いつもの凛とした表情だが、どこか緊張感が漂っている。
「ギルバートから話を聞きました」
「……ああ、あれか」
「私が、すすむさんを守ります」
「えっ……?」
マリーは一歩近づき、真剣な目で言った。
「私は、これまで王女様の護衛を務めてきました。
暗殺者の対処も、何度も経験しています。
すすむさんを守ることなど、難しいことではありません」
その言葉に、すすむは驚きと同時に、妙な安心感を覚えた。
「いや、でも……俺なんかのために……」
「あなたは、この街にとって重要な存在です。
そして……私は、あなたを失いたくありません」
最後の言葉は、少しだけ声が震えていた。
ジータは、気を利かせて席を外した。
「それで……どうやって守るつもりなんだ?」
「すすむさんの部屋に泊まり込みます」
「……え?」
「グレンインの2階ですよね。
あそこなら、侵入経路も限られていますし、私がいれば安全です」
すすむは、思わず顔を赤くした。
「いやいやいや……俺、いい歳した男だぞ?
女性に守られるなんて……」
「気にしないでください。私は護衛です。
それに……」
マリーは、少しだけ視線をそらした。
「一緒にいても……嫌ではありません」
その言葉に、すすむの胸がどきりと跳ねた。
恥ずかしさ、照れくささ、そして……ほんの少しの嬉しさ。
「……わかった。頼むよ、マリー」
「はい。全力で守ります」
マリーは深く頭を下げた。
★★★★★
その夜。
すすむの部屋には、簡易ベッドが追加され、マリーがそこに寝ることになった。
「本当に……いいのか?」
「もちろんです。私は護衛ですから」
マリーは、剣を枕元に置き、部屋の窓や扉を念入りに確認している。
すすむは、布団に入りながら、なんとも言えない気持ちになっていた。
(……俺、女性に守られてるのか……)
恥ずかしい。
でも、心強い。
そして、隣にマリーがいるという事実が、妙に胸を温かくする。
「すすむさん、安心して眠ってください。
何があっても、私が守ります」
「……ありがとう」
すすむは、静かに目を閉じた。
こうして、商業ギルドから狙われる可能性が出てきたすすむを、マリーが警護する日々が始まった。
それは、街の新たな発展の裏で、静かに動き始めた「影」との戦いの幕開けでもあった。




