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最終章、優劣なんていらないって言える日が来た

どこまでも白く、果てしない空間。

俺たち十一人、手を繋んで立っていた。


正面に、ただ一人。


ゼノ・オリジン。


見た目はごく普通の青年。

黒いパーカー、ジーンズ、くたびれたスニーカー。

でも瞳だけが、何万年も凍りついたままだった。


「……来てくれたんだな」


その一言で、世界が音を失った。


【絶対領域展開:全スキル・全ステータス・全概念無効化】


ステータスが真っ白に消える。

レベルも魔力も誓約も、全部が「なかったこと」にされた。

体が鉛みたいに重くなる。

十人も同時に膝をついた。雷も氷も光も狂気も、全部消えた。


俺は必死に立ち上がろうとした。

でもゼノはただ一歩踏み出しただけ。

それだけで右腕がぐにゃりと折れ、肋骨が何本も砕けた。

血が噴き出して、地面にぶちまけられる。


「痛いか?」


ゼノの声は静かで、どこか懐かしそうだった。


「俺も、昔は痛かった」


彼はゆっくり語り始めた。


俺は最初、この世界に呼ばれたただの大学生だった。

名前はゼノ。

最初は嬉しかった。ステータスが上がる。仲間が増える。

みんなで笑って、酒を飲んで、夜通し語り合って。

でも、すぐに気づいた。


強くなった仲間が、昨日まで一緒にいた弱い奴を踏みつける。

昨日まで弱かった奴が強くなって、また新しい弱い奴を踏む。

優しさは強さの前で脆く、愛は嫉妬に負ける。

救った町は次の戦争で焼き払われ、

守った少女は次の英雄に奪われる。


何度も何度も繰り返した。

何百年、何千年。

仲間は死に、恋人は離れ、俺だけが残った。

最後にはもう、誰も信じられなくなった。


だから決めた。

「優劣そのものを終わらせよう」って。


四大陸もヴァルハラも深淵も、全部俺が作った。

転生者を呼び、試練を与え、絶望させ、這い上がらせ。

いつか誰かが「強さなんか、いらない」と言う日を待ってた。

白瀬みゆを深淵に落としたのも、蒼を底辺にしたのも、

全部、実験だった。


「……でも、お前はまだ“強さ”に縋ってる」


ゼノの足が、俺の背中を踏みつける。

背骨がバキッと鳴った。

血の味が口いっぱいに広がる。


「だから、全部奪う」


十人が這いながら近づいてきた。

スキルはない。魔力はない。

でも、彼女たちは血まみれのまま、俺のそばに来てくれた。


ミャウナが、震える唇で頬にキス。

「……蒼は、私の宝物だから」


リナが、涙でぐしゃぐしゃの顔で額にキス。

「……あなたがいなかったら、私はもう生きてない」


セレリアが、血の滴る唇でキス。

「……死ぬなんて、許さないわよ」


フレイアが、優しくキス。

「……ずっと、一緒に」


フレイヤが、聖女の微笑みでキス。

「……愛は、どんな時でも負けない」


ヘルが、氷の瞳で熱いキス。

「……お前だけは、離さない」


ブリジッタが、雷を失くした唇でキス。

「……お前がいなきゃ、雷なんて鳴らせない」


シグルドが、狂気を失くしたままキス。

「……お前がいれば、私は戦える」


最後に、白瀬みゆ。


彼女は這って俺の前に来て、

20年間、深淵で抱き続けた想いを全部込めて、

血と涙にまみれた唇を、深く、深く重ねた。


「……蒼くんは、誰よりも優しいって、知ってたよ」


その瞬間。


世界が、息を吸った。


【システムエラー 純粋感情値 臨界突破】

【絶対領域 強制解除】


熱いものが、胸の奥から溢れ出す。

スキルでも魔力でもない。

ただの、想いだった。


俺はゆっくり立ち上がった。


ゼノが、初めて目を見開いた。


「……スキルゼロで……?」


俺は静かに言った。


「お前が間違ってたのは、

 強さとか優劣じゃなくて、

 “誰かと一緒にいること”を、最初から諦めてたことだ」


ゼノの瞳が揺れた。


「……俺は……ずっと、一人だったから……」


俺は一歩踏み出した。


「もう一人じゃない」


拳を握る。

ただの一撃を、ゼノの胸に叩き込んだ。


光が爆発した。


ゼノ・オリジンが膝をついた。

初めて、人の顔で笑った。


「……ありがとう。

 やっと、解放される」


彼の体が、光の粒子となって静かに消えていく。


世界が自由になった瞬間、

空に、十一色の虹がかかった。


俺たちは血と涙と笑顔にまみれたまま、

ぎゅっと手をつないだ。


もう誰も、優劣なんて言わない。

ただ、隣にいるだけで、十分だった。


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