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第104話 温泉試掘、始動

第104話 温泉試掘、始動


新しく生まれ変わったグレン高級旅館は、まだ開業前にもかかわらず、街の人々の話題を独占していた。

和風の外観、広いロビー、宴会場、そして屋上の大浴場。

どれもこの街には存在しなかった設備であり、期待は日に日に高まっている。


しかし、すすむには一つだけ気がかりがあった。


「……温泉があれば、さらに魅力が増すのですが」


屋上の大浴場は素晴らしい造りだが、今はただのお湯だ。

温泉ではない。


旅館の名物として、温泉はぜひとも欲しい。

そして、すすむには“ボーリング装置”というスキルがある。


「試してみる価値は十分にございますね」


すすむは静かに決意し、翌朝、ハンス夫妻に相談することにした。


朝食後、すすむはロビーでハンス夫妻を呼び止めた。


「ハンスさん、リリアさん。少しお時間をいただけますか」


二人はすぐに応接セットに座り、すすむの話を聞く姿勢を整えた。


「どうしたんだい、すすむさん」


「実は……温泉の試掘を行いたいと考えております」


ハンスは目を丸くし、リリアは思わず身を乗り出した。


「温泉……? 本当に掘れるの?」


すすむは落ち着いた声で頷いた。


「確実とは申し上げられませんが、私のスキルに“ボーリング装置”というものがございます。

 地中深くまで掘削し、水脈を探ることが可能です。

 もし温泉が見つかれば、旅館の大きな魅力となるでしょう」


ハンスは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「……温泉が出れば、街の名物になるな。

 旅館だけでなく、街全体の活性化にも繋がる」


リリアも頷く。


「すすむさんがやってくれるなら、安心して任せられるわ。

 ぜひお願いしたい」


すすむは丁寧に頭を下げた。


「承知いたしました。

 本日は、旅館の裏手にある空き地で試掘を行います。

 安全には十分配慮いたしますので、ご安心ください」


レミーが横から顔を出した。


「すすむさん、温泉って本当に出るの?」


すすむは優しく微笑んだ。


「さて……どうでしょうか。

 しかし、挑戦してみる価値はございますよ」


レミーは目を輝かせた。


「見たい! 見てもいい?」


「ええ。ただし、安全な距離からお願いいたしますね」


旅館の裏手には、まだ手をつけていない空き地が広がっている。

建物の陰になっているため、普段はあまり人が来ない場所だ。


すすむは地面に膝をつき、土を手に取った。


「……悪くない土質ですね。

 地盤も安定しておりますし、掘削には問題なさそうです」


ハンスが後ろから声をかける。


「すすむさん、ここで掘るのか?」


「はい。旅館の配管とも近く、温泉が出た場合の引き込みも容易でございます」


リリアは少し不安そうに尋ねた。


「危険はないの?」


すすむは穏やかに微笑んだ。


「ご安心ください。

 ボーリング装置は魔力で制御されており、暴走することはございません。

 また、地盤に大きな負荷をかけることもありません」


ハンスは頷き、レミーはわくわくした様子で地面を見つめている。


「すすむさん、早く見たい!」


「では、始めるといたしましょう」


すすむは空き地の中央に立ち、深呼吸をした。

魔力を静かに流し、スキルを発動する。


ボーリング装置――展開


地面が淡く光り、巨大な機械が姿を現した。

金属光沢のある筒状の本体、油圧アーム、そして先端には鋭いドリル。


ハンスは思わず声を漏らした。


「……これは、すごいな」


リリアも驚きの声を上げる。


「すすむさん、こんな大きな機械まで出せるのね……」


すすむは落ち着いた声で説明した。


「こちらがボーリング装置でございます。

 地中深くまで掘削し、水脈や地熱を探ることが可能です」


レミーは目を輝かせている。


「かっこいい……!」


すすむは操作パネルに手を置き、魔力を流した。


「では、掘削を開始いたします」


ドリルがゆっくりと回転を始め、地面に食い込んでいく。

振動が足元に伝わり、空気がわずかに震えた。


すすむはパネルを見つめながら、慎重に操作を続ける。


「地盤は安定しております。

 このまま深度を下げて参ります」


ハンスが興味深そうに尋ねる。


「すすむさん、どれくらい掘るんだ?」


「そうですね……。

 この地域の地質から考えると、温泉があるとすれば、

 深度三百から五百メートルほどかと推測しております」


リリアは驚いたように目を見開いた。


「そんなに深く……!」


「ええ。しかし、魔力制御のおかげで、掘削は比較的短時間で済みます」


ドリルは順調に地中へと潜り込んでいく。

パネルには深度が表示され、徐々に数字が増えていく。


深度二百メートルを超えたあたりで、パネルに微かな反応が現れた。


すすむは眉をひそめ、慎重に操作を続ける。


「……温度が、わずかに上昇しておりますね」


ハンスが身を乗り出す。


「それは……温泉の兆候か?」


「可能性はございます。しかし、まだ断定はできません」


さらに掘り進めると、温度の上昇がはっきりと現れ始めた。


リリアが息を呑む。


「すすむさん……これは……」


「ええ。地熱の反応がございます。

 このまま掘り進めれば、水脈に当たる可能性が高いでしょう」


レミーは興奮気味にすすむの袖を引いた。


「すすむさん、温泉出るの?」


すすむは優しく微笑んだ。


「さて……どうでしょうか。

 しかし、期待してもよろしいかもしれませんね」


深度四百メートルを超えた瞬間、パネルが大きく反応した。


――高温水脈、検知。


すすむは目を見開き、すぐに掘削を停止した。


「……出ました。

 高温の水脈を確認いたしました」


ハンスは思わず声を上げた。


「本当に……温泉が?」


「ええ。間違いございません」


リリアは胸に手を当て、感動したように呟いた。


「すすむさん……すごいわ……」


レミーは飛び跳ねて喜んでいる。


「やったー! 温泉だ!」


すすむは微笑みながら、慎重にバルブを開いた。


地中から蒸気が噴き上がり、硫黄の香りが漂ってくる。


「……これは、間違いなく温泉でございますね」


ハンスはすすむの肩を掴んだ。


「すすむさん……ありがとう。本当にありがとう」


すすむは静かに頭を下げた。


「皆さまのお力になれたこと、心より嬉しく存じます。

 これで、旅館の魅力がさらに高まりますね」


すすむは装置を停止し、温泉の湧出量や温度を確認した。


「湧出量は十分でございます。

 旅館の大浴場へ引き込む配管も、問題なく設置できるでしょう」


ハンスは感動したまま、すすむの背中を叩いた。


「すすむさん……あなたは、この街の恩人だよ。憩いの場ができた。」


すすむは少し照れたように微笑んだ。


「お言葉、身に余る光栄でございます。

 しかし、これは皆さまの努力があってこそ。

 私は、そのお手伝いをしたに過ぎません」


リリアは目を潤ませながら言った。


「すすむさん……本当にありがとう」


レミーはすすむの手を握りしめた。


「すすむさん、最高だ!」


すすむは優しく笑い、レミーの頭を撫でた。


「ありがとうございます。

 これからも、皆さまのお役に立てるよう努めて参ります」


こうして、グレン高級旅館は――

本物の温泉を手に入れた。


街の人々にとっても、旅館にとっても、

そしてすすむにとっても、大きな一歩となる出来事だった。


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