表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

転生者編、雪が降る館に増えた、笑顔

四大陸が静かになって半年。


俺たちはヴァルハラ北端の雪原に小さな館を建てて暮らしている。

朝はブリジッタが雷で薪割り、ヘルが氷の冷蔵庫を作り、シグルドが朝練で雪煙を上げ、ミャウナたちは俺の膝の上でじゃれ合っている。

平和すぎて、逆に落ち着かない日々だった。


その日、屋根の上で雪を見下ろしていると、ステータスが光った。


【救出要請:白瀬みゆ 残り71時間59分】

【座標:ゼロ残滓領域・最下層】


白瀬みゆ。

前世、同じクラスにいた地味な眼鏡の子。

俺が事故で死んだ後、彼女は別の王国に勇者として召喚されたらしい。


俺は屋根から飛び降り、館に飛び込んだ。


「みんな、すぐ出るぞ!」


「えー! 今いいとこだったのにー!」

「戦いか!?」

「転移30秒で開くわ」

「飯がー!」

「食ってる場合じゃねえ!」


10秒後、全員で手を繋いで転移。


着いた先は完全なる闇。

光も音も温度もない。ただ腐った魔力の残滓が漂うだけの空間。


中央に、鎖で吊られた人影。


髪は腐り落ち、目は抉られ、口は太い糸でぐちゃぐちゃに縫われ、

体は呪刻だらけで骨が折れたまま曲がっている。


俺は走った。

鎖を握りつぶし、みゆを抱き止める。


軽すぎる。

骨と皮だけみたいに軽い。


「……みゆ」


縫われた口が無理やり動いた。


「……蒼……くん……?」


「迎えに来た」


体がびくりと震える。


「……私……召喚されて……

魔力ゼロって判定されて……『役立たず』って……

王都で処刑宣告されて……逃げようとしたら追っ手が……

聖癒のスキルだけは異常だって気づかれて……

『生きた回復薬』にしようとして……

拷問されて、呪刻打たれて、深淵に落とされて……

何年も這いずって……でも蒼くんの顔だけは忘れられなくて……

『いつか会える』って自分に言い聞かせて……耐えてた……」


その瞬間、闇の奥から無数の魔力反応。


「……見つけたぞ、逃げた回復薬が」


現れたのは、王国の追討部隊。

黒い鎧の騎士団と魔術師たち。

隊長が剣を抜く。


「失敗作を生かしておくわけにはいかん。今度こそ完全に殺す」


俺はみゆを抱えたまま立ち上がった。


「……お前らがやったのか」


ブリジッタが雷を鳴らし、ヘルが氷の壁を張り、シグルドが双剣を抜く。

ミャウナが「にゃは☆ 邪魔者はまとめて消しちゃおう!」と笑う。


一瞬で終わった。


騎士団は蒸発。

魔術師たちは灰に。

隊長だけ残して、俺はゆっくり近づいた。


「お前らがみゆにしたこと、全部味わわせてやる」


隊長が震えながら叫ぶ。


「ま、待て! 王命で――」


俺は指を一本で握りつぶした。


静寂が戻る。


俺は振り返り、みゆの額にそっと唇を押し当てた。


白い光が爆発。


【ヴァルハラの誓約システム・拡張認識】

【対象:白瀬みゆ 信頼度:真・永遠∞】

【スキル「四大陸最強聖癒・極」完全借用】

【ゼロ残滓からの完全復活】


体がみるみる再生。

髪が黒く戻り、目が戻り、口の糸が解ける。


みゆがゆっくり目を開けて、泣き笑いした。


「……蒼くんが……守ってくれた……」


帰りの転移で十人目の手が増えた。


数日後、鍋を囲んでいるとき。


ミャウナがにゃは☆と笑って爆弾を落とす。


「ねえ蒼。この世界って実は一夫多妻制なんだよ?」


「……は?」


「もう九人いるんだから、みゆちゃん入っても十人目! 余裕☆」


全員が一斉に賛成。


俺は立ち上がって叫んだ。


「聞いてねえ!!」


爆笑の中、みゆが小さく呟いた。


「……私、生きててよかった」


雪が静かに降り積もる館に、十人目の椅子がちゃんと置かれていた。


転生者編完

次で 最終回

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ