第75話 サンディ・ソーダライトさん
応接室のドアが開くと、サティアさんが一人の女性を連れてきた。
「あの……」
「不採用っ!」
アラサーは越えていそうだがかなりの美人。
だが部屋の中でガチャガチャとうるさい音を立てる鎧を着ているような人には側に居て欲しくない。
精神年齢的には歳も近いし悪くないよ。でも絶体相手にしてくれないって!
「いや、その人は違うぞ」
「はぁっ!? またかよ! 嘗めとんかっ!」
とりあえず服にカミキリムシが付いていないかチェックしておこう。前回はそれでミイナさんにフラれたと勘違いしたからね。
「ふっ、噂通りの面白い少年だな。
自己紹介させてもらうが、私は王都第四軍特種建設チーム副隊長のサンディ・ソーダライトだ。
バリシアに来るついでがあったので、王都警備隊の特殊作戦班から貴殿を警護するチームを引率してきた」
「わざわざ王都から警護する人を出してくれたの?
てことは、あの天下りの役員三人の落とし前として、王宮から金品の代わりに護衛を出したと? 」
王宮が冒険者統一協会を支配下に置けるのなら話は簡単であるが、以前のバリシア領と冒険者ギルドのような関係にあるため協会の好きなようにさせるしかないのだ。
その結果が協会の派遣した三人が主犯となった襲撃なのだから、直的じゃなくても間接的に王宮にも非があるよね、と遠回しにチクリ。
「そう受け取ってもらって構わぬよ」
ソーダライトはセルバンが特異人である可能性が極めて高いことを教えられている。
特異人は自分達と異なる感性の持ち主であることが報告されており、このセルバンの反応がまさにそれだと感じ取っていたがセルバンがそれに気が付く筈もない。
遠回しに嫌みを言ったのにあっさり肯定されたので肩透かしだよな。直接的に言うと心証を悪くするだけだし、こう言う受け流すタイプって相手にしにくい。その点、ゴンタさんの相手はラクで良い。
それに護衛を付けてくれるより現金をくれた方が良かったんだよ、好きに使えるからさ。
「チームってことは、何名か居るわけですか? 五名とか?」
「ご名答だ。よく分かったな」
「……駄洒落好きな神様のお陰様で、何となくそうかと。俺の側で一人か二人、残りで村の警備ってことで宜しいので?」
「そうだな。四名を村に付け、一名を常時貴殿に付けることになるのではないかな。詳しくは本人に聞いてくれ。私は建設馬鹿だから警備のことは知らぬ」
「なるほど。その人達が駐留する場所は決まってます?」
「ミイナ殿、ペータ殿に了解を得て村の空いた場所にレンガハウスを作らせている」
了解を得てるって……いつの間にかそんなことしてくれたんです?
それじゃもう帰ってくれと断れないよね。その辺、分かってる?
文句言う気力もないけどさ。
「メンバー構成とかは現地で説明聞くとして、食料は?」
「なるべく村の者と同じ物を食べることにする。
レーションを届けるわけにも行くまい」
「それはつまり、チビッ子達と同じ飯を食うってこと?
食材を支給してもらえるなら、それでも良いです……けど……ウナギだけはダメですよ。滅多に取れないし」
「……ケチっ!」
何たってうちのウナギは旨いって評判だから食べたい気持ちは分かるね。と言うか、ソーダライトさんは獲れ立てウナギをご馳走になる気満々だったのか?
◇
ソーダライト副隊長に連れられて村に戻る道すがら。
彼女の鎧はフルプレートではないけど、一歩足を動かすだけで金属パーツがガチャガチャと音を立てる。
どう考えても、存在を隠すつもりはないと言うか、敢えて敵に存在を知らせているような……もしくは熊避けの鈴的な?
それとも歩くと音が鳴るベビーシューズ的な発想か?
「ここはスラムのある西側とは雰囲気が違うな」
「西側には行かないから知らないけど、そんなに違うんですか?」
「あぁ、向こうはスリもまだ出るが、東側は財布袋を落としても戻ってくる」
そう言ってバッグから出したのは、少し朱く染められた革袋で軍属を表すのか紋章が入っていた。
「何かヤバそうな雰囲気の袋ですね」
「この財布袋は失くすとクビになる。いつもスリに遇わないようビクビクしながら使っていてな」
とてもそうは見えないけど、今は東側に居るからそう思えるのかな。
「ギルドに天下りしていた三人が貴殿に刺客を差し向けた件については、王宮でもまだ対応が完全には決まっていなくてな。
やはり揉めにもめているんだよ」
揉める理由は一つしかない。俺がまともな身分じゃないことだろう。
「俺らみたいな生活をしている連中なんか、人じゃないって考える偉い馬鹿が沢山居そうですからね。
人間、産まれながらの不平等も甚だしいですよ。
神様からすれば、人間なんて皆おもちゃみたいなもんでしょ……あぁ、だからレア度で区別してんのか」
悔しいけど、凄く納得したよ。
天は人の上に人を作らなかったかのも知れないけど、人の中でしっかり区別しているんだから結局意味なんて無いじゃないか。
「随分貴族に詳しいのだな。どこかで習って……いる訳でもあるまい?」
「俺の持ってる知識なんて冒険者ギルドで教えられた物か、あとは仕事先で聞いた話ぐらいです」
「ふむ、それならギルドや市井の者から一部の貴族がゴブリンの糞の如く嫌われている、と言うことだな」
その例えは初めて聞いたけど、それだけ嫌われているのは間違いないね。
「だが、そう言うことを普段から言っていると、どこで耳に入るか分からんからな。
命が惜しいなら、いやいやでも流されるままになるしかない。特に貴殿は良くも悪くも注目されているのだからな」
「はぁ……言論の自由なんて無い世界ですもんね」
「そんなものがある世界などあるものか。
仮にどこかの国がその理想を掲げたとしても、支配階級がある以上、必ず誰かが不都合な発言を封殺するだろうな」
そうなんだよね。それに自由だからと言って、何でも好き放題言って良いって意味に取って実行すると、間違いなく口論から殴り合いに発展するし。
覆水盆に返らず。一度出した言葉はもう無かったことには出来ないからね……そう分かっているけど、思ったことはつい口から出るんだからしかたない。だって人間なんだもん。
「事前に聞いていたが、貴殿からは高度な教育を受けた者でなければ出てこぬ発想や言葉が出てくるな。
やはり身分を偽っておるように感じるな」
三流の高校と大学で学んだ知識は……と言うより、小説、漫画、アニメに映画、それとネットとテレビで見たり聞いたりしたネタは、地球ではありふれた内容でもこちらでは金と同じ価値がある。
そこは良く認識しておかないとね。
「実はそれ、前世の記憶なんですよ」
「ほお、それなら尚更貴殿をこのような場所に燻らせておく訳には行かぬ。
是非とも我が建設部隊でその知識を活かしてもらいたい。それが力ある者の責務だ。
下手な隊に入れば、身分差を理由に虐めや虐待を受けるだろう」
軍に入れば収入は安定するかも知れないけど、何もかもキッチリカッチリやらないと行けない窮屈な生活を送ることになる。
そんなのは半引きこもりライフを送ってきた俺にはハードルが高過ぎる。
と言うか、この世界の人って何故か前世がどうとか言っても特に拒否反応を示さないんだよね。
普通なら頭おかしい人扱いされると思うけど。
それともどこかの高僧みたいに、ここじゃ輪廻転生の考えってデフォルトなの?
俺は違う世界から来ているから、普通の輪廻の思想からは外れていると思うけど。
それか全く相手にされていなくて、ただ完全スルーで聞き流されているだけ?
それだと悲しいな。何か少しでも驚くような反応を見せてくれないと、言った俺が馬鹿みたい。確かに馬鹿なのは否定出来ないけど。
「それで、貴殿の前世の世界には本当に言論の自由があったのか?」
「その記憶があるって話、信じてくれてるの?」
「下手にどこどこの貴族の隠し子でしたと言われると、裏を取るために人を動かさねばならぬ。
だが前世だの違う世界だのと言われると調べようが無い。そう言う気遣いからの嘘であろう?」
気遣いじゃないけど、そう言う考えも出来るのか。でも、そう言いながらも誰かしらは調査に動いているんだろうね。
「それなら貴殿の考えを全部聞いて、害のある思想を持っているようなら矯正するし、害がないのなら受け入れれば済む話だ。
内容次第では少々過激な矯正になるかも知れぬが、それは諦めてもらおう」
最後の一文が無ければ、そこそこ素直に納得しても良かったのに。
ソーダライト副隊長がこちらを振り向いてニヤリ。
「冗談だ。影から見張られるぐらいだな。矯正はやっても無意味であろう」
「どうせなら見張りもない方が……じゃあ実は護衛目的じゃなくて、まさか見張りが主目的で一人をずっと警護に付けるの?」
「バレたか。つまらんな」
今の話の流れだと、そう受け取るしかないよね。
実際には、見張っているからおかしなことを言うんじゃないぞ、って牽制のつもりなんだろう。
俺の邪魔さえしてくれなければ構わないけど、四六時中見張られるのも嫌だよね。
困ったもんだと思いつつも、安全を優先すれば仕方のないことなのかと諦めた。




