第76話 村の護衛達
ソーダライトさんを連れて村に到着すると、子供達とミイナさん、それと見慣れぬ姿の五人組に迎えられた。
初めて見る顔なので、彼女達が王都からわざわざ来てくれた人だと思う。でも予想してたのと全然違ってた。
「彼女達が王都警備隊、特殊作戦班第四小隊『ラッシュメイデン』のメンバーだ。リーダー、自己紹介を」
「はっ! 私が『ラッシュメイデン』のリーダー、エイビィ・ドーリアだ。
そしてメンバーのシーマ、サレン、ウルス、ラーテル。
本日からセルバン殿及び村の護衛任務に着任します」
装備は厚手生地のグレーのタンクトップにオリーブ色カーゴパンツ、何故か白色のヘルメットに灰色の革手袋……五人共がひと昔前の建築現場のおっさんのイメージだ。
しかし、メイデンと言う名前から予想が付く通り、全員が女性で年齢も十代前半から中頃と思われるのだ……迷彩柄のズボンにタンクトップ、黒いサングラスを掛けてマシンガンを構える、ハリウッド映画のヒロインを連想して脳内変換。
五人の素材が良いだけに、そのオッサン臭漂う格好が残念過ぎる。良いものを食べているからか、それとも個人差なのか知らないが発育も良いから……敢えて何処とは言わないが。
ちなみにソーダライトさんは建設関係の部門なのでラッシュメイデンの五人の直属の上司ではない。単に階級が五人より上位である為、指揮権を持てるらしい。年齢的にもダブルスコア以上だろうし。
「子供達に怖がられないように選んだメンバーですか?」
とソーダライトさんに聞いてみる。
「特殊任務の性質上、詳細は明かせぬがメンバーは確かに厳選されていると返答しよう」
「護衛任務に就くからには、皆さん腕もかなり立つんですよね?」
「試してみるかい?」
「いえ、信用してますからだいじょ――」
途端に視界が九十度傾き、太陽が殆んど姿を消して薄く光る天の星を眺めることになった。
俺を投げたのはドーリアさんだった。全然動きが見えなかったぞ。
「まだ若いが格闘術を鍛えておるそうだ。
房中術はまだまだ仕込むには早いが、貴殿にそう言う趣味があれば」
「ありませんって!」
護衛の人とそんなことしたらダメでしょ!
それにここはドラマや映画の中じゃないんですからね!
更に言えば顔以前に大きな問題がある。俺にはミイナさんと言う擬装婚約者が居るのだよ。
「おや、私達じゃ不満かい?
この綺麗に割れた腹筋にセクシーさを感じないのか?」
タンクトップを捲って腹を見せるドーリアさん。
「そんな特殊な性癖はないです!」
性癖とか筋肉とかどうこう言う前の話なんだけど。
「これは少し鍛え直す必要があるようですね。
明日から私達とトレーニングに励みましょうか」
どうやらこの五人、まだ相当若いのに完全に頭にまで筋肉が詰まってる!
この若さで特殊チームに入るぐらいだから、エリートなのは間違いないだろうけど。
「ドーリア、セルバン殿の好みはミイナ殿のような淑やかな女性だ。彼女は一目で合格を勝ち取っているらしいからな。
つまり、諦めろと言うことだ」
ゴンタめっ! 余計なことを喋るんじゃない!
「何を言っているんです、ソーダライト副隊長!
諦めたらそこでバルクアップは終了だと言ってるじゃないですか!」
「ドーリア隊長、筋肉は不滅ですっ!」
「そうです! チキンとブロッコリーは最強です!」
この五人、仲が良いわ。でも皆筋肉好きなんだね。
でもうちの畑にブロッコリーは植えてないから出せないよ。鶏肉は狩ってくれたらいくらでも食べていいから。
と言うか、エイビィ・ドーリア隊長ねぇ……ドリアが食いたくなってきたな……米に似た穀物ってないのかな?
キヌアがあれば押し麦でも混ぜてなんちゃってご飯に……ならないな。
この世界には高いものから安いものまで色々な穀物があるみたいだから、お金さえあれば手に入るかも……くそっ! やっぱり世の中銭やっ!
それにドリアを作るにはチーズも必要だから、村では作れないか。
普段から子供達に美味しい物を食べさせていると、お金が無くなった時に食べる物に困るから贅沢はさせられないし。
「それで、今日の晩飯はどうするの?
皆の寝る場所は出来たの?」
「レンガハウスは完成していますが、繋ぎの乾燥待ちのため、本日の宿泊にテントを張っております。
食事は今夜から村で一緒に食べます。明日の朝も起床後こちらに移動します」
ドーリア隊長達五人は村の子供達とあっと言う間に仲良しになったそうで、楽しそうに晩御飯を囲んでる。
まさか王都にはこんな特殊チームがあるとは侮れないね。
今夜はナマズの照り焼き風とフライがメインディッシュで、ソーダライトさん、ラッシュメイデンの五人も美味しそうに食べてたよ。
ソーダライトさんは食べてから宿舎に戻ると言って出ていった。
◇
翌日は朝食後にミイナさんとドーリアさんを連れてハンターギルドへ。俺がミイナさんと婚約したことは既に周知されていて、他のハンターからミイナさんにちょっかいを出そうとする人は居なかった。
俺達二人より初顔のドーリアさんに対して好奇心が向けられているようだ。慎重は俺と同じくらい、ミイナさんより指一本分程低いけど胸囲ではミイナさんに勝ってる?
背中にかけても筋肉がついてるから、きっと数値的にはそれが影響しているのだろう。
残る四人は村に不審人物が入らないよう常駐してくれている。そのまま住人になってくれたら有難いけど、任務期間が過ぎれば王都に戻るんだろうね。
あっ、いつまで居るのか聞いてなかったよ。
訓練場にはジーム、ガイン、カフの三人が先に来ていてストレッチの最中だった。意外とそう言うところはしっかりやってるんだと感心したが、ジームの視線がミイナさんからドーリアさんへ移動してピタッと固定。ガイン、カフも同様だね。
お前ら、可愛い女の子なら誰でも良いんだろ?
でも作業服の前を止めていないドーリアさんも、自分の持ち物が男子に対するリーサルウェポンだと自覚して欲しい。俺も油断してたらそこに三秒以上視線をロックオンする自信があるから。
練習着に着替えると一層ピチピチ感が半端ないのに全然気にしないドーリアさんが男前過ぎ。この世界の軍隊に入ると男も女も関係無いのかな?
そのうち胸なんて飾りです、と言い出さないか心配になってくる。多分家に帰ると裸族になるんだろう。
さすがに教官のファルドさんとベルガさんは三秒ルールを守っているけど、ジーム達はルール違反を繰り返して訓練になっていないみたいだな。
俺はミイナさんとペアになっているので余計な被弾はしなかったけど、ミイナさんが居なかったら俺もジーム達みたいになってたのかも。
訓練終わりに水浴び場で汗を流していると、
「お前、ミイナと婚約したんだってな」
とジームが羨ましそうに言ってきた。うんうん、男の子ならミイナさんみたいな美少女と結婚したいと思って当然だ。そうでなければ、どこか異常があるに違いない。
「言っとくけど仲人はゴンタさんだからね」
「それに御領主様の後ろ楯があるんだろ。誰もお前には手を出さないよ。出すとしたらよっぽどの馬鹿か反社組織ぐらいだろうね」
「だよな、襲撃されても返り討ちにしてるんだし、普通なら怖くて手を出せないって」
「それが分かってるならオッケーファーム」
ジームとガインが俺を腫れ物扱いしている中で、カフが心ここにあらずって感じになっている。どうやらドーリアさんに一目惚れをしたらしい。
散々投げ飛ばされてたけど、まさか肉体的接触による快感が痛みを凌駕してたのか?
「それにしても、ドーリアさんって激ツヨだよな」
「聞いたらオークを拳で倒せるらしい。俺より恐ろしいから」
「イヤイヤ、ドーリアさん一人よりお前の持つ権力の方が恐ろしいって」
「権力なんて持ってないし」
ラッシュメイデンは五人とも素手でオークを倒せる技量があるのは本当らしいよ。首を絞めて倒すのかな?
きっとみんな格闘のスキルを持ってるんだろうけど、体格で負けてるから首を絞める体勢に持ち込むまでが難しいんじゃないかな。
そんな強い人達に守って貰えるのはとても心強いけど、そこまでして貰うのも何か申し訳ないとも思う訳だ。
国王様が護衛の派遣を決定してくれたそうだから、何か御礼をした方が良いのかな?
食べ物はダメだろうし、村で作れる物なんて本物の職人さんの作る物には敵わないし。
それなら新しい魔道具でも作ってみようか。アイロンがヒット商品になるんだから、意外としょうもない家電を魔道具にしても喜ばれると思う。さて、何を作ろうかな。
◇
「やはり持つべきは拝課金のリア友だな」
「次長にリア友が居るとは知りませんでした」
隣に向かって何気なく呟いたジロー神に無機質な声が返ってくる。
「アシスタントにえ~愛搭載人形を寄越すとは……天界も神材不足が甚だしい」
「近年の地上での転生ブームが各世界の転生数増加に拍車を掛けています。
全5963層ある異世界を72柱の転生神で管理するのは、ゴッドパワー的に無理があるのです」
この神口知能は各異世界で転生者が起こしたほぼ全ての事象を纏めたデータベースにアクセスする能力を持つ。
「マキナ研究所はこれからプライゾン王国で一番の金持ちになる確率が98%です。株があれば買えるだけ買うべきです。株が無い世界はつまらないです
……先程データベースが更新されました。
プライゾンの国王がジロー次長のリア友だったお陰でセルバンの命が助かる確率は51%です」
「随分低いな。何か問題が起きたのか?」
「推測の粋を出ませんが、闇組織が動く確率が非常に高いと考えられます。理由は……その方が面白いから……何者かがデータベースにハッキングを行ったもよう……」




