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第103話 新たな旅館の誕生

第103話 新たな旅館の誕生


グレンインの建物が跡形もなく消え、静かな更地が広がっていた。

昨日までそこにあったはずの建物が消えた光景は、街の人々にとっても衝撃的だったようで、

朝早くから何人かが遠巻きに様子を見に来ていた。


すすむは、彼らに向けて丁寧に頭を下げた。


「皆さま、ご心配をおかけしております。

 こちらは、グレンインの建て替え作業でございます。

 安全には十分配慮しておりますので、どうぞご安心ください」


街の人々は驚きながらも、すすむの落ち着いた説明に頷き、

「新しい建物ができるのか」「楽しみだな」と口々に話しながら散っていった。


すすむは胸の内で静かに息を整えた。


「……さて。いよいよ本番でございますね」


高級旅館Aを、この場所に正式に“置換”する。

昨日の準備はすべて整っている。

あとは、すすむがスキルを発動するだけだ。


高級旅館Aの二階に引っ越すハンス夫妻とレミーは、

朝食を終えたあと、すすむと共に更地へ向かった。


ハンスは、跡地を見つめながら深く息を吐いた。


「……本当に、何もなくなったんだな」


「ええ。しかし、ここから新しい歴史が始まります。

 どうか、楽しみにしていてください」


すすむは穏やかに微笑んだ。


リリアは少し緊張した面持ちで尋ねる。


「すすむさん……本当に、あの大きな建物がここに“現れる”のよね?」


「はい。昨日ご覧いただいた高級旅館Aを、この場所に設置いたします。

 建物の向きや位置は、事前に調整済みでございますので、ご安心ください」


レミーは目を輝かせている。


「すすむさん、やってみて! 早く見たい!」


すすむは軽く笑い、レミーの頭を優しく撫でた。


「ええ。では、始めるといたしましょう」


すすむは更地の中央に立ち、周囲を見渡した。

街道からの導線、日当たり、周囲の建物との距離。

ホテルマンとしての経験が、自然と頭の中で最適な配置を導き出す。


「……こちらの位置が最も良いでしょう」


すすむは地面に軽く手を触れ、魔力を流した。

地面に薄い光のラインが走り、建物の輪郭が浮かび上がる。


ハンスが感嘆の声を漏らした。


「すすむさん……これは?」


「建物の設置位置を示すガイドでございます。

 この範囲に、高級旅館Aが収まるよう調整しております」


リリアは目を丸くした。


「こんなことまでできるなんて……」


すすむは微笑みながら頷いた。


「建物の設置は、慎重に行う必要がございますので。

 では、始めます」


すすむは深呼吸し、両手を胸の前で軽く組んだ。

魔力が静かに流れ、空気がわずかに震える。


収納・置換――発動


光が地面から立ち上がり、ゆっくりと空へ広がっていく。

その光の中心に、巨大な影が現れ始めた。


ハンスは息を呑み、リリアは思わずすすむの袖を掴んだ。


「すすむさん……!」


「ご安心ください。すべて順調でございます」


光が強まり、建物の輪郭がはっきりと浮かび上がる。

和風の外観、八階建ての堂々たる姿。

昨日見た高級旅館Aが、そのままの形で街の中心に現れようとしていた。


やがて光が収まり、建物が完全に姿を現した。


グレン高級旅館――誕生。


街の人々が歓声を上げ、遠くから拍手が起こる。


ハンスは目を潤ませ、すすむに向き直った。


「すすむさん……本当に、ありがとう。

 こんな立派な建物を……」


すすむは深く頭を下げた。


「こちらこそ、皆さまのお力になれることを光栄に存じます。

 どうか、この建物が多くの方々に愛される場所となりますように」


建物が無事に設置されたことを確認すると、すすむは三人を案内して内部へ入った。


ロビーは広く、木の香りが心地よい。

昨日見たときと同じだが、街の中心にあることで、より存在感が増している。


「……本当に、ここが私たちの旅館になるのね」


リリアは感動したように呟いた。


「ええ。これから、皆さまと共に運営して参りましょう」


すすむは丁寧に微笑んだ。


すすむは収納スキルを使い、昨日預かった荷物を順に取り出していった。


家具、衣類、調理器具、書類……

すべてが元の状態のまま、光と共に現れる。


レミーは嬉しそうに自分の玩具を抱きしめた。


「すすむさん、ちゃんと戻ってきた!」


「もちろんでございます。大切なお品物ですからね」


ハンス夫妻の荷物も、二階の客室(大)に丁寧に配置していく。


リリアは感動したようにすすむを見つめた。


「すすむさん……あなたがいてくれて、本当に良かったわ」


すすむは少し照れたように微笑んだ。


「お言葉、身に余る光栄でございます。

 これからも、どうぞよろしくお願いいたします」


荷物の搬入が終わると、すすむは自分の部屋へ向かった。

同じく二階の客室(大)で、落ち着いた和モダンの空間が広がっている。


すすむはスーツをクローゼットに掛け、資料を机に並べた。


「……良い環境ですね。

 これなら、仕事も捗りそうです」


窓からは街の中心が見渡せ、遠くには山々が連なっている。

新しい生活が始まる実感が、静かに胸に広がった。


夕方になると、街の人々が旅館の前に集まり始めた。


「すごい建物だな……」

「これが新しいグレンインか」

「これは、エレベーターと言う装置ですね、グレンホテルにもあった。2つもある。」


すすむはロビーに立ち、訪れた人々に丁寧に挨拶をしていた。


「本日は内覧のみでございますが、どうぞご自由にご覧ください」


人々は興味津々で館内を歩き回り、

「広い」「綺麗だ」「こんな旅館、見たことない」と口々に感想を述べていた。


ハンス夫妻も、誇らしげに人々を案内している。


すすむはその姿を見て、静かに微笑んだ。


「……良い旅館になりますね」


内覧が終わり、人々が帰っていくと、旅館の前には静けさが戻った。


すすむは建物を見上げ、深く息を吸った。


「これで、第一段階は完了でございますね」


ハンスが隣に立ち、同じように建物を見上げた。


「すすむさん……本当に、ありがとう。

 この旅館を、必ず成功させるよ」


すすむは穏やかに頷いた。


「ええ。私も全力でお手伝いさせていただきます」


夜風が心地よく吹き抜け、旅館の灯りが街を優しく照らしていた。


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