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第79話 水路からの

 二階の居室で一晩ドーリアさんに抱き付かれていたみたいだが、悲しいかな起きるまで一切気付かなかった。

 我が家では一部屋に子供達が六人並んで寝ているのだから間違いを起こす心配は無いけど、寝起きに発育の良いドーリアさんの体を見ると男の生理現象が自己主張しているからダブルで元気になってしまう。

 俺の警護が彼女の任務といえ、隣で寝る必要はないと思うのだ。


 一回に降りて閂を外して外に出る。やはりいつもより早い時間だと思うが仕方がない。護衛付きで公衆トイレに入り、個室の中までついて来るのは断固拒否してさっさと用を足す……一体何のプレイだよ?


 村の公衆トイレには逆サイフォンの原理を利用して天井に水を溜めてある。竹のような丈夫で中に穴が空いている植物があったお陰で通水路が比較的簡単に作れたんだ。

 ジャー水を流してから手を洗う。これもペットボトルを利用した簡易蛇口と同じような仕掛けを作っている。


「やっぱりおかしい。

 王都にもこんな便利な仕掛けは無い。トイレにここまで手間を掛ける変態はお前だけだ。

 そのうち、尻をスライムに舐めさせるようになるかもな」

「幾らなんでも、そんな変態チックなことはしないよ」

「なら、スライム皮でお尻を拭くとか?」


 どんだけ俺にスライムを使わせようとするんだよ?

 確かに利用出来るなら利用したいけど、スライム皮だよね……うん、無理無理。


「冗談はこれぐらいにしてやる。

 今なら水鳥が餌を食べに来ているかも知れん。撃ちに行くぞ」

「ヘイヘイ」


 どうやらクロスボウを持たせたのはそれが目的だったのか。それなら弓でも良かったのに。俺の弓の腕がそれだけ信用されていないってことだろうが、スキルのお陰でかなりの命中率を誇っているんだよ。

 それとも自分も試し撃ちしたかったのか?


 養殖池には全体を覆うように村の子供が作ってくれた鳥避けのネットを張ってある。

 それでもネットを無視して頭から突撃する強者の鳥もなかには存在する。

 俺とドーリアさんが養殖池近くに来たところに、ちょうど上空から急降下してきた鷺が網の目の間から頭を突っ込んだ。

 バシャッと音を立てて嘴を水の中に突っ込んだのと、胸肉をクッションにして網に体当たりしたのはほぼ同時に見えた。

 ポヨンとネットに跳ね返されたその鷺は、見事に小魚を咥えて飛んで行った。


「一撃必殺の跳ね返り漁……凄い力技だな。

 網目をもう少し小さくしなきゃ、要領の良い鳥に奪われ放題になるか」

「それよりネットをもう少し高い位置に張り直せば良いだろう」


 以外にもドーリアさんがまともな意見を出してくれた。網を変えるより、張る高さを変えるだけの方が出費を押さえられるから即採用だな。

 ネットに着陸して首を突っ込んでも水面に届かなければ、突っ込み損になるもんね。


「もう一羽が突っ込んで来るぞ。

 今度は跳ね返った瞬間を狙って撃ってみろ」


 ドーリアさんが急に無茶な注文を出してくる。

 鷺が上空から突撃してくる速度はかなり速く、俺の腕前で当てるのはかなり難しそう。でもやらずに文句言うと怒られそうだから言わないよ。

 クロスボウに矢をセットして、発射の構えを取って旋回している鷺を目で追う。


「ここからだと、外すと矢が川の中に飛び込むんだよな」

「回収がめんどくさいなら当てれば良いだけだ」


 何もこんな位置から撃たなくても良いと思うのだが、何か考えがあるのだろうか?

 ドーリアさんは落ちている小石を拾ってスタンバイ。

 あれ? 以前にも二人で並んで発射して、俺が外したような記憶が……うん、気のせい、気のせい。


 旋回している鷺がネットに急降下してネットにぶつかり、ネットがたわんだ瞬間が一番の狙い時になるだろう。

 ネットが突撃による運動エネルギーをかなり吸収して鷺の勢いを落としてくれるからね。


「来るぞ!」


 上空で狙いを定めた鷺が真っ逆さまに急降下を開始する。

 はやる気持ちを抑え、鷺がネットに体当たりするのを待つ。

 そしてネットにぶつかった瞬間に引き金を引いた。矢を発射してから命中するまでの僅かな時間差を考慮に入れてのことだ。


 ヒュッと音を立てて飛び立った矢は、跳ね返った鷺にヒットするタイミングでバッチリの軌道を描いて飛んで行った。


 ブチッ!


 だがここで思わぬアクシデントが発生する。今までに何度も鷺の体当たり攻撃を受けていたのか、網が破れて鷺が養殖池の中にドブンッとダイブしてしまったのだ。

 跳ね返りを前提に放った矢は養殖池の上を素通りし、サワサワと波音を立てて流れる水路へと飛んで行く。


 そして矢は虚しくも水路の中にバチャッと音を立てて飛び込む……筈だった。


「ゔぉっ!」

と、水の中から出てきた何かが絶叫を上げたのだ。

 良く見てみると石のよう見える灰色の服を着た人間らしく、矢はその額を撃ち抜いていた。

 その不振な人物は立ち上がる途中で力尽きたのか、額の矢を抜くこともなくバシャッと川の中に倒れ込んだ。


「やるなっ! さすが村長」


 ドーリアさんが感心したように叫び、ヒューッと口笛を吹いたがすぐに真面目な顔に変わると首に掛けていたシルバーのネックレスをクチを付ける。ピーっと甲高い音が発せられた。

 ボディは小さいけどホイッスルだったみたい。


 その音が聞こえたかどうかは分からないが、同じ灰色の服を着た者達が数名ザバッと水路から出て来る。

 仲間が俺の矢に当たって死亡したことで動揺しているのが離れていても感じ取れた。

 クロスボウに恐れたのか侵入者達は慌てて水路から上がると、俺から距離を開けるようにひろがりながら子供達が寝ているレンガハウスに向かって走り出した。

 パッと見た感じで5名……一人減ったから六人で来てたみたいだ。深夜ではなく朝駆けを狙ってきたとしか思えない襲撃だが目的が分からない。

 俺を狙うのではなく、今度のターゲットは村の子供達か? それともミイナさん?

 どっちにしてもレンガハウスのドアには閂が無いから外からでも開けようと思えば簡単に開けられる。もたもたしている余裕は無い。


 次の矢の発射準備を終えるまでに二十秒近くかかった。これだけの時間があれば侵入者達はクロスボウの有効射程から逃れることが出来てしまう。これならクロスボウでなく弓を持って来るべきだったか。


 ドーリアさんがヒュッと石を投げると一人の頭に命中したのだが、灰色のフードがダメージを吸収したのか倒れなかった。


「くそっ、厄介な装備だ。

 セルバン、もし撃つなら顔を狙え。あの灰色の服はかなりの防御力らしい」

「俺より子供達が危ないんだけど、どうしよう?」

「お前は自分の身の心配をしろ。間違えても剣で戦おうなどと考えるなよ」


 分かっていたけど、ドーリアさんにとって子供達の命は俺の命より軽いらしい。それなら仕方ない、怖いけど俺に出来ることをやるしかない。


「ドーリアさんは一人でも多くの敵を倒してきて」

「馬鹿っ! 私の側を離れるな」

「男には覚悟を決めて殺らなきゃいけない時があるんだよ!」


 俺はそう言い放つと我が家へと急いだ。どうやらラッシュメイデンのメンバー達がレンガハウスに居たようで、敵を中に入れまいと入り口で応戦してくれているようだ。


 畑の隣に灰色の敵が一人うずくまっているのが見えた。どうやらケンタローの攻撃を受けたらしい。夜間はパトロールモードに設定していて、リモコンでの解除をしない限り半径5m以内に立ち入った者を攻撃するのだ。

 ちなみに金属鎧を着ていても肋骨をへし折る威力のあるキックを放つ頼もしさだ。


 我が家に戻ると壁に掛けてあったランドセルのようなバッグを背負い、ケーブルで繋がったライフル型の装備を手に取る。火器には詳しくないので何となく形を思い出しながら作った魔道銃だ。

 セーフティを外してコッキングレバーを引く。これで魔石が擬似弾丸となる。あとは狙いを付けてコマンドを唱えてからトリガーを引けば発射可能だ。


 我が家を飛び出て近くの敵を探す。名前は忘れたけど、ラッシュメイデンの中で一番小柄な隊員さんが苦戦しているのが視界に入った。

 距離は20mもない。スコープはなくて大丈夫。軽く狙いを付けて、

「ファイヤー」

と小さく唱えてトリガーを引く。火薬を使っていないので射撃音も反動も無い。

 側頭部に収束した魔力を浴びた灰色の敵が一瞬で意識を失って倒れる。

 弾丸の代わりに背中に背負った魔石から魔力を供給するのでライフルではなくレーザー銃だな。


「何とかさん、大丈夫?」

「ラーテルだ。掠り傷だ、気にするな」


 彼女は掠り傷と強がって言うが腕からかなりの出血がある。とても掠り傷とは言えない状況なので、

「治療するからじっとしてて」

と言って有無を言わさず腕に手を当てる。


 少しだけいつもより本気度を上げて魔力を感じてから、

「ヒール、ヒーラー、ヒーレストっ!」

とコマンドを唱える。

 ステータスが見えるようになってから何度も試し、『応急措置』だった治癒魔法が今では『再生医療』にバージョンアップしている。勿論名前に負けないレベルの効果が得られる。

 放置すれば失血死もあり得たのでは、と思うような傷が逆再生のように数秒で塞がっていく。


「なんだコレは?」

と腕を見て驚くラーテルさんに、

「秘密ですから」

た唇に指を当ててウィンクする。

 まだ他の人達は戦闘中のようなので、そこから一番近い場所に居た敵の後頭部に一発魔力弾を命中させる。

 だがそれでは倒れず踏ん張ったところに、赤髪の隊員の左アッパーが炸裂して敵の体が宙に飛んだ。


 その隊員の怪我を治療して残り二箇所の現場に足を向ける。

 ドーリアさんともう一人の隊員の二人で一人の灰色を相手にしているにも関わらず、無傷に見える剣士が武器を構えていた。

 ドーリアさんは軽傷だがブロンドショートカットの隊員はかなりの痛手を受けているようで立つのがやっとのようだ。

 強敵と認定し、魔道銃の出力を上げての三連射は背中に二発、脇腹に一発命中したが敵はそれでも倒れない。

 そこで出来た僅かな隙を突いたドーリアさんが剣士の股間に膝蹴りを入れる。悶絶とまではいかなかったが、剣士の左手が股間を抑えたところにこめかみを狙撃してやっと倒れた。


 ブロンドショートカットを治療して最後の戦闘の加勢に入ろうとしたのだが、そこで見たくもない光景を目にすることになる。

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