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第10章 異世界の朝と、オークのサラミ

第10章 異世界の朝と、オークのサラミ


翌朝。

すすむは、わらベッドの硬さと、羊毛の毛布のチクチクした感触に耐えながら、ゆっくりと目を開けた。


「……寝た気がしないな。」


体は重く、背中は少し痛い。

だが、異世界で迎える初めての朝は、どこか新鮮でもあった。


すすむは背広を整え、階段を降りて一階の食堂へ向かった。


食堂には、すでにリリアがいた。

朝の光が窓から差し込み、ランプの炎よりも明るく室内を照らしている。


「白谷さん、おはようございます。朝食を用意しました。」


リリアは微笑みながら、木製の皿をすすむの前に置いた。


パンと、薄く切られたサラミのようなもの。

パンは相変わらず固そうだ。


すすむはサラミを一口かじった。


「……しょっぱい。」


塩気が強く、噛むほどに肉の旨味が広がるが、どこか独特の風味がある。


「これは……何の肉ですか?」


リリアは当然のように答えた。


「オークですよ。」


すすむは思わず固まった。


「……オーク?」


「ええ。森にいる魔物です。

この辺りでは、狩れたときに保存食にするんです。」


すすむは心の中で驚愕しながらも、表情には出さないよう努めた。


(モンスターを……食べるのか。)


異世界では、食文化も常識も違う。

ホテルマンとして、文化の違いを受け入れる姿勢は身についているが、さすがに驚かずにはいられなかった。


パンは固く、サラミはしょっぱい。

バターもジャムもない。

すすむは噛みしめながら、異世界の食事の厳しさを実感した。


食事を終えると、リリアが声をかけてきた。


「ローレント様とマーカスさんの意識が戻ったそうです。

村長が来ているので、一緒に様子を見に行きませんか?」


すすむは頷いた。


「もちろんです。」


リリアに案内され、村長ローガンと合流した後、二階の客室へ向かう。


扉をノックし、ローレントの部屋に入ると――

そこには、ベッドに横たわる政務官ローレントがいた。


三十代のブラウンヘアの男性。

目は覚めているが、表情は険しい。


「……ここは……宿屋か。

まったく……こんな辺境の村に来てやったというのに……

部屋は粗末、食事はまずい……

挙げ句の果てに馬車事故とは……!

ドリエステ王国の政務官を何だと思っている…。


ローレントは不満を次々と口にした。

村長もリリアも、ただ黙って聞くしかない。


すすむは、ホテルマンとしての経験から、こういう客が一定数いることを知っていた。

不満を吐き出させることも、時には必要だ。


ローレントはしばらく文句を言い続け、やがて疲れたのか、再び横になった。


次に、マーカスの部屋へ向かう。

剣を持った青年で、ローレントよりは落ち着いているが、やはり不満は多かった。


「……まったく、こんな場所に泊まるとは思わなかった。

寝具は硬いし、食事も……」


すすむは静かに聞き、必要以上に反論しない。

ホテルマンとしての“傾聴”の姿勢が自然と出ていた。


二人の不満を聞き終え、廊下に出たところで、リリアがすすむに尋ねた。


「白谷さん……どうすれば、あの方々を少しでも満足させられるでしょうか。

私たちもできる限りのおもてなしをしているつもりですが……」


村長ローガンも、困ったように眉を寄せている。


すすむは少し考え、静かに口を開いた。


「……まずは、寝具を改善しましょう。」


リリアと村長が驚いたように目を見開く。


「寝具……ですか?」


「はい。

寝心地が悪いと、人はどうしても不満を抱きやすくなります。

まずは、休める環境を整えることが大切です。」


すすむは、ふと昨日の《通販》魔法を思い出した。


(……寝具なら、通販で買えるはずだ。)


魔力は残り5ポイント。

寝具を二人分買うには十分だ。


すすむは静かに決意した。


「少し、準備してきます。」


そう言って、すすむは階段を降り、宿屋の裏へ向かった。


異世界での“おもてなし改革”が、ここから始まろうとしていた。


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