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第8話 部下の名前

 水路の脇に作った俺達専用の養殖池に来るカモやサギなどの水鳥の羽根や肉が、商業ギルドに買い取って貰えるようになった。

 ギルドに肉などを持って行った女子三人組にはそれなりの格好をさせてあるし、食生活の改善により路上生活をしていた時のガリガリ体型ではなくなったのが大きな要因だろう。

 そう信じたい。

 まさかあの商業ギルドのバイヤー担当のオヤジ、幼女が好きな変態ではないだろうな?……なんて冗談はやめておこう。俺の手下に幼女は居ない、と言うか、幼女って年齢的な定義はあるのかな?


 現在の年齢は、部下のチビッ子三人が上から自称だが十一、十、九歳。

 女子三人が十、十、九歳。最後の子がもうすぐ誕生日らしいので三人とも十歳になる。

 ジュージュージューと何か焼いてる音みたい。

 ちなみに彼ら彼女らに血の繋がりがあるかどうかは定かではない。六人ともが両親の顔を知らず、いつの間にか行動を共にするようになっていたそうだ。


 俺とチビッ子三人は冒険者ギルドに所属しているが、女子三人は冒険者とは極力接触させたくないので商業ギルドに頼み込んで見習い扱いにしてもらった。

 彼女達にはこの一年間、時間を見付けてはマナーを仕込んだり文字を教えたりと、世渡りに必要なテクニックの最低限のものは与えておいた。

 これがあると無いとでは、雇い主からの評価に雲泥の差が現れると身をもって知っているからだ。


 俺がこの世界の文字の読み書きが出来るのは、冒険者ギルドの自称高学歴女(学歴詐称)のデボラ女史にムチを片手に叩き込まれていたからだ。

 実際には言葉よりムチを貰う方が多かった気がしてきた……。

 ともかく俺が施した教育の甲斐があって、三人は商業ギルドでアイドル的存在の地位を確保しつつある。やっぱり可愛いはこの世界でも正義だったと一安心。

 冒険者ギルドは正直あてには出来ないので、商業ギルドに伝手を作ろうって作戦の初期段階は成功だな。


 俺が商業ギルドの中に有力な伝手を得るのはまだ先になりそうだが、少なくとも女子三人の食料事情は大きく改善された。

 冒険者ギルドと違って、昼食は客の食べ残しを一つの皿に集めた物ではなく、職員食堂の賄い料理を食べさせて貰っているらしいからね。

 お陰でドジョウやたまに鳥肉を食べらるようになってもまだ少し貧相な体つきだったのだが、今では普通の家庭で育てられたみたいに健康体である。

 服や布も廃棄するようなものではなく、古着屋で中級品として売っているような物も頂いたりしているし。


 俺を取り巻く状況にも変化はある。

 俺が内緒でカミキリおばさんと呼んでいたクレーマーおばさんだが、一度良い子判定を与えた子供には途端に対応が甘くなるらしい。

 今では仕事に行くとおやつをくれたり食材をくれたり。

 俺がそうなるまでにそこそこの時間が掛かったのは、以前の俺のクチと素行の悪さが原因だったらしい。


 俺のことは置いといて、元クレーマーおばさんは小物を扱う雑貨店を営む女主人である。

 商品は専門の工員に作らせているのだが、目玉商品も無く、以前から売り上げが足りないとぼやいていた。

 定番の手押しポンプは既に誰かによって実用化済み。

 紙に鉛筆、変な臭いのしない植物石鹸を俺が製法を教えるのは不自然すぎる。

 なので余っていた針金で手遊びしながら、偶然を装ってクリップを教えてやった。

 植物原料の紙が無いのにクリップを教えてどうする? と言う突っ込みもあろう。

 紙を挟むのが目的ではなく、付箋紙や栞の代わりにしたり、可愛い形のクリップをアクセサリーにしたりと別の用途を提案したのだ。


 お陰でカミキリおばさんは無事にクリップおばさんにクラスチェンジを果たし、特許を取ってウハウハになったのだ。

 そのおばさんの名前はカミィ・キリー。あの駄洒落下手な神様の意思をとても強く感じるのは何故だろう。

 まさかこの人も、あの駄洒落下手な神な下僕の設定を受けてる人か?


 ちなみに店名は『雑貨屋 蝶の舞い』。

 幼虫の時は嫌われものでも、成虫になると人気者になることから出世や将来の成功を意味するのだとか。

 まさか、カミィさんがあの時俺に言ったサナギとは、この蝶を指していたのか?

 聞けば「なんだい、クソガキ、勘違いしてんじゃないよ」と言われそうだから聞かないけど。

 カミィさんが良くしてくれるようになって、部下のチビッ子達三人も女子三人組と同じように体が成長してきている。

 背丈的に俺とそう変わらないので、もうチビッ子とは呼べないけどな。

 俺自身もチビッ子なのだから俺がアイツらをチビッ子っと呼ぶには元々無理があったのだが、何せ精神年齢的な物に差があるからね。


 それで名前のことなのだが、戸籍も無ければ親も居ないストリートチルドレンの名前なんて、雇い主が勝手に決めても問題が無い。

 もし仮に本人が俺はマックラーレンだと名乗っても、雇い主がその名を気に入らなくて「お前は今日からベネトーンだ!」と変えてしまうことがある。

 まぁ戸籍がある訳でもないし、身分証明書代わりになるギルドカードがほぼ審査無しで作れるような世界なのだから、名前なんかに大した意味は無いのかも。

 ゲームを舞台にした異世界と違ってここではステータスなんて表示されないから、親が付けた名前を確認する術も無いのだし。


 名前があろうが無かろうが、冒険者ギルドはストリートチルドレンには勝手に番号を付けて呼んでいた。

 しかしバウンサーなど将来的にギルドで雇う候補になると、名前を付けて呼ぶようになる。

 ある意味これも人心掌握の一手だ。ちゃん名前で呼んで欲しけりゃ、ギルドの役に立つ人間になれって言ってるようなものだからね。


 俺の部下になった三人組も番号で呼ばれていたけど、バウンサー候補の俺は直属の部下に名前を付けても良いらしい。その代わり部下の管理は俺が全部することになる。

 つまりギルドがラクをするための処置な訳だ。 

 名前を考えるのも面倒なのでイー、ロー、ハーと呼ぼうと思ったが、居るか居ないか分からないが同じ転生者の耳に届くのは避けようと思ってアルフ、ペータ、ガルマンと呼ぶことにした。お分かりの通りギリシャ文字のアレンジだ。

 

 女子三人組はこの世界でも普通に使われている名前で捻りも何もなくイータ、シータ、ミュー。

 何となく可愛いと思える韻の文字を選んでみたが、バタ臭い外見が趣味じゃないから微妙なんだよなぁ。

 商業ギルドは冒険者ギルドと違って番号では呼ばないので、俺が勝手にそう呼んでいたのをそのまま採用してくれた。

 チビッ子達の呼び方を変えるとギルドカードを作り直すことになる。

 それも俺の仕事になった。鉄のカードは名前を塗料で書いてあるから消して書き直すだけで済むから簡単なものだ。

 作業をしながら、こんな物で身分証明書になるのかと改めて疑問を感じたのだが。



「セルバンっ! 早くお供えプリーズっだ!

 毎日お供えをすると言っただろうが!」


 ちょいワル神ジローは転生させる前の魂が言った『気が向いたら毎日お供えします』の『気が向いたら』の部分を忘れているのだが、ケント神は敢えてそこを指摘しない。

 彼のキャラは狩りの最中で、ちょうど運悪く魔虎と遭遇してピンチになったところだからだ。


「見捨てて次のキャラにするか、それとも助けるか。それが問題だ」

と腕を組んで暫く悩んでいるうちに、逃げ出したキャラの背中に虎の爪が深い傷痕を残す。


「これはきっと新しいキャラを作れと言う神様のお告げですね」

「そう言うお前も一応は神様だぞ」

「いやぁ、私の神っぷりなんて次長程じゃないですから。

 あー、死んだな、これ」


 部下のディスプレイにゲームオーバーの文字が表示されたが特に悲しむ訳でもなく。


「えーと、次のキャラになる魂、探してきま~す」


 部下は何やら手にリストを出すと、次長の空間からヒュンと音を残して退出する。

 転生させた人物が一年で死亡すると査定に大きく響くのだが、彼は昇進する気が全く無い。ずっと気楽なヒラ神員でいるつもりなのでこんな適当なプレイが出来るのだ。


「そろそろ新しい部下と入れ替えるか」

と、ジロー神が真剣に神事移動を考え始める。


「あ、それは困りますっ!」


 何の前触れ無く、出ていったばかりの部下が慌てて戻ってくる。

 リストラを避けたいのは、再就職するにしても就職活動するのが面倒だと思っているからだ。

 それなら真面目に働けと思うのだが、神が真面目に働くと人間界への過ぎた干渉になるのも考えものなのである。

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