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第100話 ―王女の命と、始まる街道改良―

第100話 ―王女の命と、始まる街道改良―


セシリア第3王女がグレンリゾートホテルを後にしてから三日後。

 冬の空気はさらに冷たくなり、ホテルの中庭にある池は薄い氷を張り始めていた。


その日の午前、ホテルのフロントにいたローレントが、突然固まった。


扉が開き、黒い外套をまとった中年の男が入ってきたのだ。

 背筋が伸び、歩き方は無駄がなく、視線は鋭い。

 その姿を見た瞬間、ローレントは青ざめた。


「……やべっ」


小声でそう言うと、ローレントはそそくさと裏へ消えていった。


残されたのは、困惑するフロントスタッフと、堂々と立つ男――

 エレニア行政府の上級政務官、マンハイムである。


すすむは、厨房から呼ばれて急いでフロントへ向かった。


「マンハイム上級政務官様、お久しぶりです」


すすむが丁寧に頭を下げると、マンハイムは軽く頷いた。


「ああ、すすむか。貴殿に話がある」


その声はいつも通り落ち着いていたが、どこか含みがあるように聞こえた。


すすむは案内し、誰もいないレストランの片隅の席へと向かった。


席に座ると、マンハイムは深く息を吐いた。


「実はな……王女から、エレニアからグレン村までの街道を整備せよと命令されてね」


すすむは思わず目を瞬いた。


「街道の……整備、ですか?」


「そうだ。王女は“あの道は危険すぎる。改善が必要だ”と仰っていた。

 どうやら、先日のお忍びでの旅が相当こたえたらしい」


マンハイムは苦笑した。


すすむはすぐに悟った。


(やっぱり……あの日の来訪が原因か)


王女はグレンリゾートホテルを気に入ってくれた。

 だが、エレニアからの道は険しく、冬は特に危険だ。

 王女が「また来たい」と思うなら、街道の整備は必須だった。


すすむは心の中で納得した。


(つまり……王女が来やすくするための命令、ということか)


マンハイムは肩をすくめた。


「王女の命令とあらば、我々も動かざるを得ない。

 だが、街道整備となると、時間も人手もかかる。

 そこで、貴殿の意見を聞きたいと思ってな」


すすむは少し考え、口を開いた。


「……コンクリート舗装はどうでしょうか?」


マンハイムは目を見開いた。


「コンクリート……?」


「はい。舗装すれば、馬車も通りやすくなりますし、冬でも安全です。

 それに、うちのホテルは毎日エレニアへ旅客と荷物を運んでいます。

 街道が整備されれば、双方にとって大きな利点になります」


マンハイムは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「……ふむ。確かに、舗装されれば王女も安心して来られるだろう。

 だが、施工できる者がいるのか?」


「ガンツに相談すれば、ドワーフたちが協力してくれると思います。

 彼らは小型ショベルカーの扱いも慣れていますし、コンクリートの施工も可能です」


マンハイムの表情がぱっと明るくなった。


「それは……渡りに船だな!」


すすむは微笑んだ。


「では、ガンツに話をしてみます」


「頼む。私は一泊してから戻るとしよう。

 久しぶりに、ここの料理も楽しみたい」


マンハイムは満足げに席を立った。


★★★★★


その日の午後、すすむはガンツのいるホテルのバーへ向かった。


ガンツは酒樽を運んでいたが、すすむを見ると笑顔で手を振った。


「おう、すすむ! 今日は何の用だ?」


「実は……街道の整備の話なんですが」


「街道? あのガタガタの道か?」


「はい。エレニアからグレン村までの道を、コンクリートで舗装したいんです」


ガンツは目を丸くした。


「コンクリート……って、なんだ?」


「実物を見せますね」


すすむは収納能力からコンクリートの材料を取り出し、簡単な実演をした。

 水を加え、混ぜ、型に流し込む。

 しばらくすると、固まり始める。


ガンツは目を輝かせた。


「こいつはすげぇ……! こんなもんで道を作れるのか!」


「ええ。ドワーフの技術なら、もっと効率よく施工できるはずです」


ガンツは腕を組み、にやりと笑った。


「面白ぇ! やってやろうじゃねぇか!」


すすむは安堵した。


「では、これを全部お渡しします。砂もあります。

 工事は雪が降らなければ、明日から始めてください」


「任せとけ! ドワーフの腕前、見せてやる!」


ガンツは仲間のドワーフたちを呼び集め、すぐに段取りを始めた。


★★★★★


翌朝。


グレンリゾートホテルの前の道路には、ドワーフたちが集まっていた。

 小型ショベルカーが唸りを上げ、土を掘り返している。

 ガンツは指揮を取り、仲間たちは手際よく作業を進めていた。


「よし、ここを均してからコンクリートを流すぞ!」


「了解だ!」


冬の空気の中、白い息を吐きながら、ドワーフたちは力強く動いていた。


すすむはその光景を見つめ、胸が熱くなった。


(これで……エレニアとの道が変わる)


王女の来訪がきっかけとなり、街道整備が始まった。

 それは、グレン村の未来を大きく変える第一歩だった。


すすむは深く息を吸い、静かに頷いた。


「……任せよう。ガンツたちなら、きっとやり遂げてくれる」


こうして、グレン村とエレニアを結ぶ街道の大改良工事が始まったのだった。

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