表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

幼稚園児をプリ〇スミサイルから守ったら、好きな転生チート選んでいいぞと500pt渡されたので、好きなチート選びました

作者: 萩原詩荻


 その朝、俺は仕事をサボっていた。


 いや、正確に言うと「有休」である。サボりじゃない。有休だ。

 ただ、会社のチャットには「体調不良」とだけ入れておいたあたり、大人としてのプライドは若干捨てている。

 特に予定もなく、朝からだらだらと動画を見て、気づけば十一時。


「昼なに食うかなぁ……」

 カップ麺か、コンビニ弁当か、ちょっと良いハンバーグか。

 そんなことを考えながら、俺は近所の歩道をぶらぶら歩いていた。


 と、前から、カラフルな帽子の行列が近づいてきた。


「「「せんせー、ありんこー!」」」

「道路の端っこ歩きましょうねー」


 向こうから、黄色い帽子をかぶった幼稚園児たちの列が歩いてくるのが見えた。

 先生が前と後ろで見守りながら、ぞろぞろ、わらわら、小さな足が一生懸命動いている。


 別に子ども大好きってわけでもないが、あのサイズで楽しそうに歩かれると、自然と口元が緩む。

 

 三十代独身おっさん、在宅とコンビニ往復ばかりの生活だが、

 連休でもない平日の午前中。俺は仕事をサボり、幼稚園児は列を作って散歩。

 少し幸せな気持ちになる。


 そこまで思った、ほんの一瞬後だった。


 ――タイヤの悲鳴。


 振り向く前に、耳がそれを捉えた。

 悲鳴といっても、人間のものじゃない。

 アスファルトを擦る、厚いゴムの悲鳴。


 タイヤが路面を擦る、不穏な音。

 そして、視界の端から、銀色の車が滑り込んでくるのが見えた。


 交差点を曲がり損ねたのか、轢かれたカーナビが最後の抵抗をしているのか知らないが、

 よりによって、そいつは歩道側――つまり、幼稚園児の列の方へと突っ込んできていた。


 プ〇ウス!?


「あ」


 考えたわけじゃない。

 カッコよく言えば本能的に、正直に言えば反射的に、俺の身体は勝手に動いていた。


 幼稚園児の列と、車の間に飛び出す。


 冷静に考えれば、選択肢としては大変よろしくない。

 だがその時は、マジで何も考えてなかった。


 どん、と、ドラム缶で殴られたみたいな衝撃。

 視界が反転して、世界がスローモーションになる。


 白いボンネット。割れるフロントガラス。

 車の上を転がる自分。


 それから、アスファルトに叩きつけられた。


 息が、全部どこかに行った。


 横たわったまま視線だけ動かすと、車はギリギリ、幼稚園児の列の手前で止まっていた。

 先生たちが慌てて子どもたちを後ろに下げている。


 園児の男の子がぽかんと口を開けて、こっちを見ていた。


 無事だ。


 痛みのせいで呼吸が上手くできない。

 でも、そのちっちゃな体に傷一つないのを確認できた瞬間、心の底からほっとした。


 安心した途端、世界がふっと暗くなる。


 俺はそのまま、意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


 ――ふと気がつくと、だだっ広い明るい空間にいた。


 真っ白、というより、どこまでも薄い光に満たされた、境界のない場所。

 上下も距離感もよくわからないけれど、不思議と不安はない。


「あー……これ、天国?」


 思わず口から出た言葉に、自分で苦笑する。

 天国にしては、なんかやたら質素すぎる気がする。


 そう思っていると――


「目覚めたか、心優しき青年よ」


 聞き覚えのある声が、正面から降ってきた。


 振り向くと、さっきの幼稚園児が立っていた。

 黄色い帽子に、リュック。ぱっと見、完全に園児だ。


「……青年という年でもないかなぁ。

 無事そうに見えたけど、君も車に当たっちゃった?」


 条件反射でツッコミながらも、周りを見回す。


「理解が遅いの」


 園児――らしき存在は、ため息をついた。


「ここは天国ではない。そして儂も園児ではない」


「?」


 きっぱりと言い切られて、こちらの理解が一瞬で追いつかなくなる。


「儂は別世界の神」

 園児が、胸を張る。


「お忍びで園児に紛れ込んでいたのだが、車に気付くのが遅れ、お前を事故に巻き込んでしまった」


「あー……じゃあ、もしかして」


 なんとなく嫌な予感がして、口を開く。


「俺、余計なことしなくても、みんな無事だった?」


「まあ、車を止めたのは儂じゃ」


「それは、なんというか、すんません」


 見事なまでに余計な身体を張ったらしい。

 なんだこの、勇気と無意味さを足して二で割ったみたいな最期。


「いや」

 園児――いや、神様(?)は首を振った。


「結果としてお主は儂が必要以上に力を見せずに済んだという意味で恩人じゃ。奇跡的に大人が止めた、ということでそれ以上調べられんからの」


「そうすか」


 なんか評価されたらしい。

 よくわからないが、神様の配慮的な何かに役立ったなら、それはそれでいいのかもしれない。


「それで、じゃ。まあ、礼も兼ねて、これをやろう」


 園児が、ぽん、とタブレットを差し出してきた。


 最近の神様、文明的だな。

 最新機種っぽい薄型。保護フィルムも気泡ゼロで貼ってある。


「これは?」


「起動してみ」


 言われるがままに画面をタップすると、メニューが表示された。


 ・異世界転生:200pt

 ・医学チート:50pt

 ・魔力チート:100pt

 ・剣術チート:100pt

 ・スキル成長補正:80pt

 ・不老長寿(ただし死にはする):150pt

 ・言語全理解:40pt

 ・鑑定:30pt

 ・モンスター使役:80pt

 ・ハーレム耐性:10pt

 ・コミュ力向上(※当社比):30pt

 ……などなど、延々と続く。


 他にも、ステータスオープンだの、アイテムボックスだの、テンプレっぽい単語が並んでいる。


「あー、これは、つまり?」


「うん、わかりやすく言うと」

 園児はどや顔をつくる。


「好きな転生チートをくれてやる。500ptあげるから、好きなものを選べ」


「おー」

 テンションが上がるのは仕方ないと思う。


 あれだこれだと夢想した、あの「テンプレ異世界転生特典」が、今、俺の手の中にある。

 なんか、ガチャで最高レア確定チケットを手に入れたみたいな気分だ。


「悩む時間をやろう」


 そう言って、園児はすっと姿を消した。


「すげー……こんな選べるチートなんて、ズルじゃん。なんにしよっかなー」


 俺はタブレットを抱えて、その場に座り込んだ。


 医学チートで救世主になるもいいし、剣術チートで勇者もいい。

 魔力チートで無双するのもロマンがある。


 どうやら、ポイント制らしい。

 ひとつひとつのチートに値段がついていて、合計が500pt以内なら、いくつでも組み合わせていいようだ。


 俺は、画面をスクロールしながら唸る。


 憧れはある。

 あるにはあるのだ。

 そりゃそうだ。何百回妄想したかわからない。


 剣と魔法の世界で無双して、可愛い子にキャーキャー言われたり、ドラゴンを倒したり。


 だが、現実問題として。


 そもそも、異世界って、治安大丈夫なのだろうか。

 職安もないし、健康保険もない。

 美意識が違えば、 自分視点可愛い子がいるかどうかすら賭けなのだ。

 当然、物理法則すら異なるわけで。


 どちらかというと、俺は、コンビニの新作スイーツに悩んでいる方が平和で好きだ。


「よし」


 だいぶ悩んだ末、俺はタブレットの画面に指を走らせた。


 ◇ ◇ ◇


「決まったか?」


 どれくらい経ったか分からないが、再び声がして振り向くと、園児が戻ってきていた。


「あ、園児さん」


「園児さんとは……」


「いや、神様だとは思うんですが、名前わかんなくて」


「まあ、いい」

 諦めたらしい。


「どんなのにした?」


「あ、はい。こんな感じで」


 俺は、タブレットの画面を見せる。


『・セーブ&ロード能力:100pt

 ・無病息災:20pt

 ・相手の自分への好感度がわかる:20pt

 ・身体能力微強化:30pt

 ・ちょっとだけ運がいい:10pt

 ・睡眠時間短縮:10pt

 ・好きな時点の過去に戻る:100pt

 ――他、細かい生活チートいろいろ 合計:500pt』


「ん?」


 園児が画面を覗き込んで、目を瞬かせる。


「異世界転生が入ってないぞ?」


「あ、はい」

 俺はうなずく。


「なんか異世界行くより、いろんな能力細々と持って、この世界でやり直す方が便利そうで」


「……」


「園児さん?」


「あ、ああ。異世界転生というのは、人間の憧れではないのか?」


「憧れはありますけど、なんか死ぬ世界とか行く可能性考えると、怖くて」


 俺のメンタルは、でかい芋虫に囲まれるだけで折れる自信がある。


「なるほど……最近の若者は堅実じゃの……」


 神様が、ちょっとだけ遠い目をする。


「では、仕方ない。タブレットの異世界転生の選択肢を16連打してみろ」


「え、はい」


 言われた通り、『異世界転生:200pt』のボタンを、連打する。


 ぺちぺちぺちぺち――


「おお」


 思わず声が出る。


 そこには、新しい項目が並んでいた。


『・異世界スローライフ農業(安全度:5)

 ・中世ヨーロッパ風 剣と魔法の世界(安全度:3)

 ・カードゲーム世界(安全度:3)

 ・近未来SFディストピア(安全度:2)

 ・悪役令嬢転生世界(安全度4)

 ・現代ラブコメ(安全度:5)

 ・現代野球バラエティ(安全度:1)

 ・魔王城インターンシップ(安全度:1)

 ・その他いろいろ……』


「裏技コマンドだがな」

 園児が胸を張る。


「特別だ。もう200ptやる。好きに選べ」


 そう言って、またふっと姿を消した。


「……もう200ptももらえるのか」


 タブレットに残高表示が出ている。

 “基本500pt+ボーナス200pt=700pt”


 だったら……


 ◇ ◇ ◇


「決まったか?」


 また、少し時間がたった後に、園児が戻ってくる。


「あ、園児さん」


「……うん、園児さんで、もういい。どの世界にした?」

 さすがに諦めが早くなってきた。


「あ、えと。これを」


 俺は、再びタブレットを差し出した。


『・なんでも答えがわかるチート:100pt

 ・セーブスロット拡張:50pt

 ・オートセーブ機能:50pt』


「なんでだよ!?」


 園児が魂のツッコミを入れてきた。


「え、その。もう200ptくれるというので、ずっと欲しかったアンサー〇ーカーを」


「そうじゃねぇよ、好きな異世界選べよ!」


 ああ、そっちか。


「あの、もしかして」


「なんだ」


「異世界行ってほしかったりします?」


 沈黙。


「……」


「……」


「……」


「……マジすか」


「いや、あのな? 悪意ではなくてな?」


「あ、はい」


「お忍びで来てると言ったろう? あまりこの世界に関与するとバレて怒られるんだ」


「なるほど」


 なんとなく、事情はわかってきた。


「ちなみに何してたんですか?」


「いや、さっきの園児の中に好きな子がいてな」


「……」


「……」


「……」


「……なんだよ」


「ちょっと理由が予想外で驚いただけです」


「いいだろ! 別に! 何もしてねぇよ!!」


 なんか、一気に親近感が湧いてきた。

 神様も恋はするらしい。園児ボディで。


「ギリシャ神話のゼウスみたいっすね」


「あれと一緒にすんな!! あいつはレジェンド過ぎるわ!!」


 必死の全否定だった。何か根深いものがあるらしい。


「わかりました」

 俺は両手を上げた。


「人の恋路邪魔する気ないんで、ちゃんと異世界選びますね。

 それなら1からチート選びなおすんで、もうちょっとだけ時間ください」


「人じゃねぇけどな……もう異世界転生分のポイントタダでいいぞ」


「大盤振る舞いですね」


「頼むわ。マジで。これ以上この世界でゴチャゴチャやってると、監査が来る」


 神様のほうが、必死に頼んでくる構図。

 なんだこの転生案件。


 ◇ ◇ ◇


「決まったか?」


「あ、園児さん」


「……どの世界にした?」


「現代ラブコメにしました」


「剣と魔法じゃないんだな。一番人気だぞ」


「憧れはありますけど、色んな主人公みたいに勇者だの転生賢者だの、要領よくやる自信ないので」


「こんだけチートあってもか?」


「結局使い手次第かなーって」


 俺は苦笑しながら、最終確定した項目を見せる。


・現代ラブコメ(安全度5):0ptサービス

・セーブ&ロード能力:100pt

・無病息災:20pt

・相手の自分への好感度がわかる:20pt

・記憶保持:10pt

・ちょっとだけ運がいい:10pt

・好きな時点の過去に戻る:100pt

 その他細々したチート多数


「……欲張ったなぁ、お主」


「ポイント制って聞くと、ついギリギリまで使いたくなる性分で」


「人間あるあるじゃな……まあいい。じゃあ、行ってこい」


 神様園児は小さくため息をついて、それでもどこか満足そうに笑った。


「はい、ありがとうございます。園児さん。またどこかで」


「もう会うことはないだろうよ。転生したら、儂の管轄の外じゃからな」


 そう言って、神様の姿が遠のいていく。


 視界が白く染まり――


 俺の、二度目の人生(ジャンル:現代ラブコメ)が、始まった。


  ◇ ◇ ◇


 ――それから、約一か月後。


 新しい世界での生活にも、だいぶ慣れてきた頃だった。


 俺は今、大学一年生だ。

 転生特典で、まあまあ整った顔と、そこそこ動く身体をもらい、偏差値中の上くらいの大学に通っている。


 学年一の美少女だの、幼なじみだの、ミステリアスな先輩だの、テンプレみたいなメンバーが揃っているあたり、さすが「現代ラブコメ世界」である。


 そんなある日の夜。


 prrrr――。


『今日はなんだ』


 スマホから聞こえるのは、聞き慣れた園児ボイスだった。


「あ、はい。そっちの恋愛の進行模様はどうです?」


『今日はな、一緒に手押し車で遊んだぞ』


「脈ありじゃないすか?」


『だよな!? こっちの文化的に、手押し車で遊ぶのは割と親しい証なんじゃが』

 急にテンションの上がる神様。


『あっちから「いっしょにやろー」って言ってくれてな! これは、かなりポイント高いと思うのだが!』


「高いと思います」

 俺は真面目に頷く。


「次のステップは?」


『どうしたものかと悩んでおる。何かアドバイスはないか』


「じゃあ、次は砂場で隣に座ってみましょう」


『……人間界の恋愛指南を神が受ける日が来るとはな』


「人じゃないんでしたっけ」


『そこだけは譲らん』


 電話の向こうで、ふんと鼻を鳴らす気配がした。


「そっちは?」

 今度は園児――神様が聞いてくる。


『そっちの恋愛はどうなんだ』


「あ、はい。学年一の美少女と喧嘩しながら卓球しました」


『……面白そうなことしてんな。なんで卓球なんだ』


「よくわかりません」


 セーブ&ロードを駆使して、なんとか「初対面でドン引きされる未来」を回避し続けた結果が、今の「喧嘩するほど仲がいい(予定)」状態である。


『それ、かなりフラグ立っているのではないか?』


「ですよね?」


 好感度がわかるチートを使えば、数値の変化もわかる。

 でも、それをあえてぼかして、ランク表示だけしているのは、自分でもなかなかロマンチストだと思う。


『近いうち飲むか』


「はい、ぜひ。ビールの味、教えてくださいよ、神様基準で」


『転生先で未成年だろうが』


「この世界のこの国、15歳から飲んでいいんですよ」


『嘘つくな』


 そんなふうに、神様とおっさんの、よくわからない電話は続く。


 たぶんこれからも、何度も。

 こっちの世界の恋愛の進み具合と、あっちの世界の砂場事情を交換しながら。


 ――俺は、


 異世界転生チートの中から、


 ・神様と電話で話せるチート:200pt


 を選んだことを、わりと本気で「当たり」だったと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ