第三部 クリスタルヴェール大陸「エテルノーヴァ」編 『鍵の誓いと鏡の欠片』
ヴォイドを倒した直後。
廃工場の瓦礫に虹がかかり、俺たちは顔を見合わせて笑った。
「また新しい大陸か……」
「にゃは☆ どこでもいいよ! 蒼と一緒なら!」
「……どこでも、幸せです」
ステータス画面に、新しい文字が浮かぶ。
【新依頼受注:クリスタルヴェール大陸「エテルノーヴァ」からの救難信号】
【内容:鍵結晶の黒化・全島墜落危機】
【最優先級】
俺は二人の手を強く握った。
「よし、行くぞ。エテルノーヴァへ」
ミャウナが女神の輪を回し、リナがコアを青く輝かせる。
空間が折り畳まれ、一瞬の閃光。
次の瞬間、俺たちはクリスタルヴェール大陸「エテルノーヴァ」──中央浮島「ルミナ・セントラル」の広場に立っていた。
着地の衝撃で鍵結晶がビリビリと共鳴し、無数の約束の声が耳をくすぐる。
だがその美しさが、今まさに崩壊寸前だった。
黒く腐食した結晶、千切れかけた鎖、血の色に染まったオーロラ。
島が傾き、住民たちの絶叫がこだまする。
広場の中央に、男が一人。
黒と金の重厚なローブ、顔の半分を覆う鏡の仮面。
長い金髪が風になびき、仮面の奥の瞳は冷たく虚ろ。
「──鏡神ヴァニタス・エテルノス」
スキル「虚栄鏡界」
鏡に映る全てを完璧にコピー・増幅し、自分を無限に強化する絶対チート。
一目でわかる完璧なナルシスト。
でも二度見すれば、仮面の奥の瞳が、鏡を見るたびに微かに歪んでいるのがわかる。
「ふふ……ふはははははは!!
ようやく来たか、永遠∞の絆を持つ者たちよ。
このヴァニタス・エテルノスが、お前たちの絆を鏡に映し、完璧に奪い、俺のものとしてみせよう」
鏡面が光り、無数の鏡が空間に展開。
俺たちの姿が鏡に映り、鏡の中の俺たちが「最強の自分」として動き出す。
広場の端、まだ立っている二人の女。
銀髪銀翼のセレリア・シルヴァリオ。
赤髪炎ドレスのフレイア・イグニス。
「……こんな鏡野郎に……跪くわけない……!」
「……私の炎は……鏡に映っても、消えない……!」
だがもう限界。結晶が崩れ、二人の足元が崩落し始める。
「二人ともこっちに来い!!」
セレリアが翼を一閃、俺の横に舞い降りる。
フレイアも炎を纏って並ぶ。
頭に表示。
【絆の鍵システム・パートナー候補検知】
【セレリア・シルヴァリオ/フレイア・イグニス】
【キス借用可能(上限9000)】
【完全借用には信頼度10000が必要】
【詳細:クリスタルヴェール大陸「エテルノーヴァ」古来の誓いの儀式。本気のキスで心の鍵を開き、魂を一時的に繋ぎ、スキルを借用する。鍵結晶がその瞬間を記録し、永遠に輝き続ける】
セレリアが当然のように言った。
「それ、キス借用機能でしょ? エテルノーヴァじゃ昔から伝わる伝承よ」
「……力を貸してくれ」
セレリアが頰を染めながら、
「……一回だけよ……本当に一回だけだからね!」
唇を重ねる。
銀の翼が生え、風が唸る。
【天空の槍撃 一時借用】
次にフレイア。
「……ありがとう……」
【永劫の炎牢 一時借用】
天空の槍撃で空を裂き、永劫の炎牢で鏡を焼き尽くす。
ミャウナとリナが永遠∞を注ぎ、四人の共鳴で無限魔力が爆発。
ヴァニタスの仮面が砕け、幼い顔が現れる。
「……俺は……完璧じゃなきゃ……誰も見てくれない……」
一撃で吹き飛ばした。
黒い腐食が消え、鍵結晶が青白く輝きを取り戻す。
島が水平に戻り、オーロラが虹色に戻る。
セレリアが頰を赤くしながら、
「……あのキス、一時的なものよね? ……でも、悪くなかった」
フレイアが小声で、
「……また、してほしいかも……」
俺は二人を見て、静かに笑った。
「これから本物の絆、築こうぜ」
その夜、五人でルミナ・セントラルの端に座り、オーロラを見上げた。
信頼度がゆっくり上昇していく。
そして、次の大陸「ヴァルハラ・レギオン」からの救難信号が届いた。
「また新しい大陸か……」
「にゃは☆ どこでも蒼と一緒なら最高!」
「……永遠に、幸せです」
「……翼で、みんなを守る」
「……炎で、道を照らすよ」
クリスタルヴェール大陸「エテルノーヴァ」の空に、虹がより鮮やかになった。
第三部 完




