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第102話 グレンイン、移転準備と別れ

第102話 グレンイン、移転準備と別れ


翌朝。

高級旅館Aの内覧会を終えた翌日、街はまだ早朝の冷たい空気に包まれていた。

すすむは、グレンインの前に立ち、静かに深呼吸をした。


「……さて。本日は、建て替えに向けた準備を進めて参りましょう」


40代らしい落ち着いた声でそう呟くと、すすむは離れへ向かった。

そこには、ハンス夫妻とレミーが既に待っていた。


「すすむさん、おはようございます」


ハンスが丁寧に頭を下げる。

すすむも同じように礼を返した。


「おはようございます。皆さま、本日はお忙しい中ありがとうございます。

 建て替えにあたり、まずは荷物の整理と収納を進めて参りましょう」


リリアが少し緊張した面持ちで尋ねる。


「すすむさん……本当に、荷物を全部“預ける”ことになるのよね?」


「はい。ご心配には及びません。

 私の収納は、物品を安全に保管できる空間でございます。

 建て替えが完了次第、すぐに新しいお部屋へお戻しいたします」


すすむの落ち着いた説明に、リリアは胸を撫で下ろした。


「……あなたがそう言うなら、安心だわ」


レミーは目を輝かせている。


「すすむさんの収納って、本当にすごいよね!

 あれ、どうなってるの?」


すすむは微笑みながら答えた。


「そうですね……。少し不思議な仕組みではありますが、

 皆さまのお荷物を安全にお預かりするための“倉庫”のようなものだとお考えください」


「へぇー……!」


レミーは納得したような、していないような顔で頷いた。


離れの部屋に入ると、すすむはまず部屋全体を見渡した。

ここには、ハンス夫妻の生活用品、レミーの衣類や玩具、

そしてすすむ自身のスーツや資料が整然と置かれている。


「それでは、順に収納して参ります。

 皆さまは、必要なものがあればお声がけください」


すすむは丁寧に手を合わせるようにしてから、収納スキルを発動した。


光がふわりと広がり、家具、衣類、書類、調理器具……

生活に必要なものが一つひとつ、静かに光の中へ吸い込まれていく。


リリアはその様子を見て、思わず息を呑んだ。


「……本当に、全部入っていくのね。

 まるで、魔法みたい」


「ええ。私自身も、最初は驚いたものです」


すすむは落ち着いた声で答えながら、次々と荷物を収納していく。


レミーは興味津々で、すすむの横に立っていた。


「すすむさん、これも入る?」


小さな木製の人形を差し出す。


「もちろんでございます。大切なお品物ですね」


すすむは優しく微笑み、両手で受け取って収納した。


一通りハンス夫妻の荷物を収納し終えると、すすむは自室へ向かった。


部屋には、

・ホテルマンとしてのスーツ数着

・メモ帳や資料

・最低限の私物

が整然と並んでいる。


すすむは一つひとつ手に取り、丁寧に収納していった。


「……新しい環境でも、気を引き締めて参りましょう」


静かに呟き、最後の荷物を収納した。


荷物の収納が終わると、すすむは三人を高級旅館Aへ案内した。


二階の客室(大)は、家族で暮らすには十分すぎるほど広い。

12畳の和室、ベッドスペース、応接セット、専用の浴室。

まるで上質なスイートルームのようだ。


「こちらを、当面のご住居としてお使いください。

 生活に必要なものは、後ほど収納からお戻しいたします」


ハンスは深く頷いた。


「……本当に、ここに住んでいいのか?」


「もちろんでございます。

 皆さまが快適にお過ごしいただけることが、何よりでございます」


リリアは感動したように部屋を見渡し、レミーは早速ベッドに飛び乗っていた。


「すすむさんも、ここに住むのよね?」


リリアが尋ねる。


すすむは穏やかに微笑んだ。


「はい。私も同じ階の客室(大)を使わせていただきます。

 皆さまと同じ建物にいた方が、何かと便利かと存じます」


「それなら安心だわ」


リリアはほっとしたように笑った。


★★★★★


荷物の移動が終わると、すすむはグレンインの前に立った。

古い建物だが、ここには多くの思い出が詰まっている。


すすむは静かに頭を下げた。


「長い間、皆さまを支えてくださり、ありがとうございました」


ハンス夫妻もすすむの隣で頭を下げる。


レミーは少し寂しそうにしながらも、すすむの袖を引いた。


「すすむさん……グレンイン、なくなっちゃうの?」


すすむは優しく微笑んだ。


「ええ。しかし、ここでの思い出は消えません。

 そして、新しい旅館は、もっと多くの方々に喜んでいただける場所になりますよ」


レミーは少し考え、そして笑った。


「……うん。楽しみ!」


すすむは深呼吸し、魔力を静かに流した。


収納・置換――発動


旧グレンインが柔らかな光に包まれ、ゆっくりと消えていく。

建物の輪郭が薄れ、やがて跡形もなく消失した。


跡地には、静かな更地が広がっている。


すすむの収納欄には“旧グレンイン”の文字が追加されていた。


ハンスは息を呑み、リリアは胸に手を当てる。


すすむは落ち着いた声で告げた。


「これで準備が整いました。

 次は、この場所に新しい建物をお迎えいたします」


ハンスは深く頷いた。


「すすむさん……本当に、ありがとう」


すすむは静かに微笑んだ。


「こちらこそ、皆さまのお力になれることを光栄に存じます」


こうして、グレンイン建て替えの準備は整った。

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