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第109章 市場の誕生と、冬のデート

第109章 市場の誕生と、冬のデート


グレンホテルが二棟のビジネスホテルCを加え、巨大な複合施設として生まれ変わった頃――村は、もはや「村」と呼ぶにはあまりにも大きく、活気に満ちた場所になっていた。


宿泊客は増え、冒険者ギルドの職員も増え、鍛冶屋集団「鋼の匠」のドワーフたちも日々忙しく働いている。

 街道を行き交う商人の数も、以前とは比べものにならないほど増えていた。


そして、自然と「市場」が生まれた。


最初は、ホテルの前の広場にぽつぽつと露店が並び始めたのがきっかけだった。

 旅人が持ち込んだ珍しい果物、ドワーフが作った小物、冒険者がダンジョンから持ち帰った素材――それらが並ぶと、いつの間にか人が集まり、店が増え、やがて常設の市場へと発展していった。


村長は、その光景を少し離れた場所から眺めていた。


「……ここまで大きくなるとはなぁ」


白い息を吐きながら、しみじみと呟く。

 かつては、村人が数十人ほどの小さな村だった。

 それが今や、毎日数百人が行き交う「大きな町」になっている。


「すすむ様のおかげじゃ……。いや、村のみんなが頑張ったからでもあるか……」


村長は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


市場は常設となり、通りには色とりどりの店が並んでいた。


飲食物の屋台からは、焼きたてのパンの香り、スープの湯気、焼き肉の匂いが漂う。

 食料品店には、村で採れた野菜や果物、保存食、干し肉が並ぶ。

 雑貨屋には、手作りの籠や布製品、木工細工が所狭しと並べられている。


そして、ひときわ目を引くのが――鍛冶屋集団「鋼の匠」の武器防具店だ。


「おう、見ていけ! 新作の片手剣だ!」

「こっちは軽量化した盾だぞ! 冒険者に大人気だ!」


ドワーフたちが威勢よく声を張り上げ、冒険者たちが真剣な表情で品定めをしている。


さらに、ダンジョンから算出された道具や魔物素材の店も人気だった。


「この魔物の肉、焼くと旨いんだぜ」

「この魔石は、灯りにも使えるし、魔道具の素材にもなるよ」


従業員宿舎Bに暮らす冒険者ギルド職員、ホテルに宿泊している冒険者、鍛冶屋集団のドワーフ、村人、そして外部から来た商人たち――。


市場は、まさに「人の流れ」が交差する場所となっていた。


ただ、この時期は非常に寒かった。

 雪こそ積もらないものの、冷たい風が吹きつけ、露店の店主たちは震えながら商売をしていた。


「すすむ様……このままでは、風邪をひく者が出てしまいます……」

「なんとか、ならんもんかのう……」


村長の相談を受け、すすむはすぐに動いた。


「じゃあ、市場をプレハブ特大に移そう」


すすむが能力で建てたプレハブ特大は、内部が広く、暖房も水道もトイレも完備されている。

 外見こそ簡素だが、機能性は抜群だった。


市場の店主たちは、プレハブの中に移動すると、口々に歓声を上げた。


「うわぁ……あったけぇ……!」

「水場もあるのか! 助かる!」

「これなら、冬でも安心して商売できるな!」


プレハブ市場は、あっという間に村の新名所となった。


★★★★★


その日の午後。

 ダンジョン探索を終えたリリーが、少し疲れた顔でホテルに戻ってきた。


「すすむさん、お待たせしました……」


「お疲れ、リリー。今日は買い物に行こうか」


リリーの顔がぱっと明るくなる。


「はいっ!」


2人は並んでプレハブ市場へ向かった。

 市場の中は暖かく、外の寒さが嘘のようだった。


「リリー、何か欲しいものある?」


「えっと……実は……」


リリーは少し恥ずかしそうに視線をそらした。


「鋼の匠さんの……新作の剣が欲しいんです」


「剣か。いいね。どんなの?」


「チタン製の……軽くて丈夫なやつです。

 ガンツさんが、最近完成したって言ってて……」


すすむは微笑んだ。


「じゃあ、買おう。プレゼントだ」


「えっ……! いいんですか……?」


「もちろん」


2人は鋼の匠の店へ向かった。


店に入ると、ガンツが大声で迎えてくれた。


「おう、親方! 今日はデートか? いいねぇ!」


「ガンツ、その言い方はやめてくれ……」


「はっはっは! で、今日は何をお探しで?」


リリーが少し緊張した様子で言った。


「チタン製の……新作の剣を……」


「おっ、これだな!」


ガンツが取り出したのは、銀色に輝く美しい剣だった。

 軽く、しなやかで、強度も抜群。

 すすむが能力で出したチタンを素材に、ガンツが丹精込めて鍛え上げた逸品だ。


「これ……すごい……!」


リリーは目を輝かせ、そっと剣を握った。


「軽い……! こんなに扱いやすいなんて……!」


すすむは、その姿を見て嬉しくなった。


「気に入った?」


「はいっ! すごく……!」


「じゃあ、これを買おう」


リリーは驚き、そして嬉しそうに微笑んだ。


「すすむさん……ありがとうございます……!」


その笑顔は、すすむの胸を温かくした。


★★★★★


買い物を終えた2人は、ビジネスホテルCのゲームセンターへ向かった。


「わぁ……すごい……!」


リリーは、初めて見るゲーム機に目を丸くしている。


「これ、やってみる?」


「はいっ!」


2人は協力プレイのゲームで盛り上がり、競争ゲームで笑い合い、景品のぬいぐるみを取り合った。


「すすむさん、これ……取れました!」


「おっ、やるじゃん!」


リリーが取った小さな猫のぬいぐるみを、嬉しそうに抱きしめる姿は、まるで子どものようだった。


その後、ホテル内のレストランで夕食をとった。


「ここの料理……本当に美味しいですね……」


「シェフが腕を振るってるからね」


温かいスープ、焼きたてのパン、香ばしい肉料理。

 2人はゆっくりと食事を楽しんだ。


★★★★★


食事を終え、ホテルのロビーに戻った頃には、外はすっかり夜になっていた。


「今日は……本当に楽しかったです」


「俺も。リリーと一緒に過ごせて、いい一日だったよ」


リリーは少し頬を赤らめ、そっと視線を落とした。


「また……一緒に出かけてくれますか……?」


「もちろん」


すすむは、自然と笑みを浮かべた。


市場の誕生、街の発展、そしてリリーとの時間――。

 すべてが、すすむにとって「この世界で生きている実感」を与えてくれるものだった。


グレンの町は、今日もまた一歩、未来へと進んでいく。

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