第101話 高級旅館Aの内覧会
第101話 高級旅館Aの内覧会
マンハイム上級政務官を乗せた馬無し馬車が、グレンリゾートホテルの前を静かに離れていった。
その瞬間、すすむの胸の奥に、久しく感じていなかった微かな震えが走った。
――レベルアップ。
視界の端に淡い光が揺らぎ、身体の内側から魔力が膨らむような感覚が広がる。
すすむは深く息を整え、静かにステータスを確認した。
白谷すすむ LV10
体力:68
防御:64
素早さ:84
知力:88
魔力:20000
スキル
・建物LV7(消費5~10000)
・車調達・車保守LV4(消費5~1000)
・偽装LV3(消費20)
・通販LV4(消費5~100)
・収納・置換LV7
・言語LV1
魔力の数値を見た瞬間、すすむは小さく目を見開いた。
「……二万。これは、随分と増えましたね」
主な点は、
・ボーリング装置
・リゾートホテルB
・高級旅館A
・ビジネスホテルC
・従業員宿舎B
・大型重機
と言った能力が今回、備わったところだ。
声は落ち着いているが、内心では驚きを隠せない。
そして、スキル欄に新たに加わった“置換”の文字が目に留まった。
説明を読むと、既存の建物を丸ごと入れ替え、元の建物は収納されるという。
「建物の入れ替え……。これは、使い方次第で街の景観を大きく変えられますね」
すすむは、ホテルマンらしい穏やかな微笑を浮かべた。
だが、もっと気になる項目があった。
高級旅館A+ボーリング装置
「……高級旅館、ですか。これは一度、確認しておいた方が良さそうですね」
すすむは、グレンホテル裏の空き地に向かい、周囲に人がいないことを確認してから、静かに魔力を流した。
次の瞬間、和風の八階建ての建物が、音もなく姿を現した。
すすむはしばし見上げ、感嘆を漏らした。
「これは……見事な造りですね。ハンスさんたちにも、ぜひご覧いただきたい」
★★★★★
朝、すすむはハンス、リリア、レミーの三人を呼び、高級旅館Aの内覧会を行った。
建物に入った瞬間、三人は足を止めた。
「……これは、すごいな」
ハンスが低く呟き、リリアは目を丸くしている。
「レストランが広い……。お食事処って言うんですか?
内装は変わった趣ですが、味わいがある。厨房も、こんなに設備が整っているなんて」
すすむは穏やかに微笑み、案内を続けた。
「一階はロビー、事務室、お食事処、厨房、そしてトイレでございます。
お食事処は団体のお客様にも対応できる広さになっております」
リリアは厨房の奥まで覗き込み、感嘆の声を漏らした。
「これなら、宴会料理も余裕で作れますね……」
「ええ。動線も良く、スタッフの方々も働きやすいかと存じます」
二階に上がると、客室(大)や娯楽室、宴会場、カラオケ室が並んでいた。
すすむはもし建て替えたら、この客室(大)をハンスさん達の住居、従業員の休憩室にしたらどうか?と提案した。
するとリリアさんが、残りの1部屋は進さんの部屋ですね、と言う。
レミーはスマートボールのレバーを引き、楽しそうに笑っている。
「すすむさん、これ面白いよ!」
「お気に召したようで何よりです。お客様にも喜んでいただけると思いますよ」
宴会場は畳敷きで、奥には舞台がある。
和風の緞帳が、異世界の建物とは思えないほどの存在感を放っていた。
「舞台まであるのか……。これは、街の催しにも使えそうだな」
「はい。用途は広いかと存じます」
三階から八階までは客室が並ぶ。
3階、4階は、客室(小)16室(ユニットバス(小)、トイレ、8畳、シングルベット)
5階から7階は客室(中)12室(風呂、トイレ、12畳、ツインベット)
8階は客室(大)8部屋(風呂、トイレ、シャワー室、12畳+8畳、ダブルツインベット)
という構成であるということを、すすむはかいつまんで説明をした。
畳とベッドを組み合わせた和モダンの部屋は、三人とも初めて見る造りだった。
「畳と言うんですか?柔らかい床に、ベッド……これは面白いわね」
「お客様の好みに合わせて、快適にお過ごしいただけると思います」
八階の大きな客室に入ると、窓からの景色に三人は息を呑んだ。
「……これは、すごい眺めだな」
「こちらは、要人のお客様にもご利用いただけるよう、少し広めに設計されております。
要人はこの8畳の寝室に泊まり、お付きの者と、
12畳のダイニングで翌日の予定について、打ち合わせをする、疲れたら、大きめのソファーで休む。
その様な使い方ができます。」
すすむは丁寧に説明しながら、三人の反応を見守った。
そして最後に、屋上の大浴場へ案内した。
半ガラス張りの内湯と、景色の良い露天風呂。
まだ温泉ではないが、設備としては十分すぎるほどだ。
「……これは、もう……」
リリアが言葉を失い、ハンスが深く息を吐いた。
「すすむさん。
もし可能なら……この建物に、グレンインを建て替えたい。
そう思っている」
すすむは静かに頷いた。
「お二人がそうお考えなら、私の能力で建て替えることは可能です。
もちろん、従業員の皆さまの意見も伺ったうえで、慎重に進めたいと思います」
リリアは目を潤ませ、レミーは嬉しそうに跳ねている。
「すすむさん、本当にありがとう!」
すすむは柔らかく微笑んだ。
「こちらこそ、皆さまのお役に立てるのであれば、これほど嬉しいことはございません」
こうして、グレンイン建て替えの方針は正式に決まった。




